衣類の輸入はRCEPの輸入者自己申告がお勧め

 RCEP(地域的な包括的経済連携協定)では、衣類の原産地基準は類変更基準となり、他のアセアン諸国との協定と比較して非常にシンプルな基準です。生産指図書、仕様書等により生産委託した商品を日本に輸入する場合は、手数料の削減、リードタイムの短縮、原産地証明書不備のリスク回避の観点から輸入者自己申告(輸入者自己証明)の利用がお勧めです。
 RCEPの関税引き下げと原産地規則の概要については、こちら

目次

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RCEP利用時の衣類の関税率

 RCEP協定は外務省のホームページに掲載されています。このうち、日本の関税の譲許表は、「附属書I 関税に係る約束の表」に掲載されています。
 衣類は、HSコードの第61類(編物の衣類)及び第62類(織物等の衣類)に分類されます。
 アセアン諸国、オーストラリア及びニュージーランドから輸入される衣類のRCEPの関税率は原則として即時無税となります。一部の品目(羊毛製の女子用コート(610210.020)等)は16年目に撤廃となりますが、これらの品目については既存のアセアン諸国とのEPA(FTA)で関税無税となっています。譲許表又は来年1月1日以降に税関ホームページに掲載される実行関税率表でご確認ください。
 中国・韓国から輸入される衣類の関税率については、現行の税率(10%程度)が段階的に下げられて16年目に無税となる品目が大部分です。中国からの衣類については、一部11年目に無税となる品目もあります。

アセアン諸国、オーストラリア及びニュージーランドからの衣類で即時撤廃とならない品目(例示)

項(HS4桁)品目統計品目番号品名基準税率撤廃時期
61.01男子用のオーバーコート、カーコート、ケープ、クローク、アノラック(スキージャケットを含む。)、ウインドチーター、ウインドジャケットその他これらに類する製品(メリヤス編み又はクロセ編みのものに限るものとし、第61.03項のものを除く。)610120.010綿製のもの(ししゅうしたもの、レースを使用したもの及び模様編みの組織を有するもの)10.9%16年目
610130.011合成繊維製のもの (ししゅうしたもの、レースを使用したもの及び模様編みの組織を有するもの) 10.9% 16年目
61.02女子用のオーバーコート、カーコート、ケープ、クローク、アノラック(スキージャケットを含む。)、ウインドチーター、ウインドジャケットその他これらに類する製品(メリヤス編み又はクロセ編みのものに限るものとし、第61.04項のものを除く。)610210.020羊毛製又は繊獣毛製のもの(その他のもの)10.9% 16年目
610220.010 綿製のもの(ししゅうしたもの、レースを使用したもの及び模様編みの組織を有するもの) 10.9% 16年目
610230.011 合成繊維製のもの (ししゅうしたもの、レースを使用したもの及び模様編みの組織を有するもの) 10.9% 16年目
61.03男子用のスーツ、アンサンブル、ジャケット、ブレザー、ズボン、胸当てズボン、半ズボン及びショーツ(水着を除く。)(メリヤス編み又はクロセ編みのものに限る。)610332.010
610332.020
ジャケット及びブレザー(綿製のもの)10.9%16年目
61.08女子用のスリップ、ペティコート、ブリーフ、パンティ、ナイトドレス、パジャマ、ネグリジェ、バスローブ、ドレッシングガウンその他これらに類する製品(メリヤス編み又はクロセ編みのものに限る。)610811.000スリップ及びペティコート(人造繊維製のもの)7.4% 16年目

RCEPと暫八は同時に利用できる

 RCEP税率と関税暫定措置法第8条の加工再輸入減税(いわゆる「暫八」)は同時に利用することが出来ます。RCEPを利用する際には、加工再輸入減税の減税額を計算する場合の税率はRCEP税率を適用することとなります。(税関ホームページ「RCEP協定業務説明会(2021年6月16日、22日、23日、25日実施) Q&A」参照)
 アセアン諸国からの輸入に際しては、RCEPの税率は原則として無税ですので暫八を利用することは殆どないと思われます。中国からの輸入は概ね15年かけて徐々に関税が削減されていきますが、これまで通り暫八を利用出来ますのでRCEPの利用価値は大きいと思われます。

