税関が輸入者に対しEPAの申告が適正であるか否かの調査を行う際には、「事後確認(検認)」と 「事後調査」の2つの方法があります。
 事後確認(検認)は輸入国税関がEPAの協定に基づき、直接または間接的に輸出者に対して調査を行うこともあります。
 事後調査は税関が輸入後に輸入者の事務所を訪問して申告価格が適正かどうかを中心に調査を行うことをいいますが、この際にも、EPAを利用した輸入に対しても調査が行われることがあります。

目次

事後確認 (検認)

  EPAの「事後確認」は、「検認Verification)」とも呼ばれます。
 「事後確認」とは、EPA(経済連携協定)又はGSP(一般特恵関税制度)の下で、特恵税率を適用して輸入申告された貨物について、各EPA及び関税関係法令の規定に基づき、輸入通関後にその貨物が相手国の原産品であるか否かについての確認を輸入者、輸出者又は生産者に対し行うことをいいます。

輸入の場合

 日本の税関では、各EPA及び関税暫定措置法第12条の4の規定に基づき、輸入通関時に審査を行う通関部門と同じ業務部の原産地調査官部門で事後確認を行っています。
 関税暫定措置法の当該規定は、日豪EPAにおいて自己証明制度が導入されたことに伴い追加されたものです。それまでも、EPA協定上は事後確認できることになっており、必要な場合は原産地証明書の発給機関に照会等を行っていましたが、主として輸入審査の際や輸入事後調査の際に原産性の確認が行われていました。これからは、関税暫定措置法に事後確認の根拠規定が国内法でも整備されたことから、事後確認が積極的に行われるようになると考えられます。
 ここで注意しなけらばならないのは、事後確認の対象は、自己証明を利用した申告にとどまらず、第三者証明のEPAや一般特恵税率が適用された貨物も対象となることです。税関は、輸入審査の際や輸入事後調査とは別に、EPA締約国や一般特恵適用国の原産品であるか否かの確認を行う旨の周知を図っています。税関ホームページに事後確認の実施についての説明がありますのでご参照ください。
 日EU・EPAやCPTPPのように自己申告の場合は、第三者証明に比べれば一般的に証明の信用度は低いと考えられ、事後確認を受ける頻度は高くなることが予想されます。
 日本への輸入の場合、輸入申告の際に輸出者から十分な情報を得ることができないことから、税関に原産品申告明細書を提出できなかったり、原産品申告明細書で産品が協定上の原産地基準を満たしていることを証明できなかった貨物については、事後確認が行われる可能性がより高くなると思われます。
 同ホームページに掲載されている輸入者向けのリーフレットには次のように記載されています。

 「事後確認」とは、経済連携協定又は一般特恵関税制度の下で、特恵税率を適用して輸入申告された貨物について、各経済連携協定及び関税関係法令の規定に基づき、輸入通関後にその貨物が相手国の原産品であるか否かについての確認を行うことをいいます。

(1)事後確認の目的
 経済連携協定又は一般特恵関税制度を利用して特恵税率を適用するためには、輸入する貨物が相手国の原産品である必要があります。
 事後確認においては、輸入申告された貨物が原産品であることを確認することによって、特恵税率の便益の適正な確保を目的としています。

(2)事後確認の方法
 輸入者に対する事後確認は、原則として、書面による情報提供要請により実施されます。
 税関は、輸入者から提出された資料等に基づき、輸入申告された貨物が相手国の原産品であるか否かを確認します。

(3)質問及び回答内容
 税関から輸入者に質問書を送付します。
 質問書には、確認の対象となる貨物及び確認内容が記載されています。当該貨物が原産品であるか否かを確認するために、当該貨物の生産に係る契約書、仕入書、価格表、総部品表、製造工程表などの資料を提出いただくことになります。           

                              
(4)回答期限
 税関への回答期限は、質問書に記載されています。基本的に質問書到着の日から30日となります。


(5)事後確認の結果
 輸入者からの回答によって、税関が原産品であることを確認できた場合には特恵関税の適用が是認されます。一方、輸入者が回答をしない場合や不十分な情報の提供しかない場合には、特恵税率の適用が否認されることがあるためご注意ください。さらに、回答内容によっては、税関から取引相手である輸出者や発給機関に対し情報提供要請や現地への訪問検証を行うこともあります。
 以上の結果、輸入申告された貨物が原産品であることを確認できない場合には、特恵税率の適用が否認されることとなり、また、事案の内容に応じて、過少申告加算税等の対象にもなります。

