機械類のEPA/FTAの原産地証明と原産地
A社の日EU・EPAの原産地証明のお手伝いをした時のことです。その会社に測定機器を納入しているB社があります。A社ではB社の測定機器を組み込んだ機械を製造しています。
B社では、世界各地から部品を輸入し、日本国内で組立て、必要な検定試験を行った後に出荷しています。B社は自社でもその製品を東南アジア諸国に輸出しており、日本商工会議所から特定原産地証明書を取得しています。
A社から日EU・EPAのサプライヤー証明書を要求されたときに、B社は関税分類変更基準CTSHを満足するとして日EU・EPAのサプライヤー証明書を提出してきました。B社の製品の日EU・EPAの品目別原産地規則はCTHとなっています。
よくある事例のようにも思いますが、皆様は何が問題だと思われますか?
機械類の関税分類変更基準のCTHとCTSHが意味するもの
HS品目表の第16部(機械及び電気機器)及び第90類(医療用機器及び測定機器)において、CTHとCTSHはどのように違うのか、ここでおさらいをしておきたいと思います。
機械類の部分品のHSコードの体系
HS品目表の第16部(機械及び電気機器)及び第90類(医療用機器及び測定機器)において、原則として、機器の部分品は機器と同じ項(HS4桁)の中に、「XXXの部分品」という号(HS6桁)が設けられています。
機械類の部分品のHSコードについては、下記を参照してください。
CTH:項変更基準
製品のHSコードと原材料のHSコードを比較したときに、全ての原材料の項の番号(HSコード4桁)が製品の項と異なる場合に、EPAの優遇税率を利用できるという基準です。
製品と部品の項の番号(HSコード4桁)は同じなので、部品を組立てただけではCTHという原産地基準を満たすことが出来ません。CTHという基準を満たすためには、主要な部品は日本又は同じEPAの締約国で製造されている必要があります。
日EU・EPAでは、機械類の品目別原産地規則は、CTHが多くなっています。
また、日アセアンEPAでは、一般規則(品目別規則に記載されていない品目の原産地基準)はCTH又はRVC40%となっています。
CTSH:号変更基準
製品のHSコードと原材料のHSコードを比較したときに、全ての原材料の号の番号(HSコード6桁)が製品の号と異なる場合に、EPAの優遇税率を利用できるという基準です。
CTSHという基準では、部品と製品は号が異なるので、部品を組立てて機械を製造するだけでEPAの特恵税率を利用することが出来ます。
RCEPやアセアン諸国とのEPAにおいては、機械類の品目別原産地規則は、CTSHが多くなっています。
CTSHの協定の原産地証明をCTHの協定の原産地証明には使用できない
上記の通り、CTHとCTSHでは、特に機械類の原産地証明においては大きな違いがあります。
B社の製品は輸入した部品を組立て、必要な検定を行っています。B社が輸出している製品のEPAの品目別原産地規則がCTSHですと特定原産地証明書を取得することができます。しかしながら、それをCTHが品目別原産地規則であるEPAの原産地証明書に利用することはできません。B社の製品の日EU・EPAの品目別原産地規則はCTHですので、関税分類変更基準は利用できません。
B社の製品は測定機器ですので精度を保証する検定に大きな付加価値があるのかもしれません。そのような場合には、付加価値基準を利用することができる可能性があります。
サプライヤー証明書は最終製品の原産地規則に従う
サプライヤー証明書は、サプライヤーが提供する部品・原料が、利用するEPAの原産品であることを証明するためのものです。従って、サプライヤー証明書は、輸出者が利用するEPAの原産地基準に従う必要があります。同じ部品を同じ会社に納入するとしても、輸出者が利用するEPAが異なれば、それぞれのEPAに基づくサプライヤー証明書を提出する必要があります。
B社も、輸出者が利用するのが日EU・EPAであれば、それに基づき、自社製品の原産性を判断する必要があります。
機械類の原産地
B社の主張は、「日本で製造しているので日本製だ。」ということですが、どういった生産を行った国を国を「原産地」又は「原産国」とするかは、様々な規定があります。
日本へ輸入通関する際に申告する「原産国(原産地)」は、関税法施行令第4条の2第4項、関税法施行規則第1条の6 及び第1条の7に規定されています。この規則の原産地基準は完全生産品又はCTHが基本となっています。EPAの原産国とは必ずしも一致しないので注意が必要です。
また、輸出する際に各地の商工会議所が発行する一般の原産地証明書の原産地基準も関税法施行令の基準を準用することとなっています。従って、B社の製品は、CTHの基準を満たしていないので商工会議所から「日本原産である」ことを証明する一般の原産地証明書を取得できないこととなります。「日本で製造しているので日本製だ。」ということには必ずしもなりません。
原産地表示の関係
日本に輸入する際に、税関は正しい原産地表示がなされているかチェックを行っています。この際の判断基準も上記の関税法施行規則です。
例えば、中国で組み立てしか行っていない機械は、CTHの原産地基準を満たしていないので、「made in china」と表示すると、原産地虚偽表示と判断されます。「fabiricated in china」といった記載をよく見かけますが、これは事実を表示しているということであれば問題は生じません。
原産国を判断する基準に世界で統一されたものはありません。多くの国ではCTHを原測として採用していると思われますが、国、製品により異なることが想定されます。輸出する際に原産地を表示する場合は、輸入国の法令に適合しているか否か注意する必要があります。
EPA/FTA原産地証明のコンサルティング
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