RCEPの衣類(HSコード第61類及び第62類)の原産地基準

RCEPの原産地基準

 RCEPの第61類及び第62類の品目別原産地規則は「CC」となっています。これは、関税分類変更基準で「類変更基準」と呼ばれるもので、使用する全ての非原産材料のHSコード2桁(類)が生産品の HSコード2桁(類)と異なっていれば原産品と認められて、RCEP税率を利用出来ます。
 織物の生地(HS50類~55類)や編物(60類)は衣類(HSコード第61類及び第62類)と類が異なるので、他の原産地基準と比べて緩い原産地基準となっています。
 衣類が原産地基準を満たすためには、締約国等において縫製という1工程で良いことから、1工程ルールと呼ばれることもあります。
 RCEPを利用する際の原材料一覧表には、原則として全ての使用材料のHSコードを記載しておく必要があります。

RCEPの原産地基準を満たさない非原産材料

 衣類(HSコード第61類及び第62類)の原産地基準の原産地基準は類変更(HSコード2桁変更)ですので、衣類と同じ類に分類される非原産材料を使用している場合にはRCEPを利用することは出来ません。

完成品の衣類と同じ項に分類される原材料(未完成の衣類)

 衣類を作るために特定の形状に編み上げたメリヤス編み又はクロセ編みの編地は、通常、完成した衣類と同じ項に分類されます。
 また、衣類を作るために特定の形状に裁断した織物も、 通常、完成した衣類と同じ項に分類されます。
 詳しくは、「製品にしたものの定義」の記事をご参照ください。

第61.17項又は第62.17項に分類される衣類の部分品

 第61類の衣類の部分品でメリヤス編み及びクロセ編みのもの(61.17項)及び第62類の衣類のメリヤス編み又はクロセ編みでない生地の部分品(62.17項)は、衣類と同じ類に分類されます。
 これらの部分品には、ドレスシールド、肩パッドその他のパッド、単なる裁断以外の方法により製品にしたラベル、バッジ、記章、ポケット、袖、襟、各種の装飾物(ロゼット、蝶結び、ひだ飾り及びすそ飾り等)等が含まれます。

アセアン諸国とのEPAの原産地基準

 例えば、日ベトナムEPAの第62.01項(織物製の男子用外衣)の品目別原産地規則は次のようになっています。

CC(第50.07項、第51.11項から第51.13項までの各項、第52.08項から第52.12項までの各項、第53.09項から第53.11項までの各項、第54.07項、第54.08項、第55.12項から第55.16項までの各項又は第60類の非原産材料を使用する場合には、当該非原産材料のそれぞれがいずれかの締約国又は東南アジア諸国連合の構成国である第三国において完全に製織される場合に限る。)

 上記の括弧書きの中に定められた産品は何れも紡織用繊維の織物及び編物になります。従って、原材料の中で織物と編物の生地は2国間EPAの締約国かアセアン諸国で製織又は編まれたものでなければならないことを示しています。
 衣類が原産地基準を満たすためには、締約国等において糸から織物を織る(又は編物を編む)工程と縫製という二つの工程が必要となることから2工程ルールと呼ばれています。
 また、上記の原産地基準には第11部注釈(第50類から第63類まで)には次のような規定が別途あります。

第61類から第63類までの各類の産品が原産品であるか否かを決定するに当たり、当該産品について適用される規則は、当該産品の関税分類を決定する構成部分についてのみ適用されるものとし、当該構成部分は、当該産品に係る規則に定めるCTCに基づく規則を満たさなければならない。