 事後確認に的確に対応するためには、輸入者も輸出者から輸入する産品の原産性に関する情報を入手し、原産地規則を満たしていることを確認しておくことがが重要であると考えています。輸出者から輸入品の原産性についての情報が得られない場合、輸出者に対して事後確認が行われるとの前提で輸入契約を結ぶなど、適切なリスク回避を行うことが必要ではないかと考えています。

第三者証明の場合の事後確認

 上記のリーフレットのQ&Aで、「第三者証明制度の場合には、貨物の原産性は原産地証明書によって既に証明されているのではないか。」という問いがあり、以下のような回答がなされています。まさに、税関の第三者証明への認識を説明していると思いますので、参考にして下さい。

 世界的なEPAの増加等を踏まえ相手国の発給機関において十分な原産性の審査がなされないまま原産性のない貨物に対して原産地証明書が発給される事案や、更には偽造の原産地証明書が税関に提出される事案が発生しており、特恵税率の適正な適用の確保を図っていく観点から、第三者証明制度の場合であっても事後確認が必要となります。
 前述のとおり、輸入者には納税義務者、特恵関税の直接の受益者として、貨物の原産性を証明する責任があることから、特恵関税の適用に際しては、原産性のある貨物に対して原産地証明書が正規に発給されているのかをよくご確認ください。

 輸入者に対する調査で疑義が解明されない場合は、輸出国の権限のある当局に対して照会を行うことになります。

日EU・EPAの事後確認

輸入者証明の場合

 日EU・EPAの輸入者による自己証明の場合は、税関から輸出者・生産者に対する情報提供の要請は行われることはなく、輸入者が税関に対して原産性を証明する情報を提供する必要があります。

日EU・EPA事後確認(輸入者証明)
関税協会大阪支部原産地講習会税関資料2019年11月
輸出者(製造者を含む。)の自己証明の場合

 日EU・EPAにおいて、輸出者(生産者)が自己証明を行った場合でも、まず、輸入国税関から輸入者に問い合わせが来ます。輸入申告の際に、税関に説明(資料)を提供できないとしてNACCSに入力した申告についても、税関から輸入者に照会が来ることになっています。輸入者は、日EU・EPAの原産地基準を満たすことを証明する十分な情報を有していない場合、輸出者に輸入国税関に直接情報を提供するように要請することができます。
(税関リーフレット「日EU協定に基づく情報提供要請」参照)
 輸入者は、①原産性を明らかにすることをできる資料がない旨回答する、②輸入者から資料を取寄せて回答する、③輸出者に原産性を明らかにする資料を直接問合せがあった税関に送付するように依頼する、という3つの選択肢があります。
 ②が一番理想的な対応方法です。しかしながら、輸入時に企業秘密等のため情報開示が無かった場合は不可能である可能性が高く、対応方法としては①と③が考えられます。①は事後確認に要する期間が長くなり、万が一、輸出国税関が回答しなかったり、不十分な情報しか回答できなかった場合はEPA税率が否認されてしまうので、あまりお勧めできません。出来れば、③の輸出者から直接税関に回答するように依頼しましょう。但し、期限内に回答できないとEPA税率の適用を否認されてしまいますので進行管理は重要です

日EU・EPAの事後確認
関税協会大阪支部原産地講習会税関資料2019年11月
輸出国税関による事後確認

 輸入者に対する事後確認で不十分な情報しか提供されなかったり、輸入者が原産性に関する情報を提供できない旨回答があった場合は、輸入国税関は輸出国税関に対して事後確認を依頼することが出来ます。
(「輸出の場合」参照)

CPTPPの事後確認

 CPTPPの事後確認も、まず、輸入者に対して行われます。輸入者から原産性に関する十分な情報が得られなかった場合は、輸入国税関から輸出者に対して直接事後確認が行われます。

