EPAの原産地規則を正しく適用するためには、「原産品」、「非原産品」及び「原産材料」、「非原産材料」という言葉を理解しておくことは必須となります。
 EPAの原産地基準では、「原産材料のみから生産される産品」があります。また、関税分類変更基準付加価値基準の控除方式は、非原産材料のみを考慮して決定します。

目次

  1. 「原産品」と「原産材料
  2. 「非原産品」と「非原産材料
  3. ロールアップとロールダウン

「原産品」と「原産材料」

 EPAの締約国で生産され、加工されて、EPA協定の原産地基準を満たすことを証明できた産品を「原産品」 と呼びます。また、産品の生産の際に使用する材料、部品のうち「原産品」であることを証明できた材料・部品を「原産材料」と呼びます。
 例えば、Aという産品がBというEPAでは原産品としてEPA税率が適用できるが、CというEPAでは原産品とは認められずEPA税率が適用できない、ということが生じます。
 特に、特に原材料を供給するサプライヤーからサプライヤー証明を提出してもらう場合には、どのEPAを利用するか、明確に指定して提出してもらいましょう。複数のEPAを利用するする場合には、全く同一の原材料についても、Dという協定では原産材料として認められるが、Eという協定では非原産材料となるということが生じることがありますので、注意しましょう。

国原産と締約国原産

 通常、二国間協定では、「日本原産品」、「タイ原産品」、「インドネシア原産品」等となり、原産地規則を考える上で、締約国の1国内での生産のみ考慮します。このような概念を「国原産」と言います。
 また、日EU・EPAでは、日本の産品は「日本原産品」ですが、EUの加盟国はEUを1国と見なして「EU原産品」となります。「ドイツ原産品」、「フランス原産品」といった捉え方はしませんので注意が必要です。
 これに対し、多国間協定のCPTPP(TPP11)では、「日本原産品」、「ベトナム原産品」といった概念ではなく、「CPTPP原産品」という捉え方をします。あたかも締約国全てを一つの国とみなしてて生産を考えます。このような考え方を「締約国原産」といいます。二国間協定の内、日・メキシコ協定は「日本原産品」、「メキシコ原産品」という概念ではなく「締約国原産品」となります。
 同じ多国間協定でも、日アセアン協定の場合は、「アセアン原産品」といった概念はなく、あくまでも「タイ原産品」、「インドネシア原産品」等と、アセアン加盟国の国ごとに原産を捉えることとなりますので注意が必要です。
 国原産か締約国原産では累積の規定を使用する場合に差が出ることがあります。
 以下に「国原産」と「締約国原産」の協定をご参考までに纏めました。 

           国原産 締約国原産
2国間協定日・シンガポール、日・マレーシア、日・チリ、日・タイ、
日・インドネシア、日・ブルネイ、日・フィリピン、日・スイス
日・ベトナム、日・インド、日・ペルー、日・オーストラリア
日・モンゴル
日・メキシコ
多国間協定日・アセアン(アセアンは加盟国毎に国原産)
日EU・EPA(EUはEU全体を1国とみなす)
CTPP(TPP11)

「非原産品」と「非原産材料」

 「原産品」でない産品を「非原産品」と呼びます。また、「非原産品」である材料・部品は「非原産材料」と呼びます。
 EPAの原産地証明を行う場合、日本の工場で生産された原材料であっても、「日本原産品」又は「締約国原産品」であると証明できない原材料は全て「非原産材料」として取り扱って証明を行っていきます。

ロールアップとロールダウン

 EPAや原産地規則の解説記事を読んでいると、しばしば「ロールアップ」、「ロールダウン」という言葉が出てきます。これらの言葉を知らなくても、「利用するEPAの原産地基準を満たして原産品であることを証明できた原材料が原産材料、それ以外は非原産材料として取扱う。」という基本を押さえておけば、特に問題はありません。この基本を少し難しく言い換えただけ、ということも言えると思います。
 とは言っても、付加価値基準を採用する場合には、「ロールアップ」及び「ロールダウン」という概念は、原産地基準の考え方を理解するためには参考となると思いますので、以下、若干の解説を致します。

ロールアップ

ロールアップの説明図

 A国において原産材料M1と非原産材料N1を使用してM2という産品を生産した場合、その製造においてM2がある協定の原産地基準を満たした場合はM2は当該協定上、A国の原産品となります。M2はさらにPという商品の製造に使用される場合、Pの原産地を決定するにあたってM2は原産材料として取扱うことが出来ます。
 付加価値基準においては、原産材料M1の価格とA国での付加価値はばかりでなく、使用した非原産材料N1の価格も原産材料M2の価格として計上できることとなります。
 このように、原産材料と非原産材料を使用して生産した産品が原産材料として取扱われることをロールアップと言います。

ロールダウン

ロールダウンの説明図

 A国において原産材料M1と非原産材料N1を使用してN2という産品を生産した場合、その製造においてN2がある協定の原産地基準を満たしていない場合はN2は当該協定上、A国の非原産品となります。付加価値基準においては、原産材料M1の価値とA国での付加価値は0と計算されることになります。(完全累積の規定を採用している協定の場合は、原産材料の価値とA国での付加価値をカウントできる場合があります。)
 このように原産材料と非原産材料を使用して生産した産品が非原産材料として取扱われることをロールダウンと言います。

日EU-EPA/TPP11の原産品申告書作成のアドバイス

コンサルティング
日EU・EPAやTPP11の原産品申告書の作成についてついてお困りではありませんか?
これまでの日本商工会議所が発給する特定原産地証明書と異なり、日EU・EPAやTPP11の原産品申告書では、第三者によるチェックがありません。
簡単に作成できますが誤った原産品申告書の作成した場合は、損害賠償のリスクや顧客からの信用失墜など大きなリスクがあります。
原産品申告書の作成に必要な根拠資料の作成から輸入国税関の調査に備えた書類の保存迄、初歩から丁寧にアドバイスいたします。
作業に着手するまでのご相談は無料です。お気軽にお問合せください。