 この注釈において、「当該産品の関税分類を決定する構成部分」とは、衣類の表地の事であり、衣類の裏地やポケット等の部分は考慮する必要はないとされています。
 従って、アセアン諸国とのEPAで原産地証明を行うためには、表地の部分が締約国又はアセアン諸国の原産品であることを証明できればよく、必ずしも原材料一覧表にHSコードを全て記載していく必要はありません。
 また、RCEPの原産地証明を行う際に問題となる第61.17項又は第62.17項に分類される衣類の部分品については、「当該産品の関税分類を決定する構成部分」とみなされない限り、考慮する必要はありません。

TPPの原産地基準

 TPPの衣類の原産地基準は、一般に3工程ルールといわれています。即ち、糸を紡ぐ、織物を織る、縫製を行うという3つの工程を締約国で行う必要があります。使用する繊維によってはこの基準の緩和措置もありますが、基準自体が厳しく複雑ですので、他のEPAが利用できる場合はTPPを利用することはないと思われます。

特別特恵関税の原産地基準

 第61類及び第62類の衣類は、後発途上国向けの特別特恵関税が設定され、関税無税で輸入することが出来ます。アセアン諸国の中ではカンボジア、ラオス、ミャンマー、アセアン諸国以外ではバングラデシュが該当します。
 原産地規則は関税暫定措置法施行令第26条及び関税暫定措置法施行規則第9条に規定されており、項変更基準(HSコード4桁変更)となっています。実質的にはRCEPと同じ1工程ルールとなります。
 但し、特別特恵関税はRCEPでは認められない第61.17項又は第62.17項に分類される衣類の部分品の使用が可能です。

RCEPの利用・輸入者自己申告のメリット

 RCEP締約国の工場に生産委託をしている場合、生産指図書や仕様書等に基づき原産地規則を満たしていることが確認できる産品については、輸入者自己申告を行うことは次のようなメリットがあると考えられます。

特定原産地証明書発給手数料の削減

 輸出国において特定原産地証明書の発給を受けるためには発行手数料が必要となります。自己申告では輸入者自ら原産品申告書を作成するので、発行手数料は不要です。その分輸出者への支払いを削減することも可能となります。

輸入リードタイムの短縮

 ファッション性の高い衣類を輸入する際には航空便を利用することも多いと思います。この場合しばしば問題になるのが、貨物の到着より特定原産地証明書の到着が遅くなることです。許可前引取制度(BP)を用いて貨物を引き取ることも可能ですが、税関に差出す担保の費用等、余分のコストが必要となり、また、特定原産地証明書が到着後再度輸入申告を行う手間が生じます。
 輸入者自己申告を利用すると輸入者が作成した原産品申告書で輸入通関できるので、余分なコストもかからずスムーズな通関を行うことが可能です。

特定原産地証明書に関わるりスクの回避

 輸出者から送付されてくる特定原産地証明書が何時も完全であるとは限りません。数量、HSコードの間違い、発給機関の押印の欠落、不鮮明といった理由で税関からEPA税率を否認される恐れがあり、税関に提出する前のチェックが不可欠です。
 原産地証明書に不備があった場合の取扱いについては税関ホームページに記載されています。不備のある原産地証明書が有効か否か輸入通関前に税関に相談するか、又は、輸出者に原産地証明書の再取得を依頼する必要があります。
 筆者は、原産地証明書の印影が半分以上欠落していたので、特定原産地証明書の有効性を税関から否認され、通常の税率での輸入を余儀なくされた事例を聞いています。
 これに対し、輸入者自己申告では自ら原産品申告書を作成するので、こういった特定原産地証明書に関わるりスクを回避することができます。

原産地証明のパターン化・標準化が容易

 RCEPでは、類変更基準という平易な原産地基準となっているので、原材料が類似している衣類の種類毎に原産地証明のひな形を作成しておき、製造委託したした商品に合わせて修正するといった対応が可能です。
 特に、RCEPでは締約国が多いので、同種の商品を複数の国に分散して発注している場合でも、簡素化の対応を行うことが出来ます。