CPTPPの事後確認
関税協会大阪支部原産地講習会税関資料2019年11月

日米貿易協定の事後確認

 日米貿易協定においても自己証明制度が採用されていますが、輸入者の自己証明のみとなります。輸入者が、原産品を証明する必要な情報を所有していない場合は、輸出者に、直接税関に情報を提供するように要請することができます。
 輸入者・輸出者が輸入国税関に対して原産性を証明する必要な情報を提供できなかった場合はEPA税率の適用が否認され、関税等の追徴が行われることになります。

輸出の場合

 輸出者又は生産者への調査を誰がどのように実施するかは協定により異なります。
 但し、何れの場合も輸出者又は生産者が原産性を満たしていることについての十分な情報を提供できなかった場合は、EPA税率の適用が否認されることになります。
 追徴課税や加算税等のペナルティーを受けるのは輸入者ですが、追徴関税やペナルティーに対する損害賠償が輸入者から提起される可能性がありますし、最悪の場合、輸出契約が打ち切りとなる可能性もあります。 

第三者証明及び認定輸出者の場合の事後確認(検認)

 第三者証明及び認定輸出者に対する事後確認は各EPA協定及び経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律第30条(締約国等の権限ある当局に対する情報提供等)の規定に基づき行われます。
 輸入国税関からの質問は直接輸出者又は生産者に来ることはなく、経済産業省及び指定発給機関である日本商工会議所が間に入ることになります。(日・メキシコ協定の場合は、直接輸入国税関から質問が来る可能性がある。)

第三者証明及び認定輸出者の場合の事後確認(検認)

日EU・EPAの事後確認

 事後確認の協定で定められたスキームについては、輸入の場合と同じですので、上記「輸入の場合」の部分も参考にしてください。
 ここで注意しておかなければならないことは、日・EU間の輸入時における手続きと事後確認対象申告選定の際の思想の違いです。
 日本では、原則、輸入申告時に原産品申告書(自己申告書)と原産品申告明細書を提出することになっています。従って、提出された原産品申告明細書及びその根拠資料によって、原産性が証明されたと考えた申告については、事後確認の対象となる確率は低いと思われます。原産品申告明細書の提出のない申告及び原産品申告明細書とその根拠資料により、原産性の証明が不十分と考えられる申告が事後確認の主な対象となると思われます。
 これに対し、EUへの輸入の際には自己申告書を含めて税関には提出していないので、よりリスクの高い申告については高い頻度の事後確認を、リスクの低い申告については低い頻度の事後確認をランダム選定によって行うのではないかと考えています。ここで、リスク判断は、輸入者、輸出者、貨物によって判断されることになると思われます。もし、輸出者の証明によりEPA税率で通関したものの、事後確認でEPA税率が否認された場合は、リスクの高い輸出者として、事後確認の確率が高くなることも考えられるので注意が必要です

輸入者に対する事後確認

 事後確認は、まず、輸入者に対して行われます。
 輸入者から原産性に関する資料を要求された場合は、出来る限り対応しましょう。価格に関する情報等、輸入者に知られたくない情報がある場合には、輸入国税関に直接資料を提出することが出来ます。
 日・EU共通のガイダンス(「⽇EU・EPA ⾃⼰申告及び確認の⼿引き」5ページ)には、「この段階で情報提供することは、輸⼊国税関が輸出国税関へ運⽤上の協⼒を求めた結果として、輸出者が輸出国税関から情報提供を求められることを避けることになります。」と記載されていることに留意してください。

輸出国税関による事後確認

 輸入者への事後確認において、原産性に関する十分な情報が得られなかった場合は、必要に応じ、輸入国税関は輸出国税関に対して、輸出者(生産者)の原産性の根拠資料の確認を依頼することができます。
 詳しくは、税関ホームページの「日EU協定に基づくEU税関当局からの情報提供要請」のリーフレットをご参照ください。
 なお、「経済連携協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律」第7条に財務大臣は、「特定原産品申告書若しくは特定原産品誓約書を作成した者その他の関係者に対し、資料の提出を求め、又はその職員(注:税関職員)に、これらの者の事務所その他の必要な場所に立ち入らせ、質問させ、若しくは書類その他の物件を検査させることができる。」と定められています。

