何故メーカーからEPA/FTAの原産地証明の協力が得られないのか

 輸出商社から、「メーカーからEPA/FTAの原産地証明の協力が得られない」という話を聞きます。
 このことは、私が勤務していた商社においてもあったことですので、輸出商社の規模の大小を問わず発生していることと思われます。
 関税協会が実施したEPA/FTAの利用に関するアンケートにおいても、自己申告の利用で困ったことの理由の第3位が「生産者の情報の不開示」、EPA利用の経験の無い理由としても「EPAを利用するために必要な情報が不足しているから」ということが挙げられています。
 本来であれば、EPA/FTAの原産地証明に協力することはメーカーにとって販路拡大の絶好のチャンスであるはずです。何故、メーカーは協力を拒むのか、また、どのようにすれば協力を得られるのか考えてみたいと思います。

目次

EPA/FTAの原産地証明に協力するメーカーのメリット…売上高の増加

 輸出者の原産地証明に協力することは、メーカーにとっては次のような大きなメリットがあるとあると考えられます。
 (EPA/FTA利用のメリットについては、こちら

  • 輸出者の費用で海外市場へのプロモーションを行ってくれる
  • 海外の輸入者の調達費用の削減につながり、売上増や市場獲得が期待できる

 輸出者や海外市場によって売上高貢献の規模は大小まちまちと思いますが、メーカーが輸出者の原産地証明に協力すれば売上高増に貢献することはほぼ間違いありません。
 自社で海外輸出している場合や、他の商社に委託して海外に販売している場合にも、これまでの輸出先と異なる国に輸出を行ってくれる、又は、従来と異なる輸出チャンネルで輸出を行ってくれる輸出者が現れたら、そこが大きなマーケットでなくても、確実にメリットはあるはずです。
 逆に、EPA/FTAの原産地証明に協力しなければ輸出者はコスト面から輸出自体を諦め、メーカーの機会損失につながることも考えられます。

原産地証明に協力するとビジネスチャンスが広がる…証明は流用できる

 一度行ったEPA/FTAの原産地証明の原産地証明は、他の協定の原産地証明に流用することが出来ます。
 もし、ある輸出者からの原産地証明への協力依頼に応えると、自社の輸出の際に利用できるほか、他商社からの要請にも簡単に応えることが出来るようになります。
 一度原産地証明の根拠資料の作成に労力を使うと、ビジネスの世界が広がります。

関税分類変更基準の場合は証明自体を流用できる

 関税分類変更基準の場合は、一度資料を作成すると、使用する原材料に変更が無い限りそのまま使用できます。また、あるEPAを利用する際に作成した根拠資料を原産地基準が同じか緩いEPAの原産地証明に対してそのまま使用出来ます。
 下の図で、もし、A社がドイツに輸出するために、製品Mの原産地証明資料の提供を求めてきたとします。A社の要請により作成した資料は他のEPAを利用する際にも利用することが出来ます。
 仮に、自社でベトナムに輸出する際に日ベトナム協定を利用する場合こととなったとします。その際、原産地基準が日EU・EPAがCTH(HSコード4桁変更)、日ベトナム協定も同じCTHであったとします。そうすると、自社の原産地証明に関して、A社に提供した資料をそのまま使用することが出来ます。
 次にB社からマレーシアに輸出したいので、原産地証明の根拠資料を提供してほしいいという要望があったとします。その際、日マレーシア協定の原産地基準はCTSH(HSコード6桁変更)であったとします。そうしますと、CTSHはCTHよりも緩いい基準ですので、CTHで証明に利用した根拠資料はそのままCTSHの根拠資料として利用することが出来ます。
 ただし、より厳しい原産地基準を採用している協定を利用する際には、原産地基準を満たしているかの再検証が必要です。例えば下の図で、C社が日メキシコ協定の原産地証明の根拠資料を求めてきたとします。メキシコ協定がCTHより厳しいCC(HSコード2桁変更)を採用していたとすると、原産地基準を満たしているか否かの再検証が必要となり、追加の証拠書類の作成を行う必要が生じる可能性があります。場合によっては、原産地基準を満たさずにEPAを利用できない可能性もあります。

