原産地」のページでも説明しましたが、一口に原産地と言っても様々な「原産地」に関する規則があります。
 ここでは、「原産地」に関するよくある誤解を紹介するとともに、原産地虚偽についてもみていきたいと思います。

目次

  1. よくある誤解
    1. EPAの原産地基準は全て同じ
    2. EPA原産地証明書と非特恵原産地証明書
  2. 原産地虚偽表示
    1. 仮想事例
    2. 関税法第71条とマドリッド協定

よくある誤解

EPAの原産地基準は全て同じ?

  日EU・EPAで自己証明を行う際に生産者の方から、「同じ産品を別のEPAを利用して輸出しており、日本商工会議所から特定原産地証明書が発給されているので、原産性は証明されています。」という話をよく聞きます。しかし、EPAの原産地基準は協定ごとに異なるので、例えば、日・タイEPAの原産地規則を満たしていても、日EU・EPAの原産地規則は満たしていない、ということは十分に考えられます。
 輸出しようとしている産品が利用しようとしているEPAの原産地規則を満たしているかどうか、必ずEPA毎に調査しましょう。

EPA原産地証明書と非特恵原産地証明書

 また、場合によっては輸出の相手国からEPAの原産地規則を満たしていることを証明する「特定原産地証明書」(日本商工会議所で発給)と日本製であることを証明する一般の「原産地証明書」(各地の商工会議所で発給) の両方を要求される場合があるかもしれませんが、それは証明する内容が異なるため、不当な要求であるとは言えないと思います。
 EPAの特恵原産地基準と一般の非特恵原産地基準は、まったく別のものと考えて対応することが必要です。EPAの品目別規則が項変更基準の場合は、両者は同一となる可能性が高いですが、それはたまたま一緒だったと考えた方が良いと思います。
 なお、一般の原産地証明書の原産地基準は、関税法の非特恵原産地規則を便宜上使用しています。(下記参照)

商工会議所での、原産地証明書における物品の原産地についての判断基準

原産地虚偽表示

 「原産地」に関する様々な規則をよく理解しておかないと、思いがけず法律違反を犯し、輸出入がストップしたり、重大なコンプライアンス違反を行うことにもつながりません。仮想事例で考えてみましょう。

仮想事例

 例えば中国で製造された第2811.11号の純度99.0%のフッ化水素をタイで99.99%まで精製して日本に輸入する場合を考えます。日・タイEPA の第 28.11項の品目別規則は、以下の通りです。

  第2810.00号から第2813.10号までの各号の産品への当該各号が属する項以外の項の材料 からの変更、 原産資格割合が40パーセント以上であること(第2810.00号から第2813.10号までの各号の産品への関税分類の変更を必要としない。)又は、 使用される非原産材料についていずれかの締約国において化学反応、精製、異性体分離の各工 程若しくは生物工学的工程を経ること(第2810.00号か ら第2813.10号までの各号の産品への関税分類の変更を必要としない。)

 また、同協定で「精製」とは、「存在する不純物の80%以上の除去をもたらす工程」であるとされており、上記の工程ではフッ化水素 の不純物を99%除去していることから、日・タイEPA協定の品目別規則を満たし、同協定上タイの原産品となります。
 ところが、関税法施行規則第1条の7では、項の変更が行われた国を原産地とすることとなっており、このフッ化水素の製造、即ち項の変更が行われたのは中国であることから、輸入申告の際の原産国は中国ということになります。税率適用の原産地と輸入申告の原産地(貿易統計の原産地)が異なるとととなるので注意が必要です。
 また、タイの原産品であるとの日・タイEPAの特定原産地証明書が発給されていても、原産地表示を判断する場合は、関税法施行令、施行規則の規定を用いることとなっているので、このフッ化水素は「タイ原産」と表示することはできません。「タイ製」、「Made in Thailand」等の表示を行って輸入すると、関税法第71条の「原産地虚偽表示」と認定され輸 入できない事態も起 こりえるので注意しましょう。

関税法第71条とマドリッド協定

  関税法71条第1項では、「原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。」とあります。この規定は日本独自のものではなく、「虚偽又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定(1891年制定)」に基づくものです。この協定の締約国は36か国と少ないものの、多くの国がこの協定の趣旨に従い、日本と同様に原産地虚偽表示又は誤認を生じさせる表示を行った貨物の輸入を認めない取り扱いを行っています。
 また、原産地虚偽表示を行った商品は、輸出令の規制の対象となります。
 輸出入者の方で少し甘い認識をお持ちの方もいるかもしれませんが、原産地の虚偽表示又は誤認を生じさせる貨物の輸出入を行うことは、企業のコンプライアン ス上の重大問題であり、信用失墜行為ともなりますので十分に注意しましょう。
 原産地虚偽表示等に関する日本の税関での取り扱いは下記を参照してください。

原産地を偽った表示等

   なお、マドリッド協定は世界知的所有権機関(WIPO) が管理しています。

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