RCEP:化学品の累積規定の活用とRCEP原産国

  RCEPの品目別原産地規則は一般に、関税分類変更基準付加価値基準(RVC40%)の選択制となっており、非常にシンプルで分かりやすい基準ですが、加工工程基準が設定されている化学品は僅かで、化学品の生産の特性を考慮すると利用に制約が生じると考えられます。しかし、RCEPの累積規定を活用するとそのハンディーを解消することが出来る事例は多いのではないかと思われます。
 累積の規定を利用を利用した場合、最終加工を行った輸出国と異なる国がRCEP原産国となる場合があるので注意が必要です。

目次

関連記事

本稿ご利用上の注意点

本稿のRCEP原産国については、筆者の見解を述べたものです。実際の輸出入に当たっては、輸入国税関又は特定原産地証明書発給機関(日本の場合は日本商工会議所)にご照会下さい。

RCEPの化学品の品目別規則

 RCEPの品目別原産地規則は協定の「付属書3A 品目別原産地規則」に規定されています。化学品の品目別規則を見ると、項変更基準(CTH:HSコードの4桁変更)又は号変更(CTSH、HSコードの4桁変更)と付加価値基準(RVC40%)の選択制となっている項目が多く、非常にシンプルで分かりやすい基準です。
 しかしながら、化学品においては同一の項又は号に全く異なる物質が含まれていることが数多くあります。一般に化学品においては、化学反応を経た物質は原材料の物質と全く異なる物質となり、実質的な加工が行われたとみなすことができると考えられます。従って、化学品に加工工程基準を設けている協定が多くあります。
 ところが、RCEPにおいては加工工程基準が設定されている化学品は、下記の表にある通りごく一部の物品に限定されています。
 化学品では付加価値基準が採用されている品目が多いので、関税分類変更基準を満たさない場合には付加価値基準で証明すればよいのですが、付加価値基準の証明には価格情報が必要であり、特に価格変動の激しい原材料を用いている場合には証明の管理が大変です。
 これに対し、加工工程基準では、物品の製造が行われる工程がEPAの基準を満たしていることを証明すればよいので、証明の管理が容易です。

RCEPで加工工程基準(化学反応)がある品目

HSコード品名
29.01非環式炭化水素
29.02環式炭化水素
29.07フェノール及びフェノールアルコール
29.09エーテル、エーテルアルコール、エーテルフェノール、エーテルアルコールフェノール、アルコールペルオキシド、エーテルペルオキシド及びケトンペルオキシド(化学的に単一であるかないかを問わない。)並びにこれらのハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体及びニトロソ化誘導体
29.14ケトン及びキノン(他の酸素官能基を有するか有しないかを問わない。)並びにこれらのハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体及びニトロソ化誘導体
2916.15オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸並びにこれらの塩及びエステル 
29.20非金属のその他の無機酸のエステル(ハロゲン化水素酸エステルを除く。)及びその塩並びにこれらのハロゲン化誘導体、スルホン化誘導体、ニトロ化誘導体及びニトロソ化誘導体
38.11アンチノック剤、酸化防止剤、ガム化防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤その他の調製添加剤(鉱物油(ガソリンを含む。)用又は鉱物油と同じ目的に使用するその他の液体用のものに限る。) 
38.24鋳物用の鋳型又は中子の調製粘結剤並びに化学工業(類似の工業を含む。)において生産される化学品及び調製品(天然物のみの混合物を含むものとし、他の項に該当するものを除く。)

RCEPの加工工程基準

 RCEPにおいては、化学反応のみが加工工程基準として上記の品目に 設けられており、「CR」という記号で表されています。
 ここでいう化学反応とは、多くの協定と同じく次のように規定されています。

「化学反応」とは、分子内の結合を切断し、かつ、新たな分子内の結合を形成すること又は分子内の原子の空間的配列を変更することにより、新たな構造を有する分子を生ずる過程(生化学的なものを含む。)をいう。この定義の適用上、次のものは、化学反応とみなさない。

  1. 水その他の溶媒への溶解
  2. 溶媒(溶媒水を含む。)の除去
  3. 結晶水の追加又は除去

日本のEPA/FTAの化学品の加工工程基準

アセアンとのEPAの化学品の品目別規則

 我が国とアセアン諸国とのEPAを見てみると、シンガポール、タイ、インドネシア、ブルネイとの協定においては、化学反応、精製、異性体分離、生物工学的工程に関する規定があります。
 アセアン、マレーシア、フィリピン、ベトナムとの協定には加工工程基準はありません。

