日米貿易協定が今年1月1日から発効しました。
 この日米貿易協定は、いくつかの点でこれまで日本が締結したEPAとは異なる特徴を有しており、異色の協定といえるでしょう。まず、日米貿易協定の特徴をEPAの実務を行う観点から見ていきたいと思います。次に、どのような品目が協定の対象になるかについて解説することとし、さらに原産地基準、原産地手続及び利用時の注意事項について見ていきたいと思います。

CONTENTS

  1. 日米貿易協定に関する公式資料
  2. 日米貿易協定の特徴
  3. 日米貿易協定の構成
  4. 日米貿易協定による関税の引き下げ
  5. 原産地規則
  6. 米国の関税率の調査方法
  7. 日米貿易協定利用時の注意事項

日米貿易協定に関する公式資料

 税関ホームページに「米貿易協定に関する資料」として、説明会の資料、Q&A、米国税関の手続きに関する情報等が掲載されています。輸出される方はJETROのサイトに「日米貿易協定解説書」が掲載されていますので、併せて参考にして頂ければと考えています。
 また、日本における実際の輸入手続き等については、税関ホームページの原産地ポータル中に「日米貿易協定にかかる原産品申告書等の作成の手引き」が掲載されています。米国側の輸入手続きについては、米国国土安全保障省 税関・国境取締局 (CBP) のホームページに掲載されています。
 日本側の現在の輸入関税率については、税関ホームページの「実行関税率表」をご覧ください。日米貿易協定による関税率も掲載されています。
 協定の条文については、外務省のホームページをご覧ください。和文は、日本の譲許税率、日本へ輸入する際の原産地規則、原産地手続のみが書かれています。米国の譲許税率、米国へ輸入する際の原産地規則、原産地手続については英文をご覧ください。

日米貿易協定の特徴

 まず、日米貿易協定がこれまで日本が締結したEPAと異なる点を見ていきたいと思います。
 第1点は、関税の引き下げに特化した協定であることです。同時に日米デジタル協定が締結されましたが、あくまで別の協定です。EPAは、関税のほか、サービス貿易、投資等幅広い分野をカバーしています。
 第2点は、関税引き下げの対象となる品目が非常に限定されていることです。日本側については、水産品、林産品の他、繊維製品、化学品、プラスチック製品等の鉱工業製品が引き下げの対象から除外されています。米国側でも、よく話題になっている自動車及び同部品のほか、繊維製品、化学品、プラスチック製品等、多くの品目が対象外となっています。WTO協定との整合性を図るために、今後更なる交渉を行う必要があると私は理解しています。他のEPAと比較して対象品目の少なさは、税関ホームページの「実行関税率表」をみると一目瞭然です。
 第3点は、日米双方の原産地規則が別個に記載されていることです。これまで日本が締結したEPAでは、少なくとも骨格部分については共通の条文となっていましたが、日米貿易協定では日本側の規則、米国側の規則と別建てとなっています。
 第4点は、一般規則が無いにもかかわらず、品目別規則が譲許品目(日本側の規則には一部譲許していない品目を含む。)にしか設定されていないことです。これまで日本が結んだEPAにおいては、一般規則が存在するか、無い場合は全ての品目について品目別規則が設定されており、協定の中で原産品か否かの判定が可能でした。日米貿易協定では、協定中の品目別規則で原産品か否か判定できない場合は、それぞれの国内法に基づき判断されるということです。このことは、米国側については、協定に明記(ANNEX Ⅱ 中の“ Rules of Origin Procedures of the United States” paragraph 18(c))されています。原産地規則が一部でも協定ではなく米国国内法の規定によるということになると、理論上、米国の国内法の関連規定が変更になれば原産地規則が厳しくなることもあり得ますので注意が必要です。
 第3点目と第4点目は、関税引き下げの対象となる品目が限定されていることと関係があると思われます。
 第5点は、原産品申告書の作成が輸入者に限られることです。TPPや日EU・EPAでは、輸出者、生産者も作成可能でした。今後日本が締結するEPAにおいて、原産品申告者の作成者がどうなるか注目されるところです。
 なお、日米貿易協定はTPPと異なり、輸入通関後の適用(更正請求を含む。)は認められておりませんのでご注意ください。

