産品の生産において締約国で付加された価値がEPAで定められた条件を満たした場合に「原産品」となる基準を「付加価値基準(Value Added rule)」といいます。
付加価値基準には幾つかの算出方法がありますが、日・スイス協定を除いて「控除方式」が全て採用されています。複数の付加価値基準が利用可能な場合は、一番有利な方法或いは最も計算が簡単な方法を選択します。
目次
- 控除方式(RVC、BD)及び非原産材料の最大割合(MaxNOM)
- 非原産材料の価額(VNM)の計算方法
- 生産行為の累積
- 積上げ方式(BU)
- TPP(CPTPP、TPP11)独自の付加価値基準
- 【参考】付加価値基準の構成要素
控除方式(RVC、BD)及び非原産材料の最大割合(MaxNOM)
控除方式(RVC、BD)
日・スイス協定を除いて付加価値基準を採用する全ての協定で「控除方式」が採用されています。控除方式は、輸出価額(原則としてFOB価額)から非原産材料の価額の総額を控除することにより計算します。
日EU・EPAではRVC(the Minimum Regional Value Content)、CPTPP等ではBD(Build-down Method)と表されています。ここで、RVCは日EU・EPA以外の他の協定では、単に域内原産割合のことを指す場合が多いので混同しないように注意しましょう。
控除方式は、次の計算式により付加価値を計算します。
ここで、RVC(BD)は控除方式による域内原産割合、FOBは産品の輸出価額(原則としてFOB価額)、VNMは製造に使用した全ての非原産材料の価額の合計です。
品目別規則でRVC(BD)40%とされているものは、上記の計算式で40%以上の域内原産割合があるものが付加価値基準の条件を満たしていることを表しています。
非原産材料の最大割合(MaxNOM)
日EU・EPA及び日・スイス協定で採用されている非原産材料の最大割合(MaxNOM:the Maximum Value of Non-Originating Materials)は次の式で計算されます。
ここで、MaxNOMは非原産材料の最大割合、VNMは製造に使用した全ての非原産材料の価額の合計、EXWは工場出荷価額です。
品目別規則でMaxNOM50%とされているものは、上記の計算式で非原産材料の価額の合計が工場出荷価額の50%以下である場合が付加価値基準の条件を満たすことを示しています。
日EU・EPAでは、輸出国の国内(EU内)運送費相当分として、RVC(FOB価額を分母)とMaxNOM(EXW価額を分母)では5%の差が付けられていますが、基本的にほぼ等価な付加価値基準と考えられます。スイスは内陸国ですので、国内には国際貿易港はなく(河川港はありますが。)そもそも船積価格(FOB価額)を国内の出荷価額とするのが難しかったのではないかと思われます。EUにもスイスと同様に内陸国が多数ありますので、そのような国の産品に関する付加価値基準の計算においては、船積価格(FOB価額)よりは、工場出荷価額(EXW価額)を採用するのが適当と考えられたのではないかと考えています。
日本からの輸出に際しても、生産者が証明を行う場合、FOB価格は通常輸出者から知らされておらず、輸出者への出荷は工場渡し価格を用いている場合が多いのではないかと思われます。このような場合、RVCで計算すると、国内運送費相当分の5%が不利になるので、MaxNOMにより計算する方が実態に合っており、適当ではないかと考えています。
非原産材料の価額(VNM)の計算方法
「控除方式」を計算する場合、原則として、輸入した非原産材料の価額は、WTO関税評価協定に基づくCIF価額となっています。
国内取引による場合は一般に輸入時の価額は不明ですので、「いずれかの締約国において当該非原産材料に対して支払われた最初に確認することができる価額を用いる。(日EU・EPA)」等とされています。一般に取引を経るごとに取引価格は上昇しますので、非原産材料の購入価額を用いても特に問題はないと思われます。ただ、取引価格を遡ることが出来れば、国内運送費等を控除することが可能となり、非原産材料の価額の総額を抑えることが出来ると考えられます。
日本商工会議所の積上げ方式