日EU・EPA及びTPP11の化学品の加工工程基準

 日EU・EPA及びTPP11では幅広く化学品に加工工程基準が定められています。化学反応、混合・調合、精製、粒径の変更、標準物質の生産、異性体の分離、生物学的工程(日EU・EPAのみ)などです。混合・調合、粒径の変更、標準物質の生産に関する規定はアセアン諸国とのEPAにはありません。

第27.10項の加工工程基準

 27.10項には、石油製品が分類されます。第27.10項の物品には、ガソリン、灯油、軽油、重油等の燃料の他、石油又は歴精油の含有量が70%以上の潤滑油や粗油が含まれています。
 日EU・EPAでは、第27.10項の加工工程基準は次のようになっています。

蒸留又は化学反応が行われること(生産において使用されるバイオディーゼルは、エステル化、エステル交換反応又は水素化処理によって得られものであること)

 TPPではもっと幅広く、「直接的な調合」も原産地基準を満たす加工と規定されています。
 石油製品の精製工程では、第27.10項に分類される粗油や重質留分を用いて化学反応を伴うクラッキングや蒸留等により同じ項に分類されるケロシンやガソリン等の軽質燃料を製造することが一般的です。日EU・EPAやTPPの様な規定があると、この石油精製工程を工程を経た燃料等も石油精製行った国の原産品と認められることとなります。
 TPPのように「直接的な調合」も 認められると、基材に石油および歴精油を用いて潤滑油を製造する場合に、原産品として認められやすくなります。

RCEPの累積の規定と原産地基準を満たさない簡単な加工

累積の規定

 RCEPでは、他の締約国の原産品を自国の原産材料とみなすこと(「累積」)ができる旨が規定されています(物の累積)。
 RCEPの特徴は何といっても日本、中国、韓国及び東南アジア諸国という生産大国をカバーし、種々の製造工場が立地していることです。RCEP締約国に輸出する産品の原材料もRCEP締約国から輸入している場合が多く、サプライチェーンが締約国で完結していることが多いのではないでしょうか。化学品の特性やRCEPがメガFTAであることを考慮すると、RCEPの累積規定を利用すると加工工程基準を利用できないハンディーをある程度克服できる場合が多いのではないかと思われます。
 また、この累積の規定を使用すると、これまで中国又は韓国の原材料を使用しているためにアセアン諸国向けのEPAを利用できなかった産品についても、RCEP発効後は、RCEPの優遇税率を利用できる場合があることとなります。

原産地基準を満たさない軽微な加工 (第3・6条)

 非原産材料に行われる軽微な加工については、例え表面上関税分類変更基準を満たしていたとしても、原産品としての資格を与えるための加工とはみなされません。特に化学品で関係する軽微な加工は、次の加工です。

(d) 産品の特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈

(i) 産品の単純な混合(異なる種類の産品の混合であるかどうかを問わない。)

 例えば次のような加工は、産品(第3814.00号)と原料のHSコードが全て異なり、また、第38.14項の品目別規則は「CTH又はRVC40%)」ですので、表面上関税分類変更基準を満たしています。しかし、ただ単に3種類の有機溶剤を混同しただけであることから、上記の「(i)産品の単純な混合」に相当すると考えられ、RCEPの原産地基準を満たさないとみなされる可能性があります。

「特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈」及び「単純な混合」と「混合及び調合」

 例え表面的に関税分類変更基準を満たしていても、「単純な混合」と認定されるとEPA/FTAの優遇税率を否認されます。化学調製品の製造に当たっては、輸入国税関からの問い合わせがあった場合に、自社の製造工程が 「特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈」又は「単純な混合」ではないことを主張できるように前もって準備しておくことが望ましいと考えます。

日EU・EPAにおける「混合及び調合」の定義

 日EU・EPAにおいては「混合及び調合」は次のように定義されています。

「混合及び調合」とは、専ら所定の仕様と合致させるための材料の意図的なかつ比例して制御された混合又は調合(分散を含み、希釈剤の添加を除く。)であって、その結果として、産品の用途に関係し、及び投入された材料と異なる物理的又は化学的特徴を有する産品の生産が行われるものをいう。

“mixing and blending” means the deliberate and proportionally controlled mixing or blending (including dispersing) of materials, other than the addition of diluents, only to conform to predetermined specifications which results in the production of a product having physical or chemical characteristics that are relevant to the purposes or uses of the product and are different from the input materials”

 日EU・EPAにおいても、第3・4条で、「産品の単純な混合(異なる種類の産品の混合であるかどうかを問わない。)」及び「単に水を加えること、希釈、脱水又は産品の変性」は「十分な変更とはみなされない作業又は加工」であると規定され、形式的に関税分類変更基準を満たしていても原産地基準を満たしているとは認められません。
 RCEPの原産地証明においても、日EU・EPAの「混合及び調合」の規定を参考に原産品であることの根拠資料を準備しておくことが望ましいと考えます。