付加価値基準の場合は算出方法を流用できる

 付加価値基準の場合は、原則、輸出毎、生産ロット毎の証明になりますので、証明そのものを流用することは出来ません。しかし、一度行った算出方法自体は流用することが出来ます。日スイス協定を除く全ての協定で控除方式を採用していることから、一度控除方式で行った算出方法は他の協定でも利用することが出来ます。
 日スイス協定で採用されているMaxNOMも、控除方式の変形とみることが出来ますので、控除方式で利用した算出方法に少し変更を加えるだけで利用することが出来ます。

EPA/FTAの原産地証明に関してメーカーが協力できること

 EPA/FTAの原産地証明に関して、メーカーは次のような形で輸出者に協力することが出来ます。

輸出者へのサプライヤー証明書の提出

 原産地証明のための根拠資料と共に輸出者にサプライヤー証明書を提出します。輸出者はこのサプライヤー証明書及び根拠資料に基づき、第三者証明の協定の場合は日本商工会議所に特定原産地証明書の発給申請を行います。また、自己証明の協定(日EU・EPA、日英EPA、TPP11(CTPP)、日オーストラリア協定)の場合は、輸出者自身が原産品申告書を作成します。
 サプライヤー証明書に関しては、こちらをご覧ください。

原産地証明のための根拠となる資料を輸出者に提供する

 EPA/FTAの原産地証明について詳しい知識を持たない零細・中小の企業に対しては、輸出者によっては、サプライヤー証明書の提出を依頼せずに原産地証明の根拠となる資料・情報の提供の依頼をすることもあると思います。この場合は、輸出者から依頼のあった資料・情報を輸出者に提供します。輸出者に販売する商品が「XX協定の原産品である」旨のサプライヤー証明書は提出しませんので、原産品であるか否かについては、メーカーは関知しないこととなります。輸出者は、自己の責任で、第三者証明の協定の場合は日本商工会議所に特定原産地証明書の発給申請を行い、自己証明の協定の場合は、輸出者が原産品申告書を作成します。
 輸出者からは、提出した資料・情報の根拠となる書類(原材料等の購入伝票等)について、一定の期間、保存するように要請がある可能性があります。

日本商工会議所に特定原産地証明書の判定依頼を行う

 第三者証明の協定においては、付加価値基準を使用して原産地証明を行う場合など、企業秘密を輸出者知られたくない場合には、メーカーが日本商工会議所に判定依頼を行い、輸出者に同意通知書を出して、輸出者が特定原産地証明書を取得できるようにする方法があります。メーカーとして判定依頼を行う手間暇はかかりますが、生産者と輸出者が異なる場合には一般的な方法です。
 輸出者に対し、生産に関する情報を開示する必要が無いというメリットがあります。

輸出者と生産者が異なる場合のテク低原産地証明書の取得

生産者による原産品申告書を作成する

 自己証明の協定の場合には、第三者証明の場合のように「同意通知」という制度がありません。その代わり、生産者も原産地証明書(原産品申告書)を作成することが出来ます。この場合は、証明の責任は専ら生産者が負うことになります。
 サプライヤー証明書を輸出者に提出して、輸出者が原産品申告書を作成することも考えられますが、この場合、原価情報等、輸出者に知られたくない情報についても、輸入国税関からの検認(事後確認)の際に、輸出者に情報提供を行うことを余儀なくされる恐れがあるので注意が必要です。輸出者に知られたくない情報がある場合には、生産者が原産品申告書を作成するのが、生産者にとってもリスクが少ない方法と考えられます。

原産地証明に協力しないメーカーの理由

 メーカーとしてEPA/FTAの原産地証明に協力することは、少ない労力でダイレクトに売上増に結び付き、私からするとメリットが大きく、デメリットが少ないと思われます。それにもかかわらず、何故、協力を嫌がるメーカーが多いのでしょうか?その理由を考えてみたいと思います。

