EPA(FTA)原産地証明における成分表の役割
ある商社の方から、SDS(安全データシート)を手渡されて、「これでEPA原産地証明ができるでしょうか。」と聞かれたことがあります。化学品の場合、SDSを含めて、成分表では原産地証明を行うことはできません。
同様に、食品の場合も、使用原材料の表示が必要となりますが、食品に表示されている使用原材料表ではEPA(FTA)の原産地証明を行うことは出来ません。
EPA(FTA)の原産地証明を行う際には成分表あるいは食品表示のための原材料表ではなく、実際に生産工場で使用された原材料一覧表が必要となります。
この点、SDSの成分表あるいは食品表示のための原材料表と、EPAの原産地証明で必要となる原材料一覧表を混同されている方が多いようです。
また、日本商工会議所の特定原産地証明書についても、誤って化学品の成分表、食品表示の使用原材料表に基づき給されている事例があるようですので注意する必要があります。
目次
化学品の成分表と原材料一覧表
化学調製品(通常、第31類から第38類までの物品)の場合、成分表と原材料一覧表を混同してはいけない理由は、次の2つの点です。
- 成分表では、製造工場が不明で日本で製造されたことの証明にはならないこと。
例え、SDSの発行者が日本のメーカーであったとしても、日本の工場で生産されたものなのか、海外の工場で生産されたものなのかは明確ではありません。
EPA(FTA)の原産地証明を行う際には、実質的な製造が日本で行われたことを証明するために、原産地証明を行う各工程の製造工場名を明記した製造工程表が必須の資料です。 - 成分表とEPA(FTA)の原産地証明に必要な原材料表の内容が必ずしも一致しないこと。
成分表は最終製品に含まれる化合物の成分が記載されています。しかし、製品の製造に際しては、複数の成分を含む調製品が使用されている場合があります。
成分表に記載された各成分のHS番号4桁が製品と異なるため、一見すると品目別規則を満たしているように見えるときでも、製造において複数の化学物質からなる中間原料が使用されている場合があります。EPAの原産地証明においては、その中間原料のHS番号に従って、原産地基準を満たしているかどうかを判断する必要があります。
例えば、塗料を製造する場合、カーボンブラックや酸化チタン等の第28類の無機顔料ではうまく合成樹脂中に分散しないので、予め顔料を合成樹脂中に濃厚に練りこんだり、有機物質で表面処理したりして、合成樹脂に容易に分散するように処理した第32類の顔料を使用する場合が多いと思います。この場合も、SDSの成分表では、第28類の無機顔料の名前と、容易に分散できるように使用した合成樹脂や有機化合物の名前が出てきます。でも、それらは、製造に使用された原料ではないので、EPAの原産地証明を行う際には関係のない物質となります。
使用原材料表示を基に食品の原産地証明を行ってはいけない
調製食料品の場合は、一般に使用原材料の表示が義務付けられています。この食品の使用原材料の表示を基にして、原産地証明を行うことが出来るでしょうか?
化学品の原産地基準は項変更(HS4桁)又は号変更(HS6桁)となっており、多少原材料のHS番号に誤りがあったとしても、原産性を否認されることはそれほど多くないと思われます。
しかしながら、食品は類変更基準が採用されていたり、特定の原材料からの変更では原産地基準を満たさないなど、かなり厳しい基準となっている場合が多くなっています。
例えば、次のようなスイートビスケットA(第1905.31号)を我が国で製造し、タイに輸出する事例を考えてみましょう。
- スイートビスケットAの使用原材料表示
- 小麦粉、砂糖、牛乳、とうもろこしでん粉、ショートニング、バターオイル、マーガリン、全粉乳、植物油脂、ぶどう糖果糖液糖、食塩、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、香料、乳化剤
この使用原材料表示の原料についてHS番号を付けていくとつぎのようになります。(括弧内はHS番号4桁)
食品表示を基とした原材料表
- 小麦粉(11.01)
- 砂糖(17.01)
- 牛乳(04.01)
- とうもろこしでん粉(11.08)
- ショートニング(15.17)
- バターオイル(04.05)
- マーガリン(15.17)
- 全粉乳(04.02)
- 植物油脂(植物油脂の混合物の場合)(15.17)
- ブドウ糖果糖液糖(17.02)
- 食塩(25.01)
- たんぱく質濃縮ホエイパウダー(ホエイたんぱく質の含有量が乾燥状態において80%以下)(04.04)
- 香料(33.02)
- 乳化剤(グリセリンのモノ、ジ及びトリ脂肪酸エステルの混合物の場合)(38.24)
ところで、日タイEPAと日アセアンEPAの第1905.31号の品目別原産地規則は共に類変更基準(CC:HS2桁変更)です。このビスケットAの原材料は全て第19類以外に分類されているので、これらの原材料の生産地がどこであるかに関わらず、両EPAの原産地基準を満たしているように見えます。
確かに、上記の原材料全てをビスケットの生産工場が直接購入し、製造している場合は特に問題はありません。
しかし、もし、次のような原料からなるベーカリー用調製品をオーストラリアから輸入して使用していたらどうなるでしょうか。食品表示の使用原材料表には変更がありません。
ベーカリー用調製品原材料
- 小麦粉(11.01)
- 砂糖(17.01)
- とうもろこしでん粉(11.08)
- 全粉乳(04.02)
- たんぱく質濃縮ホエイパウダー(ホエイたんぱく質の含有量が乾燥状態において80%以下)(04.04)
上記のベーカリ用調製品を使用していた場合、EPAの原産地証明に必要な原材料表は次のようになります。
原産地証明書を行う際の原材料表
- ベーカリー用調製品(19.01)(オーストラリア産:非原産品)
- 牛乳(04.01)
- ショートニング(15.17)
- バターオイル(04.05)
- マーガリン(15.17)
- 植物油脂(植物油脂の混合物の場合)(15.17)
- ブドウ糖果糖液糖(17.02)
- 食塩(25.01)
- 香料(33.02)
- 乳化剤(グリセリンのモノ、ジ及びトリ脂肪酸エステルの混合物の場合)(38.24)
ベーカリー用の調製品は第19.02項に分類されます。そうすると、オーストラリア産を使用していた場合は、ベーカリー用の調製品はスイートビスケット(第1905.31号)と同じ類ですので品目別原産地規則(類変更)を満たしておらず、日タイEPA及び日アセアンEPAは利用できないこととなります。
小麦粉、砂糖、でん粉、粉乳、ホエイパウダーは単独で輸入すると何れも高い関税率や各種調整金の賦課の対象となります。日本で生産された材料を利用することもできますが、何れにしても優遇された関税枠を持っていない限り、原材料の調達費用は高騰することとなります。
ところが、これらをある割合で配合するとベーカリ用調製品として比較的低い税率で輸入することが出来ます。ですから、スイートビスケットの原材料として、第19.01項のベーカリ用調製品を用いている蓋然性はあるわけです。
特に、輸出者として原産品申告書を作成する場合は、生産者に生産工程と製造工場で直接使用している原材料を十分に確認する必要があります。
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