日英EPA(日英FTA)の署名について

 日英包括的経済連携協定(日英EPA)が10月23日、東京において茂木敏充外務大臣とエリザベス・トラス英国国際貿易大臣の間で署名が行われました。(外務省の発表及び協定の条文はこちら
 外務省の協定の概要の資料を見ますと、日EU・EPAに比べて日本から英国への物品の若干のアクセスの改善が図られるようです。
 新聞報道によりますと、英国へ輸出する自動車等について、EU産の部品が使用されており、日英EPAにおいてはEUの原産品も原産材料として取扱うことが出来、これまで通りEPAを利用して英国に輸入することが出来るようです。
 日英EPAの発効までには税関の説明会が開催されると思いますので、その情報も共有していきたいと考えています。
 税関ホームページに日英貿易協定に関する関税引き下げや税関手続きについて詳しい解説資料が掲載されていますので、是非ご参照ください。

日英EPAと通関手続き・物流に及ぼす影響

 日英EPAの発効により、日英双方の関税率が現行の日EU・EPAの水準と同じになるとしても、英国のEU離脱により現実の物流を考えると、日英貿易は現行に比べてコストアップとなることが多いのではないかと思われます。日英EPAの第3・10条「変更の禁止」の条文を見ますと、EU内での貨物の保管に関する特別の規定はなく、物流面では完全に英国とEUとは分離されることとなるようです。
 「日英FTA(EPA)の大筋合意に注意すべきこと」においても触れましたが、EU域内どこで通関しても、域内は国内扱いで自由に流通させることが出来ます。イギリスがEUから離脱すると、イギリスはEUから見ると外国となり、原則としては、下記の図のように通関手続きが発生することとなると考えられます。これまで、例えばオランダのロッテルダムでヨーロッパ大陸向けとイギリス向けを一括して通関できていたものが、イギリス向けはイギリスに運搬してから通関を行うことが必要で、ヨーロッパ大陸向けとイギリス向けで2回の通関手続きが必要となります。 

ブレグジット後の物流。
但し、EU・英国間の通関手続きは、FTAの条約の内容に依存する。

日英EPAの累積に関する規定と日EU・EPA

 日英EPAの累積に関する規定は第3・5条にありますが、下記に引用しましたように、他のEPAに比べて非常に長い規定となっています。

  1. 一方の締約国の原産品とされる産品は、他方の締約国において他の産品を生産するための材料として使用される場合には、他方の締約国の原産品とみなす。
  2. 欧州連合の原産品とされる産品は、締約国において附属書三-Cに特定する統一システムの類及び項に分類される他の産品を生産するための材料として使用される場合には、当該締約国の原産品とみなす。
  3. 一方の締約国において非原産材料について行われた生産は、産品が他方の締約国の原産品であるかどうかを決定するに当たって考慮することができる。
  4. 欧州連合において非原産材料について行われた生産は、附属書三-Cに特定する統一システムの類及び項に分類される産品が締約国の原産品であるかどうかを決定するに当たって考慮することができる。
  5. 1及び3の規定は、他方の締約国において行われた生産が前条1(a)から(q)(筆者注:「十分な変更とはみなされない作業又は加工」の規定)までに規定する一又は二以上の工程の水準を超えない場合には、適用しない。
  6. 2及び4の規定は、締約国において行われた生産が前条1(a) からま(q)でに規定する一又は二以上の工程の水準を超えない場合には、適用しない。
  7. 輸出者は、3及び4に規定する産品に関し、第三・十六条2(a)に規定する原産地に関する申告を完成させるため、附属書三-Dに規定する情報を当該産品についての供給者から入手しなければならない。
  8. 7に規定する情報は、当該情報が提供された日から十二箇月を超えない期間内に供給される同一の材料についての単一又は複数の貨物について適用される。
  9. 2及び4の規定の適用上、産品が欧州連合の原産品であるかどうかを決定し、又は欧州連合において非原産材料について行われた生産を考慮するに当たっては、この章の規定に基づく原産地規則を準用する。
  10. 日本国は、自国が欧州連合との間において千九百九十四年のガット第二十四条に規定する自由貿易地域を構成する貿易協定(効力を有するもの)を締結している場合には、当該貿易協定の適用上次のとおりとすることについて欧州連合との間で合意することを追求することができる。
    1. 英国の原産品とされる産品につき、日本国又は欧州連合において他の産品を生産するための材料として使用される場合には、日本国又は欧州連合の原産品とみなすこと。
    2. 英国において英国の非原産材料について行われた生産につき、産品が日本国又は欧州連合の原産品であるかどうかを決定するに当たって考慮することができること。
  11. 英国は、自国が欧州連合との間において千九百九十四年のガット第二十四条に規定する自由貿易地域を構成する貿易協定(効力を有するもの)を締結している場合には、当該貿易協定の適用上次のとおりとすることについて欧州連合との間で合意することを追求することができる。
    1. 日本国の原産品とされる産品につき、英国又は欧州連合において他の産品を生産するための材料として使用される場合には、英国又は欧州連合の原産品とみなすこと。
    2. 日本国において日本国の非原産材料について行われた生産につき、産品が英国又は欧州連合の原産品であるかどうかを決定するに当たって考慮することができること。
  12. 両締約国は、及びに規定する合意の結果を反映するため、この章の規定に基づく累積の適用に関する更なる条件(追加的な品目別原産地規則を含む。)について交渉することができる。当該交渉により結果が出る場合には、その結果は、第二十四・二条の規定に従ってこの協定に組み込まれる。

