英国のEU離脱と日EU・EPA

 英国がEUから離脱しました。
 英国・EU間で成立した離脱協定においては、移行期間は2020年12月31日(木)までと規定されていますが、移行期間に日本に輸入される英国産品については、日EU・EPAに基づく税率の適用対象となります。
 また、同様に、同期間中に英国に輸入される日本産品についても、日EU・EPAに基づく税率の適用対象となります。
 詳しくは税関ホームページの案内をご覧ください。
 以降期間終了後は英国はEUの一部ではなくなるので、英国で製造している産品に対して日EU・EPAが利用できなくなることは当然ですが、その他にも、英国内の倉庫をヨーロッパの物流拠点として使用している場合などは対応が必要となります。

日英FTA(EPA)については、こちら

目次

  1. 日EU・EPAの適用にかかる英国離脱の影響
    1. 英国産品を原産材料として使用している場合
    2. 英国を欧州の物流拠点としている場合は積送基準に注意
  2. 日・英EPAについて
    1. 日EU・EPAの自動車における第三国を含む累積規定適用の可能性

日EU・EPAの適用にかかる英国離脱の影響

英国産品を原産材料として使用している場合

 英国に日EU・EPAが適用されなくなると、英国からの輸入に関してEPA税率の適用が無くなることは勿論ですが、EU諸国(以下、英国は除外します。)からの輸入に関して英国の産品を原材料として使用している場合で、その原材料を原産材料として取扱っている場合には、移行期間終了後EPAの適用が出来なくなる恐れがあります
 調達先の変更や原材料の変更を検討する必要がある場合も想定されますので注意しましょう。

英国を欧州の物流拠点としている場合は積送基準に注意

 これまでは英国はEUの一部でしたので、英国で一括して輸入手続きを行い、EU各国に配送するといったことが可能でした。また、英国内の倉庫で小分けし、大陸の税関で一部を通関することとなった場合においても。日EU・EPAの利用に際しては積送基準が問題となることはなかったと思います。
 しかし、移行期間終了後は英国はEUの一部ではなくなり、日本、EU以外の第3国としての扱いとなります。

EU産品を英国の物流拠点から日本に輸入する場合

 EU産の産品を英国に輸送し、そこでストックしてから日本に輸送する際には、積送基準を満たさなくなる恐れがあります。特に税関監督下にある倉庫(保税地域)以外の英国の国内倉庫を物流倉庫として使用している場合は、積送基準を満たさなくなります。(日EU・EPA第3・10条第2項)
 物流ルートを見直して、EU諸国からの直送又は通しのB/Lに切り替えると積送基準が問題となることはありません。
 英国内の物流拠点が保税地域にある場合で、物流ルートを見直しすることが出来ない場合は、日本の税関に必要な手続き及び書類について相談すると良いと思います。(日EU・EPA第3・10条第4項に関するB/L以外の具体的な証明方法)

日本から英国の物流拠点を経由してEUに輸出する場合

 逆に、EU向けの産品を一括してイギリスの港湾・空港に輸送し、そこをストックポイントにヨーロッパ域内に運送している場合にも、上記と同様に積送基準が問題となります。倉庫が税関監督下にない場合(保税地域でない場合)は、積送基準を満たさなくなり、EUへの輸入に際して日EU・EPAが適用できなくなります。イギリス内の税関監督下にある倉庫に蔵置する場合は、当該倉庫内において変更が行われていないことをEU加盟国の税関に証明する必要があります。
 何れにしても、ヨーロッパ向けの産品を一括して英国で輸入手続きを行うことは、事実上出来なくなります。

(参考)日EU・EPAの積送基準(変更の禁止)の規定

第三・十条 変更の禁止
1 輸入締約国において国内使用のために申告される原産品については、輸出の後、かつ、国内使用のために申告される前に、変更してはならず、何らかの改変を行ってはならず、並びに当該原産品を良好な状態に保存するために必要な工程及びマーク、ラベル、封印その他書類を付し、又は施す工程(輸入締約国の特定の国内的な要件の遵守を確保するためのもの)以外の工程を行ってはならない。
産品の蔵置又は展示は、当該産品が第三国において税関の監視の下に置かれていることを条件として、当該第三国において行うことができる。
3 貨物の分割は、当該分割が輸出者によって又は輸出者の責任の下で行われる場合には、当該貨物が第三国の税関の監視の下に置かれていることを条件として、当該第三国において行うことができる。ただし、この3の規定は、次節の規定の適用を妨げるものではない。
4 輸入締約国の税関当局は、1から3までの規定が遵守されているかどうかについて疑義がある場合には、輸入者に対し、遵守の証拠であって何らかの方法によるもの(船荷証券等の契約上の運送書類、事実関係の又は具体的な証拠(包装の表示又は包装に付された番号に基づくもの)、産品自体に関連する証拠等)を提供するよう要求することができる

日・英EPAについて

 日・英EPAについては、今後の動向は不明ですが、たとえ、移行期間終了後に即時発効することとなり、かつ、日EU・EPAと同じ税率、原産地規則となったとしても、そのまま日EU・EPAと同じ条件で日・英EPAが利用できるかどうかは不明です。英国産品の製造にはEUの原産材料が使用されている場合も多いと思われますが、このような場合、協定で、EU原産品に対して特別な規定を設けない限り限り、日・英EPAの原産地規則を満たさなくなる恐れがあるからです。
 さらに、積送基準の規定にEU諸国をストックポイントに使用できるような規定がないと、ロッテルダム港等、EU域内の物流倉庫に一括して輸送し、そこからヨーロッパ各地に小分けして配送するような物流形態をとっている場合には、別途、イギリス向けだけをEU内の税関監督下にある物流拠点で個別に管理するか、或いは、別仕立てにして直送するような物流の構築が迫られる可能性があります。
 個人的な見解ですが、サプライチェーンを考えると、製造業に関する限り隣接する大きな経済圏からの離脱は思いのほか影響が大きいように思います。

日EU・EPAの自動車における第三国を含む累積規定適用の可能性

 日EU・EPAの品目別原産地基準の付録3-B-1「特定の車両及び車両の部品に関する規定」において、第87.03項(乗用自動車等)の製造において第84.07項(ガソリンエンジン等)、第85.44項(電線、点火用配線セット等)及び第87.08項(自動車部品)については、双方共通のEPA協定締約国で、双方が合意した場合は同国の原産品を日EU・EPAの原産品とみなすことが出来るという規定があります。
 現状、この規定により指定された国はありませんが、日・英EPAが仮に発効すれば、この規定により英国が指定されるかは注目されるところです。

第五節 第三国との関係

両締約国は、統一システムの第八七・〇三項の産品の一方の締約国における生産において使用される統一システムの第八四・〇七項、第八五・四四項及び第八七・〇八項の一部又は全ての材料であって第三国を原産地とするものを、この協定における原産材料とみなすことを決定することができる。ただし、次の全ての要件を満たすことを条件とする。
(a) 各締約国が、当該第三国との間において千九百九十四年のガット第二十四条に規定する自由貿易地域を構成する貿易協定(効力を有するもの)を締結していること。
(b) 一方の締約国と当該第三国との間においてこの節の規定の完全な実施を確保する十分な行政上の協力に関する取極が効力を有していること及び一方の締約国が他方の締約国に対し当該取極について通 報すること。
(ⅽ) 両締約国が他の全ての適用可能な条件に合意すること。

日EU・EPAの品目別原産地基準の付録3-B-1「特定の車両及び車両の部品に関する規定」


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