FTA(EPA)によっては、日EU・EPAやTPP11(CTPPP)のように小売用のセットについて特別の規定を設けている協定があります。
 それ以外の協定では、小売用のセットについては特別の規定は設けられておらず、分類される項又は号に適用される原産地基準に従い、原産地基準を満たすか否かを決定することとなります。ただし、ただ単に産品を収集して小売用のセットとすることについては、通常、「原産資格を与えることとならない作業」に該当し、EPAを適用することは出来ません。

目次

HS品目表における小売用のセットの種類

 関税分類における小売用のセットには次の3種類のカテゴリーがあります。

  1. 関税率表の解釈に関する通則3⒝に規定する小売用のセット
    どのような物品が小売用のセットとして分類されるかについてはこちらで詳しく解説しています。
  2. 関税率表の解釈に関する通則3(b)の規定を準用し、通則3(a)又は通則3(ⅽ)の規定を用いて小売用のセットとして分類している物品(例:国際分類例規第94.03項の組み立てていないテーブルと椅子を小売用セットとして包装した物品)
  3. 第63.08項(織物と糸からなるセット)、第82.14項(マニュキア用又はペディキュア用のセット)、第96.05項(トラベルセット)のように、HS品目表上でセットを分類することが明記されている項に分類される物品(HS品目表の解釈に関する通則1のセット

 上記1及び2の小売用のセットについては、ある特定の必要性を満たすため又はある特定の活動を行うため等、セットとして取扱うための条件があり、フルーツ缶詰のセットのような商品は関税分類上のセットとして取扱いませんので注意が必要です。

日EU・EPAの小売用のセットに関する規定

通則3(b)及び通則3(c)に該当する小売用のセット

 小売用のセットは原則としてセットに含まれる全ての産品が原産品としての資格を有する必要があります。しかし、セットの中に非原産品が含まれる場合、その商品の価額が当該セットの価額の15%以内であるときは、EPAの原産地基準を満たすことが規定されています。

統一システムの解釈に関する通則3(b)及び(c)の規定に従って関税分類が決定されるセットは、その全ての構成要素がこの章の規定に基づく原産品である場合には、締約国の原産品とする。セットは、原産品である構成要素及び非原産品である構成要素から成る場合には、非原産品である構成要素の価額が当該セットの工場渡しの価額又は本船渡しの価額の十五パーセントを超えないことを条件として、当該セット全体として締約国の原産品とする。

日EU・EPA

通則1に該当する小売用のセット

 通則1に該当する小売用のセットの場合は、日EU・EPAでは、品目別規則の中でセットの中に非原産品が含まれる場合においてもセットを原産品とする基準が規定されています。
(例)日EU・EPA品目別規則第96.05項(トラベルセット)

 セットに含まれるそれぞれの品目は、当該品目が当該セットに含まれない場合において当該品目に適用されることとなる規則に定める要件を満たさなければならない。ただし、非原産である製品は、その総額が当該セットのEXW又はFOBの十五パーセントを超えないことを条件として、組み込むことができる。

日EU・EPA品目別規則第96.05項

TPPの小売用のセットに関する規定

 TPP(CPTPPCP(TPP11)を含む。)では、通則3(b)と3(ⅽ)では異なる規定となっています。

通則3(a)及び3(b)に該当する小売用のセット

 通則3(a)及び(b)を適用して小売用のセットとして分類される場合は、セットとして分類される項又は号の品目別原産地規則に従うこととなります。
 したがって、右の図のようなスパゲティセットの場合は、スパゲティが原産品であれば、19.02項の品目別規則を満たすことになります。(注)
 なお、小売用のセットについて、通則3(a)が適用されるのは、非常に稀ではないかと私は思っています。

(注)
TPPの第19.02項の品目別規則は他の類の材料からの変更。
スパゲティーが原産品であれば、すりおろしチーズとトマトソースはそれぞれ4類及び21類の物品であるので、品目別規則を満たしている。

 各締約国は、統一システムの解釈に関する通則3(a) 又は(b)の規定の適用の結果として関税分類が決定されるセットについて、当該セットの原産品としての資格は、当該セットに適用される品目別原産地規則に従って決定されることを定める。

TPP 3・17条

通則3(C)に該当する小売用のセット

 通則3(ⅽ)はそもそも、適用されるのが稀な規則です。
 この場合は、日EU・EPAと同様にセットに含まれる全ての産品が原産品としての資格を有する必要がありますが、セットに非原産品が含まれている場合、その商品の価額が当該セットの価額の10%以内であるときは、EPAの原産地基準を満たすことが規定されています。

統一システムの解釈に関する通則3(c)の規定の適用の結果として関税分類が決定されるセットについて、当該セットに含まれる全ての非原産品の価額が当該セットの価額の十パーセントを超えない場合には、当該セットを原産品とする。

TPP 3・17条

繊維製品の通則3に該当する小売用のセット

 TPP(TPP11)では、繊維製品については第3章で規定される他の物品とは異なる原産地規則が適用されます。
 繊維製品の通則3を用いる小売用のセットについては、非原産品の価格が10%以内の場合は小売用のセットとしてEPAの適用が認められます。 

 統一システムの解釈に関する通則3の規定の適用の結果として関税分類が決定される小売あるとはみなさない。セットにおける非原産品の総額が当該セットの価額の十パーセントを超えない場合を除くほか、原産品であるとはみなさない。

TPP 第4章5(抄)

通則1に該当する小売用のセット

 TPPの品目別規則をみると、例えば、第63.08項の織物と糸からなるセットは類変更(除外規定あり)、第96.05項のトラベルセットは項変更で、関税分類変更基準となっています。日EU・EPAのようにセットを想定した特別の規定はありません。
 通常、通則1のセットを構成する個々の産品のHSコードはセットのHSコードと異なることから、表面上、関税分類変更基準を満たしているように思われます。また、TPPには、「原産資格を与えることとならない作業」に関する規定がないため、ただ単にセットにしただけで、関税分類変更基準を満たし、EPAを適用できるように思われるかもしれません。
 しかし、そもそも、品目別規則が適用されるのは、「一又は二以上の締約国の領域において非原産材料を使用して完全に生産される産品であって、附属書三-D(品目別原産地規則)に定める全ての関連する要件を満たすもの」(第3-2条 原産品)であり、締約国で生産行為を伴わない産品についてEPA税率が適用されることはありません。
 従って、通則1に該当する小売用のセットについては、ただ単にセットを構成する産品を収集しただけでは、原産地規則を満たすことは出来ません。

日・メキシコ協定及び日・ペルー協定の小売用のセットに関する規定

 日・メキシコ協定及び日・ペルー協定においても通則3(b)及び通則3(c)に該当する小売用のセット関する規定があます。日EU・EPAと同様の規定ですが、非原産品の物品の価格は10%以下であるときは、EPAの原産地基準を満たすことが規定されています。
 また、これらの協定では、通則1に該当する小売用のセットについても、通則3(b)及び通則3(c)に該当する小売用のセットと同じように、セットに非原産品が含まれている場合、その商品の価額が当該セットの価額の10%以内であるときは、EPAの原産地基準を満たすことが規定されています。

セットを構成する一部の産品が非原産品のためEPAを適用できない場合

 小売用のセットの一部が非原産品であるために、セット全体としてEPAを適用できない場合は、セットをバラバラにして輸入すれば、セットを構成する締約国の原産品である商品についてはEPA税率の適用が可能です。
 輸出国において小売用に包装したうえで輸送できないというデメリットがありますので、EPA税率の適用とコストを比較して対応を検討することとなります。

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