EPA付加価値基準における無償提供原材料の取扱い

 EPAの付加価値基準の原産地証明において、輸出先から無償で原材料の提供を受けていた場合にはどのように計算を行えばよいのでしょうか。
 「無償(売買価格がない。)なので考慮する必要はない。」と思われる方もいるかもしれませんが、協定上、非原産材料については計算に含める必要があります。

目次

付加価値の計算(控除方式の場合)

 関税分類変更基準では、原料が有償か無償かに関わらず、非原産材料については関税分類変更基準を満たしているかどうかを確認する必要があります。付加価値基準においても、原料が有償か無償かに関わらず、非原産材料については付加価値基準の計算に含める必要があります。
 また、計算する際の分母に輸出価格(FOB価格)を用いますが、このFOB価格についても、無償提供貨物の価格は考慮する必要があります。輸出先からの無償提供貨物を考慮せずに売買契約の価格をそのまま使用して計算すると、無償提供貨物の価額によって付加価値基準を満たせなくなってしまうことも考えられます。

 付加価値基準の計算は控除方式の場合、以下の計算式により行われることとなっています。

ここで、
RVC:域内原産割合
FOB:船積価格
VNM:産品の生産において使用される非原産材料の価額


 無償提供原材原材料を用いた場合、付加価値基準の計算方法をどのように行えばよいか解説します。

FOB価格の決定

 FOB価額の定義は協定により異なりますが、基本的には「輸送の方法を問わず、産品の買手から当該産品の売手に支払われる当該産品の本船渡しの価額をいう。」とされています。
 一方、輸入品の課税価額は、WTO関税評価協定(正式名称は、「1994年の関税及び貿易に関する一般協定第七条の実施に関する協定」。以下、「関税評価協定」という。)の規程により、「輸入貨物が輸出のために販売された場合に現実に支払われた又は支払われるべき価格(以下、「現実支払価格」という。)」を輸入貨物の課税価格の基礎とすることを規定しています。
 両者ともに、基本的には独立した第三者間の売買価格(現実支払価格)を基に算定されると考えられえます。
 EPAとWTO関税評価協定では、現実支払価格に加算すべき要素の取扱いなど、同一でないこともあると考えられます。しかし、輸入者からの無償提供貨物については、本来は輸入者から生産者が有償で取得し、その価格を出荷時のFOB価格に加算すべきものと考えられます。
 日EU・EPAでは、無償提供貨物も産品の価格に加算することを明確に規定しています。

(FOB価格とは、)支払われた若しくは支払われるべき価額がない場合又は実際に支払われた価額が産品の生産に関連する全ての費用であって、当該産品の生産において実際に要したものを反映していない場合には、輸出締約国における当該産品の生産及び当該輸出締約国の輸出港への輸送において使用された全ての材料の価額及び要した他の全ての費用。当該費用は、次のとおりとする。


  1. 販売費、一般管理費、当該産品に合理的に割り当てることができる利益、運賃及び保険料を含む。
  2. 当該産品が輸出される際に払い戻され、又は払い戻され得る輸出締約国の内国税を除く。

 このことから、無償提供原材料がある場合のFOB価格は次のようになると考えられます。
 FOB価格=売買契約に基づくFOB価格+無償提供原材料の価格

無償提供された非原産材料の価額(VNM)の取扱い

 付加価値基準の計算においては、無償提供された非原産材料の価格も非原産材料の価額として加算する必要があります。

輸入原材料の場合

 EPAでは、輸入原材料の価額は、関税評価協定に基づくCIF価格(輸入港までの運賃・保険料込み価格)により計算することとされています。
 また、我が国の輸入通関に際しては、関税定率法の規定(関税評価協定に準じたもの)によりCIF価格で申告することとなっています。
 EPAで規定されている輸入原材料の価額と、輸入申告に用いる価額は何れもCIF価額ですので、輸出先の会社から無償提供された貨物の価額は、通常、輸入許可書に記載されている課税価格と同一になります。

無償提供された輸入貨物の価額の決定方法

 無償貨物には売買価格がないので、関税評価協定第1条の「現実に支払われた又は支払われるべき価格」により価額を決定することが出来ません。その価額は関税評価協定第2条~第6条の規程により決定します。多くの場合、「同一又は同種の貨物の価格」、それにより決定出来ない場合には、「輸出国における調達価格+輸出諸経費」等を基に決定します。
 無償提供貨物では輸出者が通常より低い価格でインボイスを作成していることが散見されますので注意しましょう。

累積の規定を使用する際の注意点

 利用するEPAの締約国から原材料を輸入する場合において、この原材料がEPAの相手国の原産品である場合には、累積の規定を用いて原産材料として取扱うことが出来る可能性があります。累積の規定を使用する場合には、日本への輸入の際にEPAを利用するか否かに関わらす、相手先から原産地証明書(特定原産地証明書又は原産品申告書)を送付してもらいましょう。原産材料であることの証拠書類となります。

国内調達した非原産原材料の場合

 EPAでは、国内で調達した原材料の価格は「確認可能な最初に支払われた又は支払われるべき価額」とされています。従って、無償貨物を提供した企業の調達時の購入価格により非原産材料の価額を計算する必要があります。提供元から提供材料の購入価額の情報を入手する必要があります。

無償提供された原産材料の価額(VOM)の取扱い

 無償提供された原産材料についても、産品の価額(FOB)に加算する必要があります。これらの原材料の価格は「無償提供された非原産材料の価額(VNM)の取扱い」と同様に行います。
 従って、無償提供された原材料を使用した産品の価額をFOB*とすると

 FOB*=売買契約に基づくFOB価格+無償提供された原材料の価格

 また、

 無償提供された原材料の価格=無償提供された原産材料の価格+無償提供された非原産材料の価格

 分子を計算する際の非原産材料の価額には、無償提供された原産材料の価額は加算する必要はありません。

まとめ

 無償提供された原材料を使用した際の域内原産割合の計算式は、以下のようになります。

 RVC=(FOB-VNM)/FOB×100
   =(FOB*-VNM*)/FOB×100

ここで
  FOB*=売買契約に基づくFOB価格+無償提供された原材料の価格
  VNM*=生産者が調達した非原産材料の価額+無償提供された非原産材料の価額

 VNM*には、無償提供貨物の国内運送費を加算する必要はありません。

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