「控除方式」の付加価値を計算する場合、経済産業省及び日本商工会議所では、利益、人件費等算出の容易な項目を足し合わせ、輸出価格からそれらの価額を控除することにより、「控除方式」による付加価値を計算することができるとしています(下記の「【参考】付加価値基準の構成要素」参照)。日本商工会議所ではこの方法を「積上げ方式」(TPP等の協定上の「積上げ方式」とは異なることに注意。)と呼んでいて、非原産材料の点数が多く計算するのが容易ではないときに、この方式による証明も可能としています。(経済産業省「原産性を判断するための基本的考え方と整えるべき保存書類の例示」参照)
日EU・EPAの事後確認時に必要な情報
日EU・EPAにおいては、協定上、検認の際に確認する資料は、「原産性の基準が価額方式に基づくものである場合には、産品の価額及び生産において使用された全の非原産材料又は価額の要件の遵守を確保するために適当なときは生産において使用された原産材料価額」(日EU・EPA第3.21条第2項(g))と明記されています。協定に規定された情報を基に、証明しておく必要があります。
関税評価協定
輸入非原産材料のCIF価額はWTO評価協定(1994年の関税及び貿易に関する一般協定第七条の実施に関する協定)により決定される価格です。日本ではこの評価協定に基づいて関税定率法に輸入貨物の課税価格の決定方法が規定されています。
WTO関税評価協定においては、協定の解釈・運用等の実務的な事項についてはWCO(世界税関機構)の「関税評価に関する技術委員会」で検討を行うこととなっています。同委員会の採択文書を基とした関税評価事例が税関ホームページに掲載されています(その1、その2)ので参考にして頂ければと考えます。
第三者証明では、日本商工会議所は関税評価については詳しくなく、輸入原料のCIF価額については特に問題とされることはなかったかもしれませんが、自己申告においては輸入国税関又は輸出国税関による事後確認(検認)が行われることから、輸入原料のCIF価額についても正しいかどうか厳しくチェックされる可能性があるのではないかと考えています。
非原産材料について、仕入書の価格以外に別払いが発生している場合は特に注意が必要です。輸入事後調査で輸入原材料の申告価額の不足が指摘されれば、納税不足となった関税・消費税の支払いの他、ペナルティーとして加算税と延滞税が発生します。もし、その輸入原料の価額を正しいCIF価額で再計算した結果、生産した輸出産品がEPAの付加価値基準を満たしていないことが判明した場合は、輸出先から損害賠償を申し立てられる可能性があります。追徴課税、加算税の支払い、さらに輸出先からの損害賠償請求といった最悪の事態を避けるためには、非原産材料の輸入申告価額が適正かどうか十分チェックしておくことが重要です。
CIF価額算定に当たってのよくある間違い
輸入事後調査で高額の申告価額不足が指摘される事例には、以下のようなものがありますので、特に注意が必要です。
ロイヤルティーの別払い
輸入取引に伴い支払う商標権使用料、特許権使用料等のロイヤルティーについては、例えそれが直接輸出者に支払われず、第三国の権利者に支払う場合においても輸入価額に加算する必要があります。
下記の事例では、M国のB社はE国のS社からB社において製造する機械の部品を輸入しますが、その部品の購入し際し、P国の特許権所有者C社にロイヤルティーを支払うこととなっています。このような場合、この部品のCIF価額は、「貨物代金+ロイヤルティー」となります。EPAを利用する際に非原産材料の価額を計算する場合には、このロイヤルティーも加算する必要があります。
なお、ロイヤルティーについてはその支払いが輸入契約の条件とされていない場合など加算する必要がない場合もあるので、不明な場合は税関に確認すると良いと思います。
部品の加工を海外に委託する場合
下記の事例では、日本の原産材料の部品を海外でメッキ加工を行います。B社はS社にメッキ加工賃を支払います。この時のCIF価額は、「部品(メッキ未処理)+日本からS社までの運送費+メッキ加工賃+S社から日本までの運送費」となります。
インボイスには委託加工契約の代金のみが記載されており、輸入時にそのインボイス価額だけで申告される場合があるので注意しましょう。下記の事例では、加工賃のみがインボイス価額に書かれている場合です。日本からの部品の価格と、E国の工場までの運送費を別途評価加算する必要があります。
また、日本からのS社でメッキ加工を行った部品は非原産材料となり、しかも、その価額は日本の原産材料である加工前の部品も含めた価額となます。委託する加工が関税分類変更を伴わないような簡単な加工であっても、海外で行われた場合には一般に原産材料としての資格を失いますのでご注意ください。
