WTOに加盟している国の産品に適用されるMFN税率とEPA(FTA)を締結している国の産品に適用されるEPA税率(FTA税率)について解説します。あわせて、開発途上国の産品に適用されるGSPについても見ていくこととします。

関税種類

 日本では、下記の表に示すように関税が定められています。
 原則として特別な手続きを要することなく、全ての貨物に対して適用される関税を非特恵関税と言います。
 これに対し、一定の定められた件を満たした場合に適用される非特恵関税より優遇された関税が特恵関税です。
 原則として、非特恵関税≧特恵関税、となります。

duty rates : non-preferential and preferential duty rates

非特恵関税

 非特恵関税は、基本税率、暫定税率及び協定税率です。

国定税率

 基本税率暫定税率は、我が国の法律によって定められた全ての国からの輸入品に適用される関税率のことで、これらを合わせて国定税率と呼びます。
 基本税率は関税定率法別表に定められており、全ての品目に設定されています。改正されることは稀です。

 暫定税率は我が国産業の国際競争力の確保や国内産業保護の目的で基本税率と異なる関税率を設定する必要がある品目について、関税暫定措置法において期限を定めて設定されている税率です。暫定税率が設定されている場合には基本税率ではなく暫定税率を適用します。

協定税率

 WTO税率世界貿易機関を設立するマラケシュ協定WTO協定)の付属書に定められた税率で、WTO加盟国及び我が国が通商条約を締結した国に対して適用されます。また、これら以外の国で、日本に対して最恵国待遇と同様の取扱いをしている国・地域に 対し、相互主義の観点からWTO税率を適用する国を政令で定めています。(便益関税)

MFN税率

 通常の輸入では、原則として、国定税率とWTO税率のうち、最も低い税率が適用となります。これをMFN税率(MFN=Most Favored Nation:最恵国)と呼ぶことがあります。
 WTOや通商協定では他の国よりも不利にならないならないように取り扱うことが定められています。これを最恵国待遇といいます。なお、国定税率とWTO税率が同一の場合は国定税率が適用されます。
 また、MFN税率は実際に適用される税率のことで実行税率とも呼ばれます。
 北朝鮮、赤道ギニア、南スーダン等、WTO非加盟国で日本と通商条約を締結していないごく少数の国に対しては最恵国待遇の対象外ですので、WTO税率は適用されず、全ての品目に対して国定税率が実行税率となります。なお、現在(2025年1月)、ウクライナ戦争に伴いロシアの産品に対してWTO税率の適用が停止されています。

特恵関税

 一般特恵関税、特別特恵関税、EPA税率(FTA税率)はMFN税率よりも低い税率が適用されるので、これらをまとめて「特恵関税」といいます。WTO協定では、MFN税率よりも低い特恵関税率の適用は、一般特恵関税又はWTO協定で認められた自由貿易協定(FTA)の加盟国相互の産品にのみ認められています。
 MFN税率が特恵関税の税率と同じか低い場合がありますが、この場合はMFN税率を適用します。

一般特恵関税(GSP)

 一般特恵関税は、GSP(Generalized System of Preferences )とも呼ばれ、開発途上国の経済発展及び工業化の促進を目的として1970年の国連貿易開発会議(UNCTAD)の合意に基づき、先進国がこれら発展途上国の産品に対してMFN税率よりも優遇した税率を供与するものです。一般特恵関税のことを単に「特恵関税」と呼ぶこともあります。
  日本だけではなく先進国は開発途上国からの産品に対し一般特恵関税を供与してる場合が多いですが、受益国は国により異なるので注意が必要です。

特別特恵関税

 特別特恵関税は、後発開発途上国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、バングラデシュ等)からの産品に対し一般特恵関税よりも更に優遇した税率を供与するものです。