税関の事後調査への対応が容易

  RCEPでは、類変更基準という平易な原産地基準となっているので、 税関の事後確認や事後調査への対応も容易です。「RCEP輸入者自己申告を利用する際の注意事項」に記載した点に注意すれば、原産地証明を間違えることは殆どないと考えられます。
 アセアン諸国とのEPAにおいては、使用している生地がアセアン諸国で製織された又は編まれたものであるということを証明する必要があり、また、非違も多発しています。(非違の事例についてはこちら
 インドネシアの会社に生産委託していた貨物について数か月にわたり日インドネシア協定を利用して通関を行っていたが、輸出者が勝手にアセアン産以外の生地を使用していたことが判明し、数千万円の修正申告を行なうことを余儀なくされたという事例もあります。
 RCEPでは、生地の調達先まで管理する必要が無いので、その意味でも利用する価値は大きいと思われます。

RCEP輸入者自己申告を利用する際の注意事項

衣類の製造に関与していない場合は利用しない

 上記の輸入者自己申告のメリットは、輸入者が生産委託者に仕様書や生産指図書等により、RCEP締約国の工場に生産委託をしており、原材料や生産工場を完全に把握している場合のものです。輸入者自己申告では輸入者が回答できない場合はその時点でRCEP税率の適用が否認されます。他の証明方法のように、輸入者が情報を有しない事項に関して、税関が輸出者又は生産者に対して追加質問を行うといった対応はありませんのでご留意ください。
 RCEP締約国のアパレルメーカーから既製の衣類を購入する際には、一般に生産工場や全ての使用原材料に関する情報の開示が無いと思われることから、輸入者自己申告の利用はお勧めできません。「RCEP:安易な輸入者自己申告の利用は高リスク」のページをご参照ください。

RCEPの原産地基準を満たさない非原産材料を使用していないか確認する

 RCEPの原産地基準を満たさない非原産材料を使用している場合にはRCEP税率を利用できないので、もしそうした原材料をRCEP締約国以外から調達している場合は注意が必要です。
 しかしながら、そうした場合でも非原産材料の価額がFOB価額の10%以下の場合又は非原産材料の重量が総重量の10%以下である場合は「僅少の非原産材料(DMI)」の規定を利用できます。重量基準では生産委託者から材料に関する価格情報を入手する必要はなく、利用のハードルは高くありません。
 税関の通関時の審査や事後確認に備え、証拠書類の製造工程表には裁断等の工程を行う工場を明記しておくと対応がスムーズと考えられます。

アセアン諸国とのEPAの方が有利な場合は、アセアン諸国とのEPAを利用する

 アセアン諸国とのEPAの原産地規則を満足している場合、以下のような衣類はアセアン諸国とのEPAを利用する方が有利と考えられます。

RCEPの即時撤廃品目ではない場合

 アセアン諸国とのEPAでは無税で輸入できるが、RCEPでは即時撤廃の対象品目ではない場合があります。このような場合は、アセアン諸国とのEPAを利用することとなると考えます。

RCEPの原産地基準を満たさない非原産材料の取扱いが問題となる場合

 RCEPの原産地基準を満たさない非原産材料の取扱いが問題となる場合、通常、「僅少の非原産材料(DMI)」の規定を利用すると思われます。第61.17項又は第62.17項に分類される衣類の部分品等、「当該産品の関税分類を決定する構成部分」については、アセアン諸国とのEPAでは考慮する必要はないので、 重量超過等で「僅少の非原産材料(DMI)」の規定を利用できない場合には、アセアン諸国とのEPAを利用することも考えられます。

輸入者自己申告書の作成

 RCEPの輸入者自己申告に関する税関へ提出書類の様式については、協定が発効する前に税関ホームページの原産地ポータルに掲載されるものと考えられます。
 輸入者自己申告の際には一般に下記の書類が必要となります。

  • 原産品申告書
  • 原産品申告明細書
  • 原産性を証明する根拠資料
    • 総部材表(使用原料の一覧表にそれぞれのHSコードを記載したもの)
    • 製造工程表
    • 生産指図書、仕様書等

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