企業秘密の保持のため

原価情報が漏れてしまう

 付加価値基準を用いて原産地証明を行う場合は、原産地証明に協力すると原材料価格(製造原価)が丸裸同然となってしまう恐れがありますので、原産地証明に協力しないというのはよく理解できます。
 この場合は、メーカーが、日本商工会議所に特定原産地証明書の判定依頼を行う、又は、原産品申告書を作成する、という方法があります。

製造ノウハウが漏れる恐れがある

 関税分類変更基準を用いる場合においても、原産地証明に非協力的なメーカーが多いという理由の一つとして、製造ノウハウが漏れるのを恐れることが多いのではないかと思われます。
 関税分類変更基準を採用した場合においても、製造工程表を作成する必要があります。但し、ここで必要となる製造工程表は、原材料表に記載した原材料を用いて製品を製造する過程、即ち、原材料表に記載したHSコードと製品のHSコードが製造により異なることとなることを合理的に説明できるものであれば十分で、詳細な製造ノウハウを記載する必要は全くありません。
 多くの場合、インターネットに掲載されているような公知の事実で構成された製造工程表で十分です。

秘密にしている成分、配合原料が判明してしまう

 原材料表には、製造に使用した全ての原材料を記載する必要があります。化学品の場合は、原材料表を開示すると企業秘密としている原料が開示した企業に漏れてしまうという心配があるかもしれません。確かにそれは避けたい事態です。
 しかし、メーカーには次のような点も考慮していただければと考えています。

原材料表には成分比率、配合割合は記載する必要はない

 EPA/FTAの根拠資料となる原材料表には、使用した原材料全てを記載する必要がありますが、その成分比率や配合割合を記載する必要がありません。情報開示を迫られたとしても、開示する必要はありませんし、開示する場合でも詳細な割合は記載する必要はなく、大まかな数値でも十分と考えます。
 但し、HSコードに数値基準が設けられている場合には、その数値基準を考慮して情報を開示する必要があります。

使用原材料を秘密にしておくと輸出先で輸入できない場合がある

 多くの国では化学品の輸入に関して厳格な規制があり、その成分を開示してSDS(安全データシート)等の情報を開示しなければ輸入の許可を得ることはできません。使用原料を秘密にしておくと、結果的に輸入国の規制により輸出できないことも考えられます。
 純粋に売り先を国内に限定しているとすると、これまで通り使用原料を秘密にしておいても通用するかもしれません。しかし、それでは売上の拡大は望めませんので、海外市場に輸出する際にどの程度の情報開示が可能なのか、今一度検討ご検討をお願いしたいと思います。

秘密にしておいても分かってしまう

 A社が携帯電話の新商品を発売すると、直ぐに専門家が分解してどのメーカーのどの部品が使用されているかといった記事が掲載されます。細かな同じように見える部品をよく同定できると感心します。
 化学品も、その成分を秘密にしておくことは出来ません。私も税関の分析室でHSコード確定のために商品の成分分析を行ってきました。輸入者が情報開示を行ってくれると分析は早く済みますが、情報開示が無くても成分はほぼ判明します。現在は、GC-MS(ガスクロマトグラフー質量分析計)、LC-MS(液体クロマトグラフー質量分析計)、蛍光エックス線分析装置等、高度な分析装置があります。競合会社も、コストを厭はなければ配合成分については情報を入手できるということです。
 但し、化学分析では、微妙な配合方法、化学品の処理法等、製造ノウハウに関することまでは分かりません。しかし、そのような製造ノウハウに関する情報は、原産地証明においては必要ありません。

原料調達先・原料のグレードが判明してしまう

 原材料のHS分類に必要なスペックを開示すると、原料の調達先やグレードが判明してしまうことを心配される方がいるかもしれません。場合によっては、そのようなこともあり得るかも知れません。
 しかし、一般的にはそこまでの詳細の情報はHSコードの確定に必要ではありません。原材料のHSコードの確定に必要でない情報まで開示する必要はありません。輸出者に要求されるままに詳しい情報まで開示する必要はないのです。
 どこまでの情報を輸出者に開示すればよいか分からない場合は、当コンサルティングにご相談ください。

