日英FTA(EPA)の大筋合意に注意すべきこと

 最新の日英EPAについては「日英EPA(日英FTA)の署名について」をご参照ください

 9月11日の外務省の発表によりますと、英国訪問中の茂木敏充外務大臣は、エリザベス・トラス英国国際貿易大臣との間でテレビ会談を行い、本年6月9日から交渉に入った日英経済パートナーシップ(日英FTA(EPA))について大筋合意に至ったことを確認したとのことです。
 英国・EU間で成立した離脱協定においては、移行期間は2020年12月31日(木)までと規定されており、移行期間終了後に日本に輸入される英国産品及び英国に輸入される日本産品については、日EU・EPAに基づく優遇税率の適用対象外となります。
 来年1月1日から日英FTAが発効すると、日本に輸入される英国産品及び英国に輸入される日本産品については、日英FTAの優遇税率の適用対象となります。報道によりますと、概ね、日EU・EPAと同様の内容となるようです。
 しかしながら、英国が日EU・EPAの第3国の扱いとなることから、EUの産品について日EU・EPAをこれまで通り適用できなくなる場合が出てくると思われますので、その点、今から対策を検討しておく必要があると思われます。この点については、日英FTAの詳しい情報が不明ですので、これまでの一般的なFTA(EPA)の協定の内容から推測したものにすぎないことをお断りしておきたいと思います。(外務省発表資料を基に8月30日付の記事を訂正、加筆しました。)

目次

  1. 日英FTAにおけるEU製原産材料/日EU・EPAにおける英国製原産材料の取扱い
    1. 日英FTAにおけるEU製原産材料の取扱い
    2. 日EU・EPAにおける英国製原産材料の取扱い
  2. 英国を欧州の物流拠点としている場合は日EU・EPAへの対応が必要
  3. 日英間の貨物をEU域内でストックしている場合の日英FTA
  4. 日EU・EPAの自動車における第三国を含む累積規定適用の可能性

日英FTAにおけるEU製原産材料/日EU・EPAにおける英国製原産材料の取扱い

日英FTAにおけるEU製原産材料の取扱い

 外務省の発表資料によりますと、日英FTAにおいては、EUの原産材料、生産を日英FTA上の原産材料、生産とみなすということです。この点で、EUの原産材料を使用して英国で生産された物品については、日英FTAを利用すれば、引き続き日EU・EPAで享受できていた税率が適用できることとなります。この点、一つの懸念材料が消えたこととなります。
 また、工作機械、繊維、自動車部品等の一部については品目別規則が日EU・EPAよりも緩和されるとのことです。

日EU・EPAにおける英国製原産材料の取扱い

 英国に日EU・EPAが適用されなくなると、英国からの輸入に関して日EU・EPAの適用が無くなることは勿論ですが、EU諸国(以下、英国は除外します。)からの輸入に関して英国の産品を原材料として使用している場合で、その原材料を原産地基準の証明の際に原産材料として取扱っている場合には、移行期間終了後EPAの適用が出来なくなる恐れがあります。(自動車部品を除く
 日英FTAでは、EUの原産材料を日英FTA上の原産材料として取扱われるとのことですが、日EU・EPAでは、英国産の原産材料に関する特別の規定はありません。本年末までに協定の修正が行われないと、現在英国からの材料を日EU・EPAの原産材料として取扱っている場合は、来年1月からは非原産材料となる可能性が大きいと思われます。
 調達先の変更や原材料の変更を検討する必要がある場合も想定されますので注意しましょう。

英国を欧州の物流拠点としている場合は日EU・EPAへの対応が必要

 これまでは英国はEUの一部でしたので、英国で一括して輸入手続きを行い、EU各国に配送するといったことが可能でした。また、英国内の倉庫で小分けし、大陸の税関で一部を通関することとなった場合においても日EU・EPAの利用に際しては積送基準(日EU・EPAでは、「変更の禁止」)が問題となることはなかったと思います。
 積送基準とは、EPAの協定締約国以外の第三国におて蔵置、積替え等を行った際には、EPAを適用する産品に対してその第三国において変更を加えてはならないという規定です。生産国から直送B/Lや通しのB/Lで運送する場合においては、そのB/Lが積送基準を満たしていることの証拠書類となります。第三国の物流拠点でいったん蔵置した場合は、輸入国税関から蔵置期間中に変更が加えられていないことの証拠書類等の提示が求められる可能性があります。
 移行期間終了後は英国はEUの一部ではなくなり、日本、EU以外の第三国としての扱いとなることから、英国の物流拠点をEU全体の物流拠点として使用している場合は、日EU・EPAを引き続き利用するためには何らかの対応を行う必要があると思われます。
 なお、外務省発表資料においては、積送基準に関しては何も記載されていません。

EU産品を英国の物流拠点から日本に輸入する場合

 EU産の産品を英国に輸送し、そこでストックしてから日本に輸送する際には、積送基準を満たさなくなる恐れがあります。特に税関監督下にある倉庫(保税地域)以外の英国の国内倉庫を物流倉庫として使用している場合は、積送基準を満たさなくなります。(日EU・EPA第3・10条第2項)
 物流ルートを見直して、EU諸国からの直送又は通しのB/Lに切り替えると積送基準が問題となることはありません。
 英国内の物流拠点が保税地域にある場合で、物流ルートを見直しすることが出来ない場合は、日本の税関に必要な手続き及び書類について相談すると良いと思います。(日EU・EPA第3・10条第4項に関するB/L以外の具体的な証明方法)

