非特恵原産地規則は、MFN税率(最優遇国税率)を適用するための規則です。殆どの国で製造された物品にはMFN税率が適用されますが、一部、北朝鮮、東チモール、赤道ギニア、南スーダン等、WTO非加盟国で日本と通商条約を締結していないごく少数の国に対しては適用されません。このため、どこの国で製造されたかを明確にする必要があり、そのための基準が「非特恵原産地規則」となります。
これとは別に、EPAや一般特恵税率を適用するための基準を定めた原産地規則がありますが、基準は「非特恵原産地規則」と異なるので注意しましょう。
非特恵原産地規則は、MFN税率の適用の他、各地の商工会議所で発給している一般の「原産地証明書」及び税関が原産地表示の誤認を認定する基準(関税法第71条)となっています。
目次
- 関税法施行令第4条の2の規定
原則(完全生産品と実質的変更基準を満たした産品)を規定 - 関税法施行規則の規定
完全生産品の具体的基準及び実質的変更基準を満たした産品は項変更基準であることを規定 - 税関長が指定する加工又は製造
項変更基準を満たさない物品に対する救済規定
関税法施行令第4条の2の規定
関税法施行令第4条の2第4項に、非特恵原産地規則の定義が書かれています。
原産地とは、次の各号に掲げる物品の区分に応じ当該各号に規定する国又は地域をいう。
一 一の国又は地域において完全に生産された物品として財務省令で定める物品
二 一の国又は地域において、前号に掲げる物品以外の物品をその原料又は材料の全部又は一部としてこれに実質的な変更を加えるものとして財務省令で定める加工又は製造により生産された物品
上記の一は、いわゆる「完全生産品」(PE)となります。
ニは、いわゆる「実質的変更基準を満たした産品」(PSR)です。
日本の非特恵原産地規則には、「原産材料のみから生産される産品」に関する規定はありません。
関税法施行規則での規定
関税法施行令で、「財務省令で定める」とされているものは、関税法施行規則で、「完全に生産された物品」及び「実質的な変更を加える加工又は製造」として規定されています。
完全に生産された物品の指定(第1条の6)
次の物品が完全生産品であると規定されています。
一 一の国又は地域(その大陸棚を含む。)において採掘された鉱物性生産品
二 一の国又は地域において収穫された植物性生産品
三 一の国又は地域において生まれ、かつ、成育した動物(生きているものに限る。)
四 一の国又は地域において動物(生きているものに限る。)から得られた物品
五 一の国又は地域において狩猟又は漁ろうにより得られた物品
六 一の国又は地域の船舶により公海並びに本邦の排他的経済水域の海域及び外国の排他的経済水域の海域で採捕された水産物
七 一の国又は地域の船舶において前号に掲げる物品のみを原料又は材料として生産された物品
八 一の国又は地域の船舶その他の構造物により公海で採掘された鉱物性生産品(第一号に該当するものを除く。)
九 一の国又は地域において収集された使用済みの物品で原料又は材料の回収のみに適するもの
十 一の国又は地域において行われた製造の際に生じたくず
十 一の国又は地域において前各号に掲げる物品のみを原料又は材料として生産された物品
実質的な変更を加える加工又は製造の指定(第1条の7)
「実質的な変更を加える加工又は製造」は、下記の通り規定されています。
令第四条の二第四項第二号(特例申告書の記載事項等)に規定する財務省令で定める加工又は製造は、物品の該当する関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)別表の項が当該物品のすべての原料又は材料(当該物品を生産した国又は地域が原産地とされる物品を除く。)の該当する同表の項と異なることとなる加工又は製造(税関長が指定する加工又は製造を含む。)とする。ただし、輸送又は保存のための乾燥、冷凍、塩水漬けその他これらに類する操作、単なる切断、選別、瓶、箱その他これらに類する包装容器に詰めること、改装、仕分け、製品又は包装にマークを付け又はラベルその他の表示を張り付け若しくは添付すること、非原産品(一の国又は地域において生産された前条各号に掲げる物品及びこの条に規定する加工又は製造がされた物品以外の物品)の単なる混合、単なる部分品の組立て及びセットにすること並びにこれらからのみ成る操作及び露光していない平面状写真フィルムを巻くことを除く。
少し長くて読みづらいので、文章を分解して考えてみましょう。
原則は項変更基準(CTH)
前段の規定は、関税分類変更基準のうち項変更基準(CTH)で原産地認定を行うことを規定しています。カッコ内の「当該物品を生産した国又は地域が原産地とされる物品を除く。」とあるのは、原産材料についいては項変更基準を判断する場合には、考慮しないということですので、EPAの原産地規則と同じです。