累積の規定・加工工程基準とRCEP原産国

 累積の規定を利用すると、RCEPで殆ど加工工程基準がないことを補完できる場合があります。その場合、RCEP締約国がどこになるのか紛らわしいこともあると思います。
 以下、それらについてみていきたいと考えます。

関税分類変更基準を満たさない物品の事例(化学反応)

 クエン酸(2918.14)と水酸化ナトリウム(28.15)から日本でクエン酸ナトリウム(2918.15)を製造して中国へ輸出する場合を考えます。中国のクエン酸ナトリウムの譲許は、基準税率6.5%から11年目に無税となるまで、毎年約0.6%下がっていきます。RCEPの2918.15号の品目別原産地規則は、「CTH又はRVC40」ですので、この工程ではクエン酸とクエン酸ナトリウムが同じ項に属するので関税分類変更基準を満たしません。

日本でのクエン酸ナトリウムの製造

 ここで、製造に使用するクエン酸がタイ原産品であるとします。 そうしますと、累積の規定を使用すると、関税分類変更基準で比較すべき物品は水酸化ナトリウムのみとなり、RCEPの品目別原産地規則を満たすこととなり、RCEPを利用して中国に輸入することが出来ます。
 この場合のRCEP原産国は日本となります。

関税分類変更基準を満たさない物品の事例(精製)

 化学品を精製する行為は、一般に、HSコードが変更とはならないので、関税分類変更基準を満たしません。しかしながら、累積の規定を利用できる場合には、RCEPの原産地基準を満たすことが出来ると考えられます。
 例えば下記の事例で、純度99.5%の中国原産品である硝酸バリウムを日本で純度99.99%まで精製してベトナムに輸出するとします。精製はRCEPの第2.6条第5項に規定する軽微な加工以外の製造・加工であると考えられることから、純度99.99% の硝酸バリウムのRCEP原産国は精製を行った国である日本となります。

標準物質の生産

 認証標準物質(Certified reference mterials)は一般に第38.22項に分類され、品目別原産地規則は「CTH又はRVC40%」です。この場合は、一般に他の項の物質を用いて製造されていると考えられ、その場合には関税分類変更基準を満たすこととなります。
 しかしながら、第28類又は第29類の化学的に単一の化合物を精製したもの及び水に溶解したものは、認証標準物質であっても化学的に単一な化合物として当該化合物と同一項に分類されます。この場合は、標準物質の生産は関税分類変更基準を満たさないと考えられます。

関税分類変更基準を満たさない場合のRCEP原産国

 事例として、中国産のチオ硫酸ナトリウムを用い、0.1mol/l(0.1N)の滴定用チオ硫酸ナトリウム標準溶液を製造する場合を考えます。
 水への溶解については、軽微な加工に明確な規定はありませんが、一般に「産品の単純な混合」に該当し、日本の原産品とは認められないのではないかと思われます。中国産のチオ硫酸ナトリウムを日本産の精製水に溶解した場合、チオ硫酸ナトリウムの価額が精製水の価額よりも高ければ、このチオ硫酸ナトリウム水溶液のRCEP原産国は中国となります。
 ここで、このチオ硫酸ナトリウム水溶液の標定を行い、 0.1mol/l(0.1N)の滴定用チオ硫酸ナトリウム標準溶液を製造した場合、標準物質の製造は軽微な加工に該当しないと考えられるので、RCEP原産国は日本となると考えられます。

軽微な加工 (第2.6条第5項)に該当する場合のRCEP原産国

 RCEP原産国は、原則として最終的な生産を行った輸出国となりますが、 第2.6条第5項に規定する軽微な工程のみを行った場合はRCEP原産国は輸出国以外の国となります。例えば、上記の配合シンナーの製造を考えてみましょう。

 配合シンナーの製造が単なる混合とみなされる場合、配合シンナーのRCEP原産国は日本とはなりません。この配合シンナーの原産国は最も価額の高い原材料を製造した国となります。もし、中国産の酢酸メチルの価額が一番高い場合、RCEP原産国は中国となります。
 もし、各材料の価額が不明である場合であって、締約国によって税率格差がある場合には、関係する締約国のうちで最も関税率の高い国をRCEP締約国とすることが出来ます。

EPA/FTA原産地証明のコンサルティング

コンサルティング
*原産地証明書の根拠資料の作成方法が分からない。
*JETROや商工会議所に相談したが、原材料のHSコードが分からない。
*輸入国税関から問い合わせが来たが、どのように対応したらよいかわからない。

初歩の初歩から対応いたします。
是非、HSコードのプロにお任せください。
作業に着手するまでのご相談は無料です。お気軽にお問合せください。