日本から英国の物流拠点を経由してEUに輸出する場合

 逆に、EU向けの産品を一括してイギリスの港湾・空港に輸送し、そこをストックポイントにヨーロッパ域内に運送している場合にも、上記と同様に積送基準が問題となります。倉庫が税関監督下にない場合(保税地域でない場合)は、積送基準を満たさなくなり、EUへの輸入に際して日EU・EPAが適用できなくなります。イギリス内の税関監督下にある倉庫に蔵置する場合は、当該倉庫内において変更が行われていないことをEU加盟国の税関に証明する必要があります。
 何れにしても、ヨーロッパ向けの産品を一括して英国で輸入手続きを行うことは、事実上出来なくなります。

(参考)日EU・EPAの積送基準(変更の禁止)の規定

第三・十条 変更の禁止
1 輸入締約国において国内使用のために申告される原産品については、輸出の後、かつ、国内使用のために申告される前に、変更してはならず、何らかの改変を行ってはならず、並びに当該原産品を良好な状態に保存するために必要な工程及びマーク、ラベル、封印その他書類を付し、又は施す工程(輸入締約国の特定の国内的な要件の遵守を確保するためのもの)以外の工程を行ってはならない。
産品の蔵置又は展示は、当該産品が第三国において税関の監視の下に置かれていることを条件として、当該第三国において行うことができる。
3 貨物の分割は、当該分割が輸出者によって又は輸出者の責任の下で行われる場合には、当該貨物が第三国の税関の監視の下に置かれていることを条件として、当該第三国において行うことができる。ただし、この3の規定は、次節の規定の適用を妨げるものではない。
4 輸入締約国の税関当局は、1から3までの規定が遵守されているかどうかについて疑義がある場合には、輸入者に対し、遵守の証拠であって何らかの方法によるもの(船荷証券等の契約上の運送書類、事実関係の又は具体的な証拠(包装の表示又は包装に付された番号に基づくもの)、産品自体に関連する証拠等)を提供するよう要求することができる

日英間の貨物をEU域内でストックしている場合の日英FTA

 日英FTAの積送基準がどのような規定となるか現在不明ですが、EU諸国の物流施設をストックポイントとすることについて特別な規定が設けられない場合は、ロッテルダム港等、EU域内の物流倉庫に一括して輸送し、そこからヨーロッパ各地に小分けして配送するような物流形態をとっている場合には、別途、イギリス向けだけをEU内の税関監督下にある物流拠点で個別に管理するか、或いは、別仕立てにして英国向けを直送するような物流の再構築が迫られる可能性があります。
 また、英国産品を一旦EU内の物流拠点にストックし、日本に輸送する場合も、追加の手続きを要求される恐れがあります。特に、英国産品とEU産品を同梱して日本に輸送しているような場合、これまでの輸送方法と異なる対応を行う必要があるかもしれません。特に、同一B/Lで英国産品とEU産品を輸送しているような場合は、どちらかの産品が積送基準を満たすことが出来なくなる恐れがあります。積送基準を満たすことが出来るように、B/Lを別々に発行するなどの対応を行う必要がある可能性があります。
 個人的な見解ですが、サプライチェーンを考えると、製造業に関する限り隣接する大きな経済圏からの離脱は思いのほか影響が大きいように思います。

日EU・EPAの自動車における第三国を含む累積規定適用の可能性

 JETROによりますと、7月10日に日英自動車業界がFTA交渉に対する要望を発表しています。その中で、「既存の日EU・経済連携協定(EPA)における自動車附属書の合意内容、および原産地規則の基本条件を維持し、日英自動車貿易におけるEU原産部品の累積を促進することなどを求めた。」とあります。
 「日EU・EPAにおける英国製原産材料の取扱い」のところで説明しましたように、日EU・EPAの利用において、これまで英国製の原材料を原産材料とすることにより原産地基準を満たしていた場合、英国のEU離脱により、日EU・EPAの原産地基準を満たさなくなる恐れがあります。
 ところが、日EU・EPAの品目別原産地基準の付録3-B-1「特定の車両及び車両の部品に関する規定」において、第87.03項(乗用自動車等)の製造において第84.07項(ガソリンエンジン等)、第85.44項(電線、点火用配線セット等)及び第87.08項(自動車部品)については、双方共通のEPA締約国で、双方が合意した場合は同国の原産品を日EU・EPAの原産品とみなすことが出来るという規定があります。
 これまで、この規定が適用されている双方共通のEPA締約国はありませんが、日英FTAが発効すると、英国が日、EU双方の共通のEPA締約国となります(来年1月から英国、EU間のFTAが発効した場合。)。日、EU双方が英国製の自動車部品について、この規定を適用することに合意すれば、英国製の自動車部品については、これまで通り、EUの原産品とみなして日EU・EPAの原産地基準を適用できる可能性があります。
 英国の日EU・EPA状の対応をどのように行うかは今のところ明らかではありませんが、もう一つの注目点であると言えるでしょう。

第五節 第三国との関係

両締約国は、統一システムの第八七・〇三項の産品の一方の締約国における生産において使用される統一システムの第八四・〇七項、第八五・四四項及び第八七・〇八項の一部又は全ての材料であって第三国を原産地とするものを、この協定における原産材料とみなすことを決定することができる。ただし、次の全ての要件を満たすことを条件とする。
(a) 各締約国が、当該第三国との間において千九百九十四年のガット第二十四条に規定する自由貿易地域を構成する貿易協定(効力を有するもの)を締結していること。
(b) 一方の締約国と当該第三国との間においてこの節の規定の完全な実施を確保する十分な行政上の協力に関する取極が効力を有していること及び一方の締約国が他方の締約国に対し当該取極について通 報すること。
(ⅽ) 両締約国が他の全ての適用可能な条件に合意すること。

日EU・EPAの品目別原産地基準の付録3-B-1「特定の車両及び車両の部品に関する規定」


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