EPA(FTA)のサプライヤー証明書は、①輸出の際にEPA(FTA)を利用する輸出者に対して生産者が輸出品が原産品であることを証明するものと、②輸出品を生産する会社に原材料を供給するサプライヤーが当該原材料が原産材料であることを証明するもの、の2種類あります。
 一般的には②の場合を指すことが多いと思いますが、ここではこの2つの場合のサプライヤー証明書作成の注意事項等について解説していきたいと思います。

目次

  1. 製造者が輸出者に出すサプライヤー証明書
    1. 第三者証明の場合(特定原産地証明書と同意通知書)
    2. 自己証明の場合
    3. サプライヤー証明書を作成せずに輸出者の原産地証明に協力する場合
  2. 原材料供給者が生産者に出すサプライヤー証明書
    1. 生産者(原産品申告書の作成者)の立場
    2. サプライヤーの立場
書類
単に書類を提出すればよいというものではありません

製造者が輸出者に出すサプライヤー証明書

 輸出者の原産地証明に協力することは、生産者にとっては新たなビジネスチャンスです。出来る限り協力されてはいかがでしょうか。詳しくは、「何故メーカーからEPA/FTAの原産地証明の協力が得られないのか」のページをご参照ください。

第三者証明の場合(特定原産地証明書と同意通知書)

 輸出者が商社の場合で、第三者証明で日本商工会議所にEPA(FTA)の特定原産地証明書の発給依頼をする際は、EPA(FTA)の原産地証明を行うために必要な情報を生産者から入手する必要があります。
 しかし、企業秘密等の理由によりそれらの情報を入手できない場合は、生産者から日本商工会議所に判定依頼をしてもらい、さらに同意通知を生産者から取得して、輸出者が特定原産地証明書を取得できるようにするという方法が一般的です。この方法ですと、第三者の公的機関である日本商工会議所が輸出する産品が原産品であるか否かの判定をしてくれるので、輸出者に生産者の企業秘密が漏れる恐れはありませんし、輸出者は生産者からサプライヤー証明書を入手する必要性もありません。

特定原産地証明書取得の際の同意通知

 なお、輸出者が製造者から原産地証明に必要な情報を全て入手した上で日本商工会議所に原産地判定依頼を行うことがあります。この際、製造者から念のため、サプライヤー証明書を入手しておくこともあると考えます。

自己証明の場合

 日EU・EPA及びCTPP(TPP11)の自己証明の場合は、証明に日本商工会議所という第三者が介在しないため、同意通知という便利な制度を利用することはできません。その代わり、生産者も原産品申告書(自己証明書)を作成することが出来ることになっています。
 日EU・EPAの発効当時、生産者が原産品申告書を作成する方法が明確ではなかったので、生産者からサプライヤー証明書をもらい、輸出者がインボイスに協定上の申告文を記載して原産品申告書を作成していた事例も多かったと思います。しかしながら、「日EU・EPA発効1周年記念セミナー」で説明があったように、デリバリーノート等に申告文を記載することにより、生産者が原産品申告書を作成することが出来ます。税関の原産地ポータルに原産品申告書の作成方法の例示が掲載されています。
 企業秘密等で原産性を判定する根拠資料の開示が生産者から無い場合は、生産者に原産品申告書を作成してもらうように依頼することが適当と思われます。生産者からの情報開示が無い場合、輸出者が生産者からのサプライヤー証明書に基づき原産品申告書を作成するのは、双方に下記のようなリスクが発生します。

  1. 輸出者のリスク
    生産者のサプライヤー証明書の内容を検証することが出来ません。サプライヤー証明書が間違っていた場合のリスクは原産品申告書を作成した輸出者が負うことになります。場合によっては金銭的な損失は生産者が補償してくれることもあるかもしれませんが、輸出先からの信用失墜、今後の輸入国税関の審査の強化など、コンプライアンスリスクから逃れることは出来ません。
  2. 生産者のリスク
    輸入国税関からの調査(検認)に際し、輸出者から情報開示を強制されるリスクがあります。一般的なサプライヤー証明書には、税関からの調査に際して生産者が輸出者に情報開示を行うなど、輸出者に協力する旨記載していると思います。

 なお、生産者からEPAの原産地基準を満たすことの全ての情報が入手できた場合は、生産者からサプライヤー証明書をもらい、輸出者が原産品申告書を作成することには問題がありません。

サプライヤー証明書を作成せずに輸出者の原産地証明に協力する場合

 生産者と輸出者との関係によっては、生産者がサプライヤー証明書を輸出者に提出せずに、輸出者が原産地証明を行うこともあると思います。この場合、生産者が誤った情報を提供しない限り、原産地証明の責任はあくまでも輸出者にあると考えられます。
 生産者は輸出者から原産地証明に必要な情報・書類の提供を求められることもあると思います。その際、原産地証明の根拠資料の作成に必要ではない情報まで開示する必要はありません。原産地証明に必要な根拠資料は、利用する原産地基準により異なりますが、一般的には使用原材料表と簡単な製造工程表(製造地の情報を含む。)です。