特恵卒業

 特恵関税適用国が経済発展し、一定の基準(世銀統計において、過去3年連続で、「高所得国」に分類されている国・地域等)を満たした国は、特恵適用国から除外されます。これを特恵卒業と呼びます。(過去の卒業国はこちら
 特別特恵についても、後発開発途上国から卒業すると特別特恵の受益国から除外されます。
(参考)バングラデシュに対する特別特恵関税の適用延長 

EPA税率(FTA税率)

 EPA税率は協定によって相手国・地域から輸入される産品に供与される優遇税率です。世界的には、EPAという名称ではなくFTAと呼ばれることが多いようです。

特恵関税(GSP、EPA)適用のための手続き

 特恵関税はMFN税率と異なり、法律や協定に定められた手続きに従って特恵関税の適用を申請して初めて適用が認められるものです。
 特恵関税の適用を受けるためには、輸入申告時にその旨を申告する必要があり、日本では輸入後の申請は認められないことに注意する必要があります(CPTPPを除 く。)。また、輸入時に一般特恵原産地証明書、特定原産地証明書、原産品申告書等の提出が必要となります。
(参考)EPA(FTA)税率の適用を受けるための要件

GSPとEPAの適用順位

 GSPとEPAの両方の税率が適用可能な場合、原則としてEPAのみが適用可能となり、GSPは利用できません。
 例えば、インドネシアから製品を輸入する場合、日インドネシアEPA、日アセアンEPA、RCEPの内、最も有利な協定を利用できます。インドネシアはGSPの受益国ですが、GSPの方がEPA税率よりも低い場合のみGSPを利用することが出来ます。

特別特恵関税の例外

 上記の例外として、特別特恵関税とEPA税率と同じ場合でも、特別特恵の利用を選択できます。
 例えば、ミャンマーは日アセアンEPAの締約国であり、特別特恵関税の受益国です。しかし、繊維製品の日アセアンEPAの原産地基準は2工程ルールであり、特別特恵関税の原産地基準は1工程ルールです。共に関税は無税ですが、特別特恵関税の原産地基準の方が緩いので、ミャンマーからは特別特恵関税を利用して繊維製品が輸入されています。

特殊関税

 特殊関税とは、不公正な貿易取引や輸入の急増等の特別の事情がある場合に、貨物・供給者・供給国等を指定して、通常の関税のほかに割増関税を賦課することにより、国内産業を保護・救済するための制度のことです。特殊関税には、緊急関税(セーフガード)、相殺関税不当廉売関税(ダンピング防止税)報復関税があり、これらは通常の税率より高く設定されます。
 特に、不当廉売関税は、我が国でも課税事例が多くあります。
 また、中国製品の米国での一方的な高関税に対しの適用に対し、中国は報復関税で対抗しています。米国のトランプ政権の発足により、世界的な特殊関税の濫用が危惧されるところです。

関税の種類      概 要    我が国の適用例
相殺関税輸出国の補助金を受けた輸入貨物に対する関税大韓民国ハイニックス社製DRAM(2006年)等
不当廉売関税
(アンチ・ダンピング関税)
正常価格(輸出国内の販売価格等)より低い輸出価格(ダンピング価格)で販売された貨物の輸入に対する関税中華人民共和国産ポリエチレンテレフタレート 、大韓民国及び中華人民共和国産水酸化カリウム(何れも現在課税中)、等
緊急関税予想されなかった事情の変化により増加した輸入貨物に対する関税米国産鉄鋼製品(2002年)等
報復関税ある国がわが国の輸出貨物などに対して差別的に不利益な取扱いをしている場合にその国からの輸入貨物に対する関税米国バード修正条項に対する報復関税(玉軸受等に対して課する報復関税)(2014年修了)

特別緊急関税

 特別緊急関税制度は、輸入基準数量を超える、又は発動基準価格を下回る輸入について、追加関税を課すことにより、同種の物品その他用途が直接競合する物品の生産に関する本邦の産業に与える損害を緩和することを目的としたものです。
 関税暫定措置法で予め対象となる物品等が規定されています。
 

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