日米貿易協定の構成

 これまでのEPAにおいては、協定本文中の、「物品の貿易」(日EU・EPAの場合)において、関税の引き下げその他市場アクセスについての規定があり、その附属書として締約国それぞれの関税の譲許表がありました。また、協定本文中に「原産地規則及び原産地手続」(日EU・EPAの場合)の一般規定があり、その附属書として締約国共通の品目別規則が規定されていました。
 ところが、日米貿易協定においては、簡単な協定本文の後に、附属書Ⅰとして「日本国の関税及び関税に関連する規定」があり、また、ANNEX II(附属書Ⅱ)として「 TARIFFS AND TARIFF-RELATED PROVISIONS OF THE UNITED STATES(米国の関税及び関税に関連する規定)」があります。
(ANNEXⅡは英文のみが正文です。)

附属書Ⅰ 日本国の関税及び関税に関連する規定

附属書1には、次の3つの節が設けられています。

  • 第A節 一般規定
  • 第B節 日本国の関税に係る約束
      この節には、日本の関税譲許表が含まれています。
  • 第C節 日本国の原産地規則及び原産地手続
      この節には、品目別原産地規則が含まれています。

附属書Ⅱ 米国の関税及び関税に関連する規定

附属書Ⅱは、次の3つの部分に分けられています。

  • General Notes of the United States
    この部分に日本の第A節の一般規定と第B節の日本の関税譲許表以外の部分が書かれています。
  • Tariff Schedule of the United States
    米国の関税譲許表です。
  • Rules of Origin and Origin Procedures of the United States
    米国側の原産地規則(品目別原産地規則を含む。)及び原産地手続が書かれています。

日米貿易協定による関税の引き下げ

日本側の関税譲許

 日本側の関税撤廃・引下げ対象品目は農産品及び農産品を加工した化学工業製品です。
 実際の年度ごとの関税引下げについては、本ホームページの「日米貿易協定を利用した輸入の際の関税率」のページ及び税関ホームページをご覧ください。
 農産品でもコメ等は除外されており、水産品及び林産品は対象外です。工業製品は農産品関連の一部品目を除き対象外となっています。
 他のEPAと異なり、関税撤廃・引下げ対象品目が限定されているので注意が必要です。もともと、日本の食品関係の関税率表は非常に複雑になっているので注意しましょう。

米国側の関税譲許

 財務省・税関主催の日米貿易協定の説明会における説明では、米国側の関税撤廃・引下げの対象品目は下記の類型となっています。

  • 牛肉、醤油、ながいも、切花、柿等、輸出関心が高い品目
  • 我が国の高い「ものづくり」の力を体現する高性能な工作機械・同部品等
  • 日本企業による米国現地事業が必要とする資機材
    • エアコン部品
    • 鉄道部品
    • 炭素繊維製造用の調整剤
    • 蒸気タービン
  • 今後市場が大きく伸びることが期待される先端技術の品目
    • 3Dプリンターを含む成形機
    • 燃料電池
  • 地域経済を支え、米国消費者のニーズの高い品目
    • 楽器
    • 眼鏡・サングラス
    • 自転車・同部品

 米国の関税譲許は議会の承認を得る必要がない範囲ということで、最終的な譲許税率は、基準の税率が5%以下のものは無税、5%を超えるものは基準となる税率の50%が最大となっています。

原産地規則

日米共通の原産地規則

 日米貿易協定の原産地規則は、日本と米国の2本立てとなっています。しかしながら、共通している点も多いので、まず、日米共通している原産地規則から見ていきたいと思います。