原材料供給者が生産者に出すサプライヤー証明書

生産者(原産品申告書の作成者)の立場

 生産者が原材料の納入者にサプライヤー証明を要求するのは、原材料が原産材料であることが、生産者の産品がEPAの原産地基準を満たすために必要な場合です。
 生産者が関税分類変更基準を用いてEPAの原産地基準を満たすことを証明する場合は、関税分類変更基準を満たさない原材料についてのみサプライヤー証明が必要となります。その他の原材料は、例え原産材料であっても、非原産材料として取扱って原産地基準を満たすことを証明とが出来ますので、サプライヤー証明書は必要ありません。
 付加価値基準の場合は、産品及び原材料の価格が変動することも考慮して、少し余裕をもって幅広くサプライヤー証明書を要求する場合もあると思います。しかしながら、日本の原産材料と思われるもの全てにサプライヤー証明書を要求するなど、むやみやたらにサプライヤー証明を要求するのは避けたいものです。納入業者の負担も考慮し、金額が大きいものから順に証明に必要な原材料についてのみサプライヤー証明書を求めるなどの工夫が必要と思われます。 
 サプライヤー証明書は任意の書式で作成できますが、経済産業省ホームページの「原産資格を立証するための基本的考え方と整えるべき保存書類の例示」にひな形がありますので、参考にして下さい。

サプライヤー証明書取得時の注意事項

 サプライヤー証明書は原産性を証明する上で鍵となる資料ですので、出来れば、生産者自ら証明書の内容をチェックし、根拠資料についても共有しておきたいものです。
 サプライヤーの企業秘密等でそういった対応が出来ない場合は、経済産業省の資料のサプライヤー証明書のひな形はただ単に「当社の下記産品は、○○協定に基づく原産品であることを証明いたします。」と言っているだけですので不十分なものです。
 少なくとも次の事項をサプライヤー証明書上に明記するか、契約書等、別の文書でお互いに合意しておくことが望ましいと考えられます。

  • 輸入国税関からの事後確認(検認)の際に、サプライヤー証明書の内容について説明を求められた際には協力すること
  • サプライヤー証明書の根拠となる資料を指定の期間保存しておくこと
  • 設計、仕様、調達先の変更等、原産性の判定に影響を及ぼすような変更があった場合は速やかに通知すること

 日本では中々難しいかもしれませんが、サプライヤー証明書の内容が間違っていた、あるいは、事後確認においてサプライヤー証明書の根拠が示されないなどの理由で、EPAの原産性が否認されたことにより損害が発生した場合についてどのように対応するのか、予め取り決めておくことが望ましいと思われます。
 特に、付加価値基準を用いてサプライヤー証明書を作成している場合など、生産者が証明書の内容をチェックすることが難しいときには、第三者に証明書の内容の点検を依頼するなどの対応を行うと良いと考えます。

サプライヤーの立場

 貿易を行っていないサプライヤー(EPAを利用して輸出する産品の生産者への原材料供給者)にとっては、「サプライヤー証明書って何?」という感じではないでしょうか。しかし、EPAを利用する生産者にとってサプライヤー証明書は非常に重要な意味を持っています。
 原産材料としての資格を有しない原材料についてサプライヤー証明書を発行し、それに基づいて生産者がEPAの特定原産地証明書を取得したり、原産品申告書を作成した場合は、どういった結果になるでしょうか?
 輸入国税関の事後確認(検認)により、EPA税率が否認された場合、輸出先の輸入者は税関から追徴課税を受け、さらに国によっては高額のペナルティーを支払うことになります。そうすると輸入者は、誤った原産地証明書(原産品申告書)を送付してきた輸出者(生産者)に損害賠償を請求することが考えられます。そうなると、輸出者(生産者)は、原産地証明書(原産品申告書)が間違っていた原因となったサプライヤー証明書の発行者に、輸入者から請求された損害賠償をそのまま請求する可能性があります。
 このように、サプライヤー証明書を発行するする際には、納入先から請求されたからといって安易に作成することは非常なリスクを伴うので、決して行ってはいけないと考えています。
 サプライヤー証明書を発行する際には、発行を求められたEPAの原産地基準をよく理解して、原産地基準を満たしていることを確認することが必要です

サプライヤー証明書発行時の注意事項

 サプライヤー証明書の作成は原産地基準を満たしていることを証明するという点で、原産品申告書の作成と何ら異なることはありません。サプライヤー証明書の作成は、基本的に原産品申告書の作成と同じ手順で行うと良いと考えます。第三者証明のように第三者が証明内容をチェックしてくれません。可能であれば納品先にチェックしてもらい、責任の転嫁、分散を図りましょう。
 品目別原産地規則で関税分類変更基準を満足する場合は当該基準を優先的に採用しましょう。原材料の数が多いと大変かもしれませんが、一度根拠資料を作成すると、原材料の変更を行わない限り同一資料を何度でも利用できます。
 付加価値基準を用いて証明する場合は、当該基準を満足するか常に価格をモニターする必要があります。また、サプライヤー証明の根拠資料となる会計資料(原材料の調達に関する帳簿等)も整理して保存しておく必要があります。
 関係書類の保存期間は協定によって決まっており、長い協定では原産品申告書の作成時又は特定原産地証明書の発給日の翌日から5年間の保存が必要です。サプライヤー証明書はこれらの根拠となる資料ですので、その根拠資料についても保存を行う必要があります。サプライヤー証明書は原産地証明書等よりももっと前に作成されているでしょうから、理論的には、協定で定められた期間よりもさらに長期間の書類、帳簿の保管が必要とされることが想定されます。

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