輸入貨物の関税は課税標準に関税率を乗ずることにより計算されます。
課税標準は、原則として輸入取引に際し現実に支払った又は支払われる価格を基に計算されます。「輸入取引に際し現実に支払った又は支払われる価格」は略して「現実支払価格」とも呼ばれます。
課税価格は原則として、現実支払価格に運賃、保険、ロイヤルティー等の加算要素を加算して計算されます。
目次
- 「現実支払価格」とは
- 取引価格が現実支払価格と認められない場合
- インボイス価格と現実支払価格が一致する場合
- インボイス価格と現実支払価格が一致しない場合
- 債務の弁済・相殺
- 別払金
- 値引
- 現実支払価格を構成しない費用
「現実支払価格」とは
現実支価格は、独立した売手及び買手の間で取決められた取引価格です。多くの場合、インボイス価格と現実取引価格は同じになります。
親子関係にある会社等、特殊関係にある売手・買手の間の取引においても、特殊関係にあることが取引価格に影響を及ぼしていない場合には、売手・買手の間の取引価格が現実支払価格となります。この場合には、特殊関係にあることが取引価格に影響を及ぼしていないことの証明を求められることがあるので注意しましょう。
取引価格が現実支払価格と認められない場合
次の場合には、取引価格が現実支払価格とは認められません。
- 買手による輸入貨物の処分について何らかの制限が付いている場合
- 輸入貨物の販売価格に制限が付いている場合
- 買手による輸入貨物の再販売や使用による収益が、直接、間接を問わず売手に帰属する場合
- 売手、買手の間が親子会社間等、特殊関係にあり、売買価格が影響を受けている場合
インボイス価格と現実支払価格が一致する場合
多くの取引においては、取引価格が現実支払価格となります。単純な売買契約で、輸入取引に関して輸出者に対して別払いや第三者への支払いがない場合が該当します。

インボイス価格と現実支払価格が一致しない場合
多くの場合、インボイス価格が現実支払価格となりますが、売買契約によってはインボイス価格が現実支払価格とはならない場合があります。
債務の弁済・相殺
売手が第三者に支払っている債務を買手が貨物の代金の一部として弁済した場合には、弁済した債務の額を加算して現実支払価格を計算する必要があります。

別払金
前払金等
輸入取引を始めるに当たって支払った前払金や、輸入する商品の開発費を別途支払った場合には、インボイス価格にそれらの別払金を加算する必要があります。

検査費用
買手が輸入取引の条件となる検査の費用を売手とは別の検査機関に支払った場合には、その検査費用をインボイス価格に加算する必要があります。
下記の例では、輸入取引の条件となる品質基準を満たしているか否かを検査するために輸出国の検査機関に依頼して検査を行い、検査費用を支払っています。この検査費用は、取引価格の一部であり、現実支払価格を算定する場合には、インボイス価格に加算する必要があります。

現実支払価格の構成要素とならない検査費用
買手が輸入取引とは関係なく、自己の都合で検査を行った場合は買手が検査機関に支払う費用は現実支払価格を構成しません。
例えば、下記の事例のように、輸入後の販売に必要なことから買手が輸出国の検査機関に依頼して成分分析を行い、検査機関に費用を支払った場合、この成分分析は輸入取引の条件とはされていないので、現実支払価格を算定する場合に、この検査費用はインボイス価格に加算する必要はありません。

値引
値引後の価格が現実支払価格となる場合
下記のような、通常の取引における値引きは値引後の価格が現実支払価格となります。
- 数量値引き
- 現金値引き・前払い値引き
- 旧モデル値引き
- 季節値引き
- 代理店値引き
値引前の価格が現実支払価格となる場合
クレーム処理による相殺値引き、過去の債務の弁済のための値引き等、輸入取引において特別な理由による値引きは、現実支払価格を構成する値引とは認められず、値引前の価格が現実支払価格となります。
このような値引きは別途評価申告を行うか、又は、インボイスに値引き額を明記しておく必要があります。

現実支払価格を構成しない費用
輸入後に発生する費用は、課税価格を計算する際には取引価格から控除することが出来ます。インボイスにこれらの費用が含まれており、その費用の額を明らかにすることが出来る場合には、これらの費用を控除した価額が現実支払価格となります。
これらの費用は、例えば次のような費用です。
- 輸入貨物の輸入申告の日以後に行われる据付け、組立て、整備又は技術指導に要する役務の費用
- 輸入港到着後の運送に要する運賃、保険料その他当該運送に関連する費用
- 輸入国において課される関税その他の公課
- 輸入取引が延払条件付取引である場合における延払金利
例えばDDP取引(関税込み持込渡し)では、輸出者が負担する関税、内国消費税、輸入手続き費用、輸入港から輸入者までの国内運送費用等が、契約価格から控除することが出来ます。但し、控除する金額の明細を明らかにすることが出来る場合に限ります。