原産地基準

  1. 日米双方に完全生産品を定義しています。
    日米双方共に、完全生産品の定義には水産物等が含まれていません。
  2. 原産材料のみから生産される産品も日米双方共に定義しています。
  3. 実質的変更基準を満たした産品についても、日米双方共に定義しています。
    しかしながら、実質的変更基準は日米双方共に品目別規則からなっていますが、内容は大きく異なります。この点については、後述します。
  4. 僅少材料の規定も日米双方にあり、産品の価格の10%以下の非原産材料については、原産品であるか否かを決定するに当たり無視することができます。しかしながら、日本側については、多くの品目について僅少材料の規定を使用できないこととされているので注意が必要です。
  5. 累積の規定も日米共通です。日米貿易協定では日本原産、米国原産と分けるのではなく、相手国の原産品を自国の原産材料や生産行為とみなして、原産性の判断を行うことができます。
  6. 他のEPAと同様に、間接材料代替性のある産品又は材料包装材料及び梱包材料等の規定があります。

積送基準

 他のEPAと同様に、積送基準があります。
 原則として相手国に直送することが日米貿易協定の税率適用の条件となります。
 第三国で積替え等を行う場合は、税関の監督下に置かれ、新たな加工等が行われないことが必要です。

原産地手続

 日米貿易協定による特恵関税の要求を行う際には、輸入者による証明が必要です。輸出者又は生産者による証明では日米貿易協定の税率の適用を申請できません

事後確認(検認)

 事後確認は、輸入者に対してのみ行われます
 輸入者は企業秘密等で不開示情報がある場合は、輸出者又は生産者に対し、直接原産地証明に関する情報を輸入国の税関に送付することを依頼することができます。
 税関は輸入者(及び輸入者の手配による輸出者又は生産者)から産品の原産性について十分な情報が得られなかった場合は、EPA税率の適用を否認することができます。

日本側の原産地規則

品目別原産地規則

 第1類から第21類までは、第3類の魚類・水棲動物及び第16類のそれらの調製品を除き品目別規則が規定されており、第3款の表に定めるものを除き類変更基準(2桁変更:CC)となります。
 関税譲許を行った品目以外にも品目別規則を設けています。これは、関税分類変更基準は非原産品のみに適用されることから、産品と同一の類に分類される材料が原産材料か非原産材料かを決定する際の基準が必要となるためと考えられます。
 第3款の表に定められた品目別規則規則は、項変更基準(4桁変更:CTH)や号変更基準(6桁変更:CTSH)となるもの、類変更であるものの特定の産品からの変更を除外するものなどがあります。第2009.90号(ミックスジュース)は付加価値基準となっていることに注意してください。この際、もし、クエン酸等の有機酸、人工甘味料等を原産材料として証明を行いたい場合は、これらの産品の原産地基準について税関に照会した方が良いと思います。(説明会では、協定の原産地規則でカバーされない場合は輸入国の原産地規則(日本の場合は関税法施行令に規定)を用いるとの説明でした。)

輸入時の手続

日米貿易協定日本輸入時の必要書類

 自己証明を行う他のEPAと同様に、輸入申告時に原産品申告書、原産品申告明細書及び原材料表、製造工程表等の原産地証明に必要な根拠書類を提出する必要があります。
 原産品申告書及び原産品申告明細書については任意の様式でも申告可能ですが、税関ホームページに様式が掲載されており、その様式を用いると必要記載事項が網羅されているので便利だと思います。
 *原産品申告書(和文Word
 *原産品申告書明細書(和文Word

米国側の品目別原産地規則

 米国側の品目別規則は、関税譲許を行った品目について米国側のタリフコード(HTSUS)の8桁のコード毎に規定されています。全てが関税分類変更基準となっています。
 注意すべき点は、「except from subheading xxxx.xx」等と記載されている品目です。この際、「except from xxxx」と記載された品目を使用している場合は、これらの品目が協定原産品であることを証明するか、又は、さらに製造工程を遡って品目別規則を満たしていることを証明する必要があります。「except from xxxx」と記載された品目を協定原産品として原産地証明を行う際には、この基準は米国の法律によると協定に明記されています。
 米国連邦規則第19巻第134.35条(a)に規定されているNAFTA締約国以外の産品に対する原産地規則によるという情報もありますが、実際の個別品目の原産地証明を行う必要がある場合には、具体的にどのような基準か、米国の輸入者又は米国税関に確認した方が良いと思います。

