輸入者がEPA税率の適用を受けようとする際の手順を、船積前(契約時を含む。)、船積時、輸入時及び輸入後の4段階に分けてみていきます。第三者証明を利用する際と自己証明(自己申告)を利用する際では手続きについて違いはありますが、EPA税率の適用ができるかどうかの確認や輸入後の税関事後確認及び事後調査への対応については、大きく異なるところはありません。

CONTENTS

【参考】
  日本が締結しているEPAについてはこちら 
  EPAの証明方法についてはこちら

船積前の手続き

HS番号を確定する

 まず、輸入しようとする産品のHS番号を確定します。これまで輸入実績があったとしてもそのHS番号を頭から信用するのは禁物です。
 少しでも不安があれば、通関業者等に依頼して輸入を予定している税関の通関部門にHS番号を確認してもらいましょう。
 もし、過去に関税分類に関してトラブルのあった産品や、輸出者の指定するHS番号と輸入時のHS番号が異なっている場合には、関税分類の事前教示を受けておくと、HS番号が確定するので安心です。
 また、HS番号は、協定毎に使用するHSのバージョンが定められています。現在のHS(2017年版)が使用されているのは、日EU・EPAと日米貿易協定だけです。その他の協定については、協定で指定されているバージョンのHS番号を使用する必要があります。協定で指定するHSの調査方法については、こちらをご覧ください。

 ・HS番号についてはこちら 

MFN関税率、EPA税率を確認する

 HS番号が確定したら、税関ホームページの「実行関税率表」から、輸入しようとする産品の関税率を調査します。EPA税率が通常の税率(MFN税率)より低い場合にEPAの利用を検討します。
 EPAの利用には事務的なコストもかかるので、その点も考慮して利用するか否かを決定します。

EPAの原産地基準を満たしていることを確認する

 EPAを利用することを決定したら、次に産品が使用する協定の原産地基準を満たしているか否かを確認します。EPAの原産地基準は税関ホームページの「原産地規則ポータル」の「品目別原産地規則の検索」を利用すると便利です。
 そこに記載された品目別原産地規則(原産地基準)と産品の原料及び製造工程等を比較して利用するEPAの原産地基準を満たしていることを確認します。
 第三者証明を利用する場合、「公的な第三者が証明を行うので輸入者は産品が原産地規則を満たしていることを確認する必要はない」という人がいますがそれは間違いです。第三者証明にはしばしば間違いがみられますし、税関の事後確認や事後調査の際に産品が原産地基準を満たしていることを説明するのは一義的には輸入者となります。また税関が掲載している「輸入においてEPA税率適用を否認された事例」に掲載されている事例は、全て第三者証明のものです。
 もし輸入しようとしている産品が原産地基準を満たしているかどうか判断がつかない場合は専門家に相談することをお勧めします。当コンサルティングでも、対応を行っていますのでご利用ください。
 輸入契約時、船積前に産品がEPAの原産地基準を満たしていることを確保するための対応策を考えてみましょう。

委託生産・仕様書等により生産された産品の輸入

 もし、輸入しようとしている産品が委託生産によるものであるとき又は生産仕様書、生産指図書等により産品の原材料や製造工程を指定している場合には、それらの発注書、生産仕様書、生産指図書等をEPAの原産地基準に基準と適合したものにしておきましょう。このことは特に、EPAの原産地基準を満たす場合に特定の原材料を使用する必要がある場合には非常に重要です。例えば、織物の衣類(第62類)をアセアン諸国とのEPAを利用して輸入する場合は、使用する生地はアセアン諸国で製織されたものであることを明記しておきます。

企業秘密等で必要な情報を入手できない場合

 EPAの原産地規則を満たしていることの情報を予め輸出者から得ておくことは理想的ですが、企業秘密等で情報が提供されないことも多いと思います。
 そのような場合、日・豪EPAのように第三者証明と自己証明が選択できる場合は第三者証明を利用しましょう。自己証明の場合は、出来れば輸入契約書に何らかの形でリスク回避のための文言を入れておくと安心です。

原産地証明書取得の準備

第三者証明の場合

 最初にEPAを利用する場合には、EPAの原産地規則を満たしていることを審査する期間も考慮して、輸出者に余裕を持って発給機関に申請をしておいてもらいましょう。

自己証明の場合

 誰が原産品申告書(自己証明書)を作成するかを輸出者と協議をして決定します。
 輸出者又は生産者が作成する場合でも、出来れば輸入申告時に提出が必要となる原産品申告明細書及び原材料表、製造工程表等の作成に必要な情報を入手しておきましょう。

