シリコンゴム製乳首が化粧用品?-HSコードの日本語と英語の溝

 最近、HSコードの問合せや研修資料の作成に関し、日本語と英語(条約の原文)の表記ギャップについて感じることがありましたのでご紹介いたします。何れの事例も英語ではHSコードの範囲は明確なのですが、日本語ではHSコードの範囲が不明瞭となり、関税率表解説の助けを借りないと正しい分類に辿り着くことは出来ません。

目次

シリコンゴム製乳首が化粧用品?

哺乳瓶の乳首

 イソプレンゴム製の哺乳瓶の乳首は合成ゴム製の衛生用品として、第40.14項に分類されます。
 さて、シリコンゴム製の乳首はどうでしょうか。シリコンゴムは第40類注4の合成ゴムの定義を満たさないため、合成重合体のエラストマーとして第39類に分類されます。(詳しくはこちら
 第39類の各項のテキストを逐次見ていっても適当な項は見当たらないので、その他のプラスチック製品として第39.26項に分類されるのでしょうか?
 念のため関税率表解説を見ていくと、第39.24項( プラスチック製の食卓用品、台所用品、その他の家庭用品及び化粧用品)に次のような記載がありました。

この項には、次のプラスチック製の物品を含む。

(D)化粧用品(家庭用であるかないかを問わない。):化粧セット(水差し、ボウル等)、衛生用おけ、ベッド用便器、しびん、寝室用便器、たんつぼ、注水器、洗眼器、哺乳瓶用の乳首(nursing nipples)(以下略)

 このことから、シリコンゴム製の乳首はプラスチック製の化粧用品として第39.24項に分類されることが分かりましたが、哺乳瓶用の乳首が化粧用品として分類されるのは非常に違和感があります。
 HS品目表の第33類では「化粧品」には日本語で言う通常の化粧品である「cosmetics」ばかりではなく「toilet preparations」も含まれますが、 「toilet preparations」 であれば広義の意味の「化粧品」として分類することにあまり違和感はありません。しかしどう考えても、乳首が「化粧用品」に該当するとは思えません。
 そこで、英語表記を見てみると第39.24項の規定は次のようになっています。

Tableware, kitchenware, other household articles and hygienic or toilet articles, of plastics.

 哺乳瓶用の乳首が衛生用品(hygienic articles )として分類されるのであればあまり違和感はありません。第40類のゴム製の乳首の分類とも整合性が取れています。「衛生用又は化粧用の製品」と英語に忠実な訳にしておけば、もっと分類が明確になったと思います。
 

【参考】第40.14項
 「衛生用又は医療用の製品(乳首を含み、加硫したゴム(硬質ゴムを除く。)製のものに限るものとし、硬質ゴム製の取付具を有するか有しないかを問わない。)」

 ”Hygienic or pharmaceutical articles (including teats), of vulcanized rubber other than hard rubber, with or without fittings of hard rubber.”

第39.24項を「衛生用又は化粧用の製品」と規定できなかった理由

 どうして、第39.24項において「hygienic」が日本語に訳されていないのか。この規定はHS品目表の前身であるCCCN(関税協力理事会品目表)から同じと思われ、そうするとその経緯は半世紀以上も昔の事ですからよく分かりません。
 考えられることとしては、第38.22項に「プラスチック製の浴槽、シャワーバス、台所用流し、洗面台、ビデ、便器、便座、便器用の覆い、水洗用の水槽その他これらに類する衛生用品」とあり、既に衛生用品という言葉が使用されているという事情があったのではないかと思われます。
 第38.22項の英語は次のようになっています。

Baths, shower-baths, sinks, wash-basins, bidets, lavatory pans, seats and covers, flushing cisterns and similar sanitaBaths, shower-baths, sinks, wash-basins, bidets, lavatory pans, seats and covers, flushing cisterns and similar sanitary ware, of plastics.ry ware, of plastics.

 英語では「sanitary ware」と「hygienic articles」とは別物ですが、日本語では同じ「衛生用品」ですのでどうすればいいのか、当時の担当者は困ったと思います。「hygienic or toilet articles」を「化粧用品」と訳することで妥協せざる得なかったのかもしれません。

第50類から第55類までの「織物」と第62類及び第63類の「織物類」の意味は異なる

 第50類から第55類には、紡織用繊維原料、糸及び織物が分類されます。また、第61類から第63類には衣類、タオル等の繊維製品が分類されます。
 第62類及び第63類の注1に、それぞれの類に分類される物品の定義が次のように規定されています。

第62類注1

この類の物品は、紡織用繊維の織物類(ウォッディングを除く。)を製品にしたものに限るものとし、メリヤス編み又はクロセ編みの物品(第 62.12 項のものを除く。)を含まない。

第63類注1

第1節の物品は、紡織用繊維の織物類を製品にしたものに限る。
(筆者注:第1節は第63.01項から第63.07項まで)

 さて、問題は第62類及び第63類に分類される「織物類」と第50類から第55類までに分類される「織物」の意味が同じか否かということです。 62類及び第63類の「織物類」は「類」という言葉がついているので、 第50類から第55類までに分類される「織物」よりもカバーする範囲が広いことが想像できますが、どこまで広いのでしょう?
 第63類の関税率表解説には、次のように記載されています。

この類には、次の物品を含む。
 63.01 項から 63.07 項まで(第1節)の紡織用繊維の織物類(織物、編物、フェルト、不織布等)の製品で、この表の他の部又は 11 部の他の類に属さないもの。「製品」にしたものとは、第 11 部の注7に規定するものをいう。

 確かに、 62類及び第63類の「織物類」には編物、フェルト、不織布まで、日本語では到底「織物」とは言えないものまで含まれています。「織物」は日本語では 通常「糸を縦横に組み合わせて作った布地」 の事を指し、不織布や編物には使用しませんので、「織物類」がどこまでの物品をカバーするのかもう一つ分かりません。
 そこで両者の英文を見てみると、第50類から第55類までの織物は「Woven fabrics」、 第61類及び第62類までの織物類は「any textile fabrics」となって全く異なる語句が使用されており、意味の違いは明確で、紡織用繊維製の全ての布地を含むことが分かります。
 日本語でどうしてもHSコードが不明瞭な場合に、英文を見ると一挙解決ということもあるのです。

繊維製品のHSコード

 本来、異なる英語を使用している際には、通常、 別の語句(例えば「布地」)を使用するのが適当と思われますし、全く同じ語句を利用するのであれば意味する範囲の違いを明確にするような注釈を加えることが適当と思われます。然しながら、HS品目表を訳して日本語の法律(関税定率法別表)にするときにはそうした対応をしていません。法律ではなく通達(関税率表解説)で規定すれば十分と半世紀前の人は考えたのか、それとも「織物類」とすることで「織物」との違いが明確になると考えたのか、何れにしても紛らわしいと私は思います。

繊維製品(第11部)の第61類から第63類までのHSコードについては、こちら

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