面倒な作業を行いたくない

 メーカーは企業秘密という理由で、原産地証明という面倒な作業を嫌がっているだけかもしれません。
 特に輸出者からサプライヤー証明書を提出してほしい、日本商工会議所に判定依頼を行ってほしいと言われると、どうすればよいか分からななくなってしまうメーカーの方も多いのではないかと思います。
 そういった場合は、外部の専門家に相談するのが最も効率が良いのではないかと考えます。
 但し、単なる書類作成の代行業者を利用することはお勧めできません。EPA/FTAの原産地証明に関して専門知識を有し、正しい原産地証明についてアドバイスを行うことのできる専門家にご相談ください。
 当コンサルティングにご相談いただければ、メーカーと協力して、産品製造に使用した原材料表(部材表)を基にHSコードを特定し、EPAの根拠資料に必要な製造工程表を作成致します。

売上見込みが原産地証明に要するコストに見合わない

 場合によっては、輸出者の購入量が少なく、原産地証明に関するコストに見合わないと考えているメーカーも皆無ではないと思います。しかし、その証明が他社や自社の輸出の際にも利用できるとしたらどうでしょう。1社に提供した根拠資料を契機として、ビジネスが新たに展開するかもしれません。
 一度証明を行えば他国への輸出に際しても利用できる可能性が高いので、最初の原産地証明の要請は更なる引合いの一里塚と考え、コスト試算の売上の前提を大きくとってみてはいかがでしょうか。

原産地証明に関するリスクの回避

 サプライヤー証明の内容に自信が持てず、輸出者への協力に消極的となっているかも知れません。EPA/FTAの原産地規則は非常に難解で、また、使用する原材料の一つ一つにHSコードを付けていくのは専門家でも大変です。
 サプライヤー証明書が誤っていた場合のリスクについて心配されているメーカーもいらっしゃると思います。
 その場合は、当コンサルティングまでご相談ください。出来る限りリスクが低減できるよう、原産地証明についてアドバイスいたします。

FFTAコンサルティングがお手伝いできること

 輸出者が生産者からEPA/FTAの原産地証明の根拠資料、サプライヤー証明書、第三者証明の同意通知、生産者による原産品申告書の取得を行うことに関して、FFTAコンサルティングは以下のお手伝いをすることが出来ます。

輸出者に対するアドバイス

  •  輸出者が生産者にEPA/FTAの原産地証明の根拠資料を要請する際に、どのような情報が必要かアドバイスを致します。
     要請する情報の内容が不十分ですと原産地証明の根拠資料とすることは出来ませんし、反対に、必要でない情報まで要求するとメーカーに不要な負担をかけ、却って情報提供の拒否に繋がりかねません。
  •  生産者が作成する原産品申告書が十分な根拠資料に基づいて作成されているか輸出者に代わって検証いたします。この場合、生産者の機密情報は輸出者には開示いたしません。

 当コンサルティングがアドバイスを行って輸出者において作成したEPA/FTAの原産地証明に関する根拠資料を、生産者にヒードバックすることも可能です。生産者から原産地証明について協力を得るインセンティブの一つになると考ます。

生産者に対するアドバイス

  •  輸出者から原産地証明に必要な根拠資料の情報提供要請があった場合、必要となる情報についてアドバイスいたします。
  •  サプライヤー証明書の提出要請があった場合は、証明に必要な根拠資料及びサプライヤー証明書の作成についてアドバイスいたします。
  •  日本商工会議所への判定依頼に際して必要となる根拠書類についてアドバイスいたします。
  •  生産者による原産品申告書の作成について、根拠資料の作成も含めてアドバイスいたします。

何れの場合も生産者様の機密情報を輸出者に漏らすことはありません。
輸出者様の費用にて、生産者様にアドバイスを行うことも可能です。

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サプライヤー証明のコンサルティング

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