米国の関税率の調査方法

 米国側の関税率については、JETROのワールドタリフを利用して調査することができます。また、米国の国際貿易委員会(USITC)の “United States Harmonized Tariff Schedule”のサイトで調査することもできます。JETROのワールドタリフの方が使い勝手が良いですが、稀に誤りがあるという話も聞きますので、心配な方は米国政府のサイトを直接見ると良いでしょう。
 なお、関税の種類については、「EPA税率が設定されていること」のページをご参照ください。

日米貿易協定利用時の注意事項

 日米貿易協定は、輸入者による証明のみを採用していますので、利用には他のEPAとは異なった注意が必要です。

輸入者としての注意事項

輸出者より原産地証明の根拠となる情報を得ている場合

 輸出者又は生産者から日米貿易協定の原産品申告書作成に必要な全ての情報を得ている場合は、その情報を基に、原産品申告書、原産品申告明細書及び原材料表等の根拠資料を含め税関への輸入申告に必要な書類を作成します。
 根拠資料については、輸出者に作成してもらい、日本語訳を付けて税関に提出することもできます。ただし、商社にいた時の経験ですが、輸出者が正しく、分かりやすい資料を作成しているのに、日本語の資料作成の際に誤訳(専門用語のため)をしたり、肝心な点を省略したりしてつじつまの合わない資料となっていたことがありました。資料作成の際は専門家のチェックを受けると良いと思います。
 原産品申告明細書作成時に使用した資料は、5年間保存しておきましょう。原則として税関に提出した資料については保存義務がありませんが、提出しなかった資料については関税法の規定により5年間保存する必要があます。実務上は、これらの一連の資料をまとめて保存しておきましょう。これらの書類は税関の事後確認及び輸入事後調査の際の疎明資料となります。書類の保管が十分ではなく税関に原産性の証明ができなかった場合は、追徴の対象となる可能性があるので注意しましょう。

輸出者より原産地証明の根拠となる全ての情報を得ていない場合

 輸出者又は生産者から日米貿易協定の原産地証明に必要な十分な根拠資料を得ていない場合は、輸入の日から5年間は税関から事後確認や事後調査を受ける可能性があるので、輸出者に対して必要な資料を輸入の日から5年間保管しておいてもらいましょう。
 輸出者からの原産地証明書や誓約書等により原産品申告書を作成する場合は、これらの証明書、誓約書、輸入契約書等に出来れば次の事項を明記しておくと安心です。
 *本ホームページ「自己証明利用時のリスク回避策(輸入)」参照

  • 税関からの問合せに対し、輸入者を通じ、又は、税関に直接必要な情報・資料を提供すること
  • 輸入後に原産地規則を満たしていないことが判明した場合及び税関の事後確認又は事後調査に際して、日米貿易協定上の原産品であることを証明できなかった場合は、追徴関税及び加算税等を賠償すること

輸出者としての注意事項

 協定上、書類の保管も含めて輸出者に対して課されている義務はありません。
 しかしながら、輸出品について、日米貿易協定の原産地規則を満たしていることの証明書や誓約書等を輸入者に対して提出している場合は、米国税関からの照会に対して対応しなかったり、日米貿易協定上の原産品であることを証明できなかった場合は、輸出先から追徴関税及びペナルティー等の賠償を請求される可能性があります。輸出先からの要請のある期間、根拠資料を保管しておきましょう。
 その際、輸入する時と同様に原産品申告明細書を作成し、その根拠資料をまとめて保管しておくと輸入者、税関からの問合せに対して迅速に対応できます。
 *本ホームページ「EPA原産品申告書(自己証明書)の作成方法」中の「Step4 事後確認に備えた証拠書類の作成」をご参照ください。

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