船積時の手続き

特定原産地証明書又は原産品申告書の取得

第三者証明を利用の場合

 輸出者に特定原産地証明書を取得してもらい、インボイス等必要書類とともに送付してもらいます。
 特にタイ、ベトナム、マレーシア等、2以上のEPAを利用可能な国から輸入する場合は、どの協定の特定原産地証明書を取得してもらうか、必ず輸出者に指定しましょう。通常、EPA税率が最も低く、原産地証明が簡単な協定を選択します。
 協定により大きくEPA税率や原産地規則が異なる場合があり、指定したEPAと異なる原産地証明書が送付されてきた場合は注意しましょう。 

自己証明を利用の場合

 自己証明書を輸出者又は生産者が作成する場合、インボイスと共に必要事項を記載した原産品申告書を送付してもらう(TPP及び日・豪EPAの場合)か、又は、インボイス上に協定で定められた申告文を記載してもらい(日EU・EPAの場合)送付してもらいます。

直送B/L又は通しB/Lで運送してもらう

 利用する協定の積送基準を満たす方法で運送してもらいます。通常は協定締約国の空港・港湾から日本の空港・港湾までの直送B/L又は通しのB/Lで運送してもらいます。この直送B/L若しくは通しのB/Lが積送基準を満たすことの証拠書類となります。もし、第3国の保税地域を物流拠点等に使用する場合等の理由で直送B/L又は通しB/Lで運送できない場合は、予め税関に相談しましょう。

輸入時の手続き

第三者証明の場合

 輸出者からの書類が届いたら、特定原産地証明書が真正なものであるかどうか、誤りがないかどうか、印影の欠落等がないかを必ずチェックします。もし、特定原産地証明書に不備があった場合、税関ホームページの「不備のある(EPA/GSP)原産地証明書等の取扱い」で条件付きで認められる可能性があるものについては証拠書類を整えて、輸入申告を行う前に税関に相談しましょう。
 印影の欠落等、認められないものについては、輸出者に再発給を依頼しましょう。この際、貨物は許可前引取(BP)を利用して国内に引き取ることが出来ます。特定原産地証明書が届いたら改めで納税申告を行い、正式な輸入許可を得ます(IBP)。
 不備のある特定原産地証明を税関に提出して輸入申告を行い、EPA税率の適用を認められない事例が発生しているので注意しましょう。

輸出者又は生産者による自己証明による場合

 輸出者又は生産者から原産品申告書(自己証明書)が届いたら、原産品申告明細書と原産品であることを証明する根拠書類を作成します。輸出者又は生産者から必要な情報を入手していない場合は、入手している範囲内で作成します。これらの原産品申告書、原産品申告明細書、根拠資料と通常の輸入申告の際に必要なインボイス、B/L、インボイス等を通関業者に送付します。
 制度上は通関業者も原産品申告明細書を作成することが出来ることになっていますが、多くの通関業者は対応していないようです。
 なお、日EU・EPAの場合、輸出者又は生産者から必要な情報を入手していない場合は、その旨を輸入申告の際にNACCSに入力することにより原産品申告明細書及び根拠資料の提出を省略することが出来ます
 また、日米貿易協定では、輸出者又は生産者の自己証明は利用できません

輸入者による自己証明の場合

 輸入者による自己証明の場合は、輸入者が原産品申告書を作成します。更に、原産品申告明細書と原産品であることを証明する根拠書類を作成し、通常の輸入申告の際に必要なインボイス、B/L、インボイス等と共に通関業者に送付します。 
 日EU・EPAでは、輸入者による自己証明の場合は原産品申告書を作成する際に原産地基準を満たしていることを証明する全ての根拠資料を入手していることが前提となりますので注意してください。
 日米貿易協定は、輸入者による自己証明のみが利用できます。

輸入後の対応

 輸入後、利用する協定に関わらず、根拠資料を5年間保存する必要があります。詳しくは「EPAに関する帳簿・書類の保存」のページをご覧ください。
 また、輸入後に行われる税関の事後確認(検認)と事後調査に対応する必要があります。詳しくは「事後確認(検認)と事後調査」のページをご覧ください。

EPA/FTA原産地証明のコンサルティング

コンサルティング
*原産地証明書の根拠資料の作成方法が分からない。
*JETROや商工会議所に相談したが、原材料のHSコードが分からない。
*輸入国税関から問い合わせが来たが、どのように対応したらよいかわからない。

初歩の初歩から対応いたします。
是非、HSコードのプロにお任せください。
作業に着手するまでのご相談は無料です。お気軽にお問合せください。