CTHの例外は関税法基本通達で規定
上記の条文中で、「税関長が指定する加工又は製造を含む。」とあるのは、項変更基準を満たさない物品ついても税関長の判断により原産地規則を満たす物品とすることが出来るというものです。この判断基準は関税法基本通達に規定されています。
原産地基準を満たさない作業又は加工
後段の部分は、EPAでいう原産品とするには「十分な変更とはみなされない作業又は加工」ということになります。
これらは、次の加工です。
- 輸送又は保存のための乾燥、冷凍、塩水漬けその他これらに類する操作
- 単なる切断、選別、
- 瓶、箱その他これらに類する包装容器に詰めること、
- 改装、仕分け、製品又は包装にマークを付け又はラベルその他の表示を張り付け若しくは添付すること
- 非原産品(一の国又は地域において生産された前条各号に掲げる物品及びこの条に規定する加工又は製造がされた物品以外の物品)の単なる混合、
- 単なる部分品の組立て及びセットにすること
- 上記の作業からのみ成る操作
- 露光していない平面状写真フィルムを巻くこと
税関長が指定する加工又は製造
関税法施行規則で税関長が指定する加工又は製造も実質的な変更を加える加工又は製造として認められる具体的な基準が関税法基本通達68-3-5(協定税率を適用する場合の原産地の認定基準)に規定されています。
次の加工又は製造を行った場合にも原産品と認定されます。
加工工程基準に相当するもの
- 天然研磨材料について、その原石を粉砕し、かつ、粒度をそろえる加工
- 糖類、油脂、ろう又は化学品について、その用途に変更をもたらし、又はその用途を特定化するような精製
- 関税率表の第6部又は第7部の物品について、化学的変換を伴う製造(生物工学的工程、粒径の変更、化学反応、蒸留、異性体分離、混合及び調合(専ら所定の仕様と合致させるための材料の意図的なかつ比例して制御された混合又は調合(分散を含み、希釈剤の添加を除く。)であって、その結果として、産品の用途に関係し、及び投入された材料と異なる物理的又は化学的特徴を有する産品の生産が行われるものに限る。)、標準物質の生産、精製を含む。)
- 革、糸又は織物類について、染色、着色、シルケット加工、樹脂加工、型押しその他これらに類する加工
- 単糸からの撚ねん糸の製造
- 関税率表の第68.12項又は第70.19項に属する物品について次に掲げる製造
ⅰ 繊維からの糸の製造
ⅱ 糸からの織物の製造
ⅲ 織維、糸又は織物からの衣類その他の製品の製造- 関税率表の第71.01項から第71.04項までに属する加工してない物品からの当該各項に属する物品の製造
- 合金にすること
- 金属のくずから金属の塊の製造
- 金属の板、シート又はストリップからの金属のはくの製造
- 関税率表の第71類(貴金属に限る。)、第74類から第76頼まで又は第78類から第81頼までに属する物品(インゴット、棒、線その他同表の第72.03項、第72.05項から第72.17項まで、第72.28項又は第73.01項から第73.26項までに掲げる物品の形状のものに限る。)の製造(ただし、同表の第72.03項、第72.05項から第72.17項まで、第72.28項又は第73.01項から第73.26項までにおいて鉄鋼を当該製造の原料又は材料である金属に読み替えた場合において、当該製造前の物品と製造後の物品とが同一の項に属することとなる製造を除く。)
- 関税率表第96.01項又は第96.02項に属する加工品からの当該加工品と同じ項に属する製品の製造
これらは、EPAの加工工程基準に相当します。
但し、3.の化学品に関する加工工程は、化学反応ばかりではなく、粒径の変更、蒸留、異性体分離、混合及び調合、標準物質の生産、精製までも含まれており、かなり幅広く認められているといえます。
また、その他の加工工程は通常のEPAでは認められていないので、日本の非特恵原産地基準はかなり幅広い加工を原産地基準として認めていると言えるでしょう。
特に金属の場合、項変更基準だけですと、鉄鋼は項が細かく分かれているので項変更基準を満たして加工した国の原産地と認められるが、全く同じ加工を他の金属で行うと項が同じなので項変更基準は満たさず加工した国の原産地とは認められない、という場合が生じますが、この不合理を解消しています。
一部の原材料が原産地規則を満たさなかった場合の取扱い
大部分の原材料は原産地規則を満たすが、一部の原材料は原産地規則を満たさなかった場合はどのように取扱うのでしょうか。
