EPAを利用するメリットは関税が削減されることです。また、付加価値税(消費税)も考えると関税額以上の税削減効果があります。しかし、税関からEPA税率の適用を否認された場合に多額の追徴関税やペナルティーを支払うリスクや信用失墜リスクも生じるので、適切なリスク対策が必要です。

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EPA利用のメリット

 EPAを利用すると輸入者が負担する関税を削減することが出来ます。EPAを利用する場合と利用しない場合(MFN税率の適用)との税率の差が大きくなればなるほどメリットは大きくなります。また、付加価値税(日本は消費税)は一般にCIF価格に関税を加えた価格に課税されるので、付加価値税の税率が大きいほどEPA利用のメリットは大きくなります。
 下記は、A国から売値10,000ドルのドルの商品をB国に輸出する際の事例です。A国からB国への輸送費及1,000ドル要するとします。B国ではこの商品に対し、関税10%、付加価値税(日本の場合は消費税)20%が賦課されるとします。また、EPAを利用すると関税が無税となるとします。

EPA利用のメリットを図示しています

 関税は一般に輸入国迄の輸送料、保険料込みの価格(CIF価格)に対して賦課され、付加価値税は関税込みの価格に対して賦課されるので、EPAを利用する場合と利用しない場合の輸入者の仕入れ価格は次のようになります。

  • EPAを利用しない場合
    関税:(10,000+10,000)*0.1=1,100ドル
    付加価値税:(10,000+1,000+1,100)×0.1=2,420ドル
    輸入者の仕入れ価格:10,000+1,000+1,100+2,420=14,520ドル
  • EPAを利用する場合
    関税:0ドル
    付加価値税:(10,000+10,000)*0.2=2,200ドル
    輸入者の仕入れ価格:10,000+1,000+1,100=13,200ドル

 付加価値税まで考慮すると、関税額以上の差が出てくることが分かります。
 わざわざ手間暇をかけて特定原産地証明書を取得したり、自己証明書(原産品申告書)を作成しても、EPAを利用して関税額を削減した利益は、全て輸入者の利益となってしまうという話もよく聞きます。しかし、輸入者の仕入れ価格が下がればコスト競争力も付き、販売数量が伸びることも考えられます。そうすれば輸出者としてもメリットを得ることが出来ます。逆に競争相手がEPAを利用し、自社がEPAを利用しなければ競争相手に対しコスト面で非常に不利となります。関税の差をコスト削減や値引きで対応するのはかなり大変です。EPAを利用しなければ販売先を失うリスクも生じます。
 交渉次第では、EPAを利用することにより、輸出価格を上げ、輸出者の利益を増大させることも可能かもしれません。

EPA利用の際のコスト(輸出の場合)

 EPAを利用する際には、様々なコストが発生します。関税削減額が1%とか、2%ということであれば、関税削減額が大きくないので必ずしもEPA利用のメリットは無いかもしれません。
 EPA利用のコストには次のようなものがあります。

  1. 原産地基準を満たしていることを証明するコスト
  2. 第三者証明の場合は、特定原産地証明書発行にかかるコスト
  3. 証拠書類保存に要するコスト
  4. 輸入国税関からの事後確認(検認)に対応するコスト

 EPAを利用するか否かはこれらのコストも考慮して決定しましょう。
 関税分類変更基準であれば、使用原料を変更しない限り最初に証明を行った資料はそのまま次回からの輸出にも使用できるので、それ程大きなコストとはならないでしょう。

EPA利用の際のリスクと対策

 EPAを利用する場合の最大のリスクは税関の事後確認(検認)及び事後調査によりEPA税率の適用を否認されることです。場合によっては多額の追徴関税及びペナルティーが発生し、海外の事例ですが数十億円も追徴された事例があると聞きました。

輸入者としてのリスクと対応策

 税関の輸入申告時の書類確認、事後確認(検認)及び事後調査によりEPA税率の適用を否認され場合には、MFN税率適用時と比べて納付不足となっている関税額及び消費税額が追徴されます。また、併せて過少申告加算税及び延滞税が賦課されます。
 さらに、税関は、適正な申告を行っている輸入者に対しては審査・検査の率を軽減し、非違の発生している輸入者に対しては重点的に審査・検査を行うという対応を行っています。このことから、追徴が発生した場合、税関の審査・検査の率が増加するリスクもあります。
 これらのリスクを回避する最も確実な方法は、輸入者としてEPA協定の原産地規則を満たしていることを確認し、出来れば証拠書類を入手しておくことです。もし、企業秘密等でこれらの情報が得られない場合で輸出者又は生産者の自己証明によるものであるときは、輸入契約時に適切なリスク回避策を講じておきましょう

証明者(輸出者・生産者)としてのリスクと対策

 輸出者(生産者)としての最大のリスクは、誤った自己証明を行い、又は、誤った資料を提出して特定原産地証明書を取得し、輸入国税関からEPA税率の適用を否認され、輸入者から追徴税額やペナルティーに関する賠償請求があることです。また、場合によっては契約打ち切りという事態に発展する可能性もあります。
 さらに、第三者証明の場合は、日本商工会議所から原産地証明書の発給停止という処分があるかもしれません。
 輸出者(生産者)として誤った証明を行う要因としては次の2つのことが考えられます。

  1. 証明者(輸出者・生産者)の誤った原産地基準の適用によるもの
  2. 原材料・部品のサプライヤーの誤った証明又は情報によるもの

証明者による原産地基準適用誤りのリスク回避策

 上記1.のリスクに対応するためには、第三者の専門家のチェックを受けることが有効です。特に自己証明の場合には第三者のチェックを受けることがないので、担当者の思い込みで誤った証明を行ってしまうリスクがあります
 当コンサルティングでも、原産地証明の内容のチェックを行っていますのでご利用ください。

サプライヤー証明に伴うリスク回避策

 上記2.についてのリスク回避策は、次のことが考えられます。

  • サプライヤーの証明及び情報を必要としない原産地基準を用いる。
    (全ての原材料・部品を非原産材料とみなして証明を行う。)
  • それができない場合は、証明者として、供給を受ける原料・部品等について原産材料であること等、産品の原産地基準を満たすことに必要な条件を具備していることを確認する。
  • 供給を受ける原材料・部品の生産工程の変更、生産場所の変更(海外移転等)、使用原料等の変更があった場合は速やかに通報を受ける体制をとる。

 企業秘密等で上記の対応をとることが出来ない場合は、次のようなリスク回避策をとることが考えられます。

  1. サプライヤー証明に誤りがあった場合の対応を予め取り決めておく。
  2. 第三者にサプライヤー証明が正しいことを確認してもらう。
    (当コンサルティングでも、サプライヤー証明の確認を行っています。)

*EPA税率の適用の適用を否認された事例及び誤った原産地証明書の発給を申請した事例はこちら

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原産地証明の根拠資料として必要な原材料表・対比表中のHSコードには多くの誤りが見受けられます。
間違ったHSコードに基づき日本商工会議所から特定原産地証明の発給を受けている場合、輸入国税関の事後確認(検認)によりEPA(FTA)税率の適用が取り消され、貴社の信用が失墜することは勿論、輸出先から損害賠償を提起される恐れがあります。
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