(日英EPA第3・5条)

 日英EPAにおいて、EUの原産品を日英の原産品であるとみなすことが出来る規定はパラ2に、EUの生産を日英の生産とみなすことが出来る規定はパラ4に書かれています。ここで、この規定は附属書3Cに掲げる品目のみに適用されるとされています。附属書3Cに掲げられている物品は次のものです。
 殆どの品目がこの規定の対象となるようですが、ベーカリー用の調製品等の食品の一部や繊維原料等がこの規定の対象外となるようです。

(a) Chapters 02 to 04;
(b) heading 06.04;
(c) Chapters 07 and 08;
(d) headings 09.01 to 09.04 and 09.07 to 09.10;
(e) headings 10.01 to 10.03 and 10.05 to 10.08;
(f) headings 11.02, 11.03 and 11.05 to 11.09;
(g) headings 12.02, 12.08 and 12.10 to 12.14;
(h) Chapters 13 and 14;
(i) headings 15.01, 15.03 to 15.08 and 15.11 to 15.22;
(j) headings 16.01 and 16.03 to 16.05;
(k) headings 17.01 to 17.03;
(l) headings 18.03, 18.05 and 18.06;
(m) heading 19.03;
(n) Chapter 20;
(o) headings 21.02 to 21.06;
(p) Chapter 22;
(q) heading 23.01;
(r) headings 24.02 and 24.03;
(s) Chapters 25 to 43;
(t) headings 44.03 to 44.05 and 44.07 to 44.21;
(u) Chapters 45 to 49;
(v) headings 50.01 and 50.04 to 50.07;
(w) headings 51.04 to 51.13;
(x) headings 52.04 to 52.12;
(y) headings 53.03 to 53.11; and
(z) Chapters 54 to 97.

日英EPA附属書3C

日EU・EPAにおける自動車用の部分品の特例

 日EU・EPAにおいて、英国産品も原産品として取扱うことが出来るように合意することを追求するように規定されている(パラ10及び11)は注目に値しますが、日EU・EPAの改正なしに、日、EU双方の合意のもとに英国原産品を日EU・EPAの原産材料として認めるように規定されているのは日EU・EPAの品目別原産地基準の付録3-B-1「特定の車両及び車両の部品に関する規定」に定められている自動車用の部分品だけです。
 しかも、この規定が適用できるようになるためには、英国とEUの間でFTAが締結されている必要があります。

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