日EU・EPAの事後確認
関税協会大阪支部原産地講習会税関資料2019年11月

CPTPPの事後確認

 CPTPPの輸出者に対する事後確認は、輸出国税関から輸出者又は生産者へ直接事後確認が行われます。
 「輸入の場合」の部分に示した図は、税関の資料ですので、日本への輸入を中心に書かれていますが、協定で定められていることですので、日本からの輸出の場合も同じです。「輸出国」と記載された欄を「日本」と読み替えてください。
 輸出国税関から突如問い合わせが来ることも想定されるので、問合せがあった場合に関係部署が迅速に対応できるように原産品申告書のE-メールアドレスや電話番号の記載には注意しておきましょう。
 ここでの輸出国政府は、日本では経済連携協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律第4条の規定により税関とされており、輸入国税関からの協力要請は日本の税関にあります。その際には、税関は経済産業省に通知することとなっています。  

日米貿易協定の事後確認

 日米貿易協定では、輸出者に対する事後確認の規定はありません。
 しかしながら、輸入者から証拠書類の提示の要請があった場合に対応を怠ると、追徴関税関税やペナルティーに対する損害賠償が請求される恐れがあります。証明書や誓約書を輸入者に提出している場合は、自己証明を行うのと同様に原産性の確認や証拠書類の保存を行いましょう。 

輸入事後調査

  輸入事後調査(Post Clearance Audit)は、関税法第105条第1項第6号に基づき税関職員が輸入者の事務所に立ち入り、帳簿書類を調査し、関係者に必要な質問を行うことをいいます。事後確認と異なり、税関の調査部の職員が行います。輸入事後調査は主として輸入貨物の申告価格が適正であるか否かを調査しますが、近年は、EPA税率や一般特恵税率の適用に関し高額の非違が発見されていることから、原産性の確認ついても重点的に調査を行っています。 
 税関ホームページに掲載されている「平成30事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」においても、輸入事後調査によるEPA税率の否認事例が掲載されています 。第三者機関による特定原産地証明書があるからといって安心することなく、輸出者から原産性を確認することができる資料をできる限り入手し、原産地規則を満たしているか否か確認しておきましょう。
 各国でも、日本の輸入事後調査と同様の調査を実施しています。

否認時のペナルティー

 日本では、税関事後確認・事後調査でEPA税率の適用が否認された場合、次の税金を支払う必要が生じます。

  1. 関税
     追徴される関税額=輸入申告価額×産品の(MFN税率-EPA税率)
  2. 消費税
     追徴される消費税額=上記1の追徴関税額×消費税率
  3. 延滞税
     上記1の関税額及び上記2の消費税額について、下記の延滞税が課されます。
     令和2年の延滞税
      ① 法定納期限(通常、輸入許可の日)の翌日から2ヶ月迄 : 年率 2.6%
      ② 法定納期限の翌日から2ヶ月を過ぎてから  : 年率 8.9%
  4. 過少申告加算税(ペナルティー)
     上記1の関税額及び上記2の消費税額の10%。ただし、増加税額が当初の納税申告における税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分に相当する金額の部分については15%

 繰り返し輸入していた物品のEPA税率が否認された場合、追徴される税額が数百万、数千万に及ぶことも珍しくはありません。
 海外でも同様に、ペナルティーが科されます。日本よりも高額のペナルティーが科されることもあるので注意が必要です。

輸出者(生産者)の正しい原産品申告書及び根拠資料の作成義務について

 輸出者(生産者)は、正しい対比表等の根拠資料を作成して日本商工会議所に特定原産地証明書の発給申請を行う必要があります。発給機関に虚偽の申告をして特定原産地証明書を取得した場合は、「経済連携協定における特定原産地証明に関する法律」に基づき罰せられることがあります。
 また、自己証明において虚偽の証明を行って原産品申告書を作成した場合は「経済連携協定における申告原産品に係る情報提供等に関する法律」に基づき罰せられることがあります。

EPA税率の適用の適用を否認された事例及び誤った原産地証明書の発給を申請した事例はこちら

貴社の原産地証明書に間違いはありませんか?

原産地証明の根拠資料として必要な原材料表・対比表中のHSコードには多くの誤りが見受けられます。
間違ったHSコードに基づき日本商工会議所から特定原産地証明の発給を受けている場合、輸入国税関の事後確認(検認)によりEPA(FTA)税率の適用が取り消され、貴社の信用が失墜することは勿論、輸出先から損害賠償を提起される恐れがあります。
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