EPAでは、僅少の非原産材料の規定(DMI)があります。これは、少量の非原産材料が原産地規則を満たさない場合、原産品であるか否かの決定に当たり、当該少量の非原産材料を考慮しないとするものです。
関税法基本通達では、次のように規定されています。
2種類以上の原料又は材料(以下「原材料」という。)を使用した一の国又は地域における製造であって、当該国又は地域を原産地としない物品をその原材料の全部又は一部とした製造において、当該原材料の中に当該製造後の物品に特性を与える重要な構成要素となるものとそうでないものとがある場合において、重要な構成要素となる原材料からみた当該製造が規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工若しくは製造に該当するとき、又は、重要な構成要素となる原材料が当該国若しくは地域を原産地とするものであるときは、当該物品のすべての原材料に対して規則第1条の7に規定する実質的な変更を加える加工又は製造が行われたとみなすものとする。
つまり、物品の製造において、重要な構成要素と重要ではない構成要素があった場合には、重要な要素の部分のみ、原産地基準(CTH)を満たしていればよいということになります
僅少の非原産材料の規定(DMI)と異なり数値基準はありませんので、物品によってはかなり緩い基準となる可能性があります。機械類の場合においては、通常、部品からの組立てでは原産地基準を満たさないが、主要部品が日本で製造されている場合には原産地規則を満たすことが多いのではないかと思われます。
特に機械類の場合には、機械本体とその機械に専ら使用する部品の項が同一のことが多いのでこの規定は重要です。この規定によれば、機械の重要な構成要素は原産地基準を満たした加工をしていることが必要であるが、その他の構成要素(部品)は、項変更基準を満たしている必要はないということになります。
天体望遠鏡の事例
第9005.80号に分類される屈折式天体望遠鏡を例に取って、日本で製造した場合に日本の原産品と認められる具体的な基準を考えてみましょう。
この屈折式天体望遠鏡は次の構成要素から製作されているとします。(括弧内はHSコード)
- 対物レンズ(9002.19)
- 接眼レンズ(9002.90)
- 鏡筒(9005.90)
- ファインダー(9005.80)
- 経緯台(9005.90)
- 三脚(9620.00)
本品の重要な構成要素は天体望遠鏡本体であると考えられ、対物レンズ、接眼レンズ及び鏡筒で構成されています。対物レンズと接眼レンズは項変更基準を満たしています。従って、本品が原産品として認められるためには、鏡筒が日本の原産品であることが不可欠であると考えられます。
本品の構成要素のうち、CTHの基準を満たさない材料は、鏡筒、ファインダー及び経緯台となります。この内、ファインダーと経緯台は天体望遠鏡にとって重要な構成要素とは言えず、外国産のものを使用していても日本産と認められる可能性は高いのではないかと思われます。
(上記は筆者の見解であり、実際の当局の解釈については、税関、商工会議所等、権限のある当局に照会してください。)
2以上の国が製造に関与している場合の原産地
2以上の国が製造に関与している場合の原産地については、「実質的な変更をもたらし、新しい特性を与える行為を行った最後の国又は地域を原産地とするものとする。」と規定されています。 また、重要な構成要素となる原材料からみた当該製造が実質的な変更基準を満たしていない場合は、「当該重要な構成要素となる原材料の製造において実質的な変更をもたらし、新しい特性を与える行為を行った最後の国又は地域を原産地とするものとする。」と規定されています。
天体望遠鏡の事例
ここでも第9005.80号に分類される屈折式天体望遠鏡を例に取って考えてみましょう。
この屈折式天体望遠鏡は次の構成要素からベトナムで組立てられているとします。(括弧内はHSコード及び原産国)
- 天体望遠鏡本体(9005.80、中国)
- ファインダー(9005.80、中国)
- 経緯台(9005.90、ベトナム)
- 三脚(9620.00、ベトナム)
ベトナムでは単に組立てを行っただけであり、項変更基準を満たさず、ベトナム製とは認められません。
重要な構成要素となる天体望遠鏡本体は中国で製造したものですので、本品の原産国は中国と考えられます。
日EU-EPA/TPP11の原産品申告書作成のアドバイス
これまでの日本商工会議所が発給する特定原産地証明書と異なり、日EU・EPAやTPP11の原産品申告書では、第三者によるチェックがありません。
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