無償資材の生産者への提供
税関事後調査での指摘事項で多いのが生産資材(原材料・部品・生産機械)の輸出者への無償提供です。
日本から輸出者に送付した場合も、現地で調達した場合も、生産資材を無償で輸出者に提供した資材は全てCIF価格に加算する必要があります。
生産行為の累積とトレーシング
日EU・EPA、CTTPP、日・シンガポール協定、日・メキシコ協定、日・ペルー協定、日・モンゴル協定においては、自国及び他の締約国で行った生産行為で原産資格を与えることとならなかった作業についても、その生産行為の付加価値を加算することができるとの規定があります。
即ち、ロールダウンにより非原産品となってしまった非原産材料について、生産行為の累積の規定がある協定においては、自国及び他の締約国で行った作業により生じた付加価値を以下の図のように域内生産割合として加算することができます。
上記の事例では、N2はEPAの原産地基準を満たしていない場合、非原産材料となりますが、生産行為の累積の規定があるEPAにおいては、N2の生産行為における付加価値を加算することが出来ます。実際のPの付加価値基準の計算においては、非原産材料N2の価格(100円)ではなく、N2の生産において使用した非原産材料N1の価格(40円)を用いて計算することが出来ます。
PのRVC=200円ー(40円+40円)/200×100=60%
なお、この例のように、産品の生産に直接使用された原材料の生産工程にまで遡って調査を行い、産品の原産性を判断することをトレーシングと呼んでいます。
積上げ方式(BU)
CPTPP(TPP11)、RCEP、日・チリ協定、日・インド協定、日モンゴル協定においては、控除方式以外に「積上げ方式」も選択可能となっています。積上げ方式においては、間接材料も原産材料として加算できます。
CPTPP(TPP11)及び日・チリ協定
CPTPP(TPP11)及び日・チリ協定では、輸出価額(FOB価額)に対する原産材料の総額の割合で規定されています。
BU≧VOM/FOB×100
ここで、BUは積上げ方式による域内原産割合、VOMは全ての原産材料の価額、FOBは輸出価額です。
日・インド協定及び日・モンゴル協定
日・インド協定及び日モンゴル協定では、原産材料の他に直接労務費、直接経費及び利益も域内原産割合の計算に加算します。
BU≧(VOM+DLC+DOC+P)/FOB×100
ここで、BUは積上げ方式による域内原産割合、VOMは全ての原産材料の価額、DLCは直接労務費、DOCは直接経費、Pは製造者(輸出者)の利益、FOBは輸出価額です。
RCEP
RCEPでは、次の式で計算します。
BU≧(VOM+DLC+DOC+P+その他の費用)/FOB×100
ここで、BUは積上げ方式による域内原産割合、VOMは全ての原産材料の価額、DLCは直接労務費、DOCは直接経費、Pは製造者(輸出者)の利益、FOBは輸出価額です。
TPP(CPTPP、TPP11)独自の付加価値基準
CPTPP(TPP11)においては、重点価額方式(FV)と純費用方式(NC)という独自の付加価値基準が採用されています。これらの方式は控除方式の変形判というべきものです。重点価額方式では主として電気機器、機械類に、純費用方式は自動車関連産品において利用することができます。
重点価額方式(FV)
重点価額方式は、主として機械、電気機器等の産品の生産において使用される特定の原材料の価額を用いて域内原産割合を計算するもので、関税分類変更基準と控除方式の折衷方式とも言えるものです。重点価額方式では、計算に使用する非原産材料の品目が特定されますので、控除方式より算出が容易となります。また、重点価額方式で指定されている特定の原材料は、基本的に関税分類変更基準を満たさない材料です。
重点価額方式では、指定されている特定の原材料のみの価額資料を利用して証明を行うことができます。原産地証明の手続きを簡素化できるほか、関税分類変更基準や他の付加価値基準では原産地基準を満たさなかった場合でも、重点価額方式で原産地基準を満たすことが出来る可能性があります。
重点価額方式では次の計算式により付加価値を計算します。
FV≧(FOB-FVMN)/FOB×100(%)
ここで、FVは重点価額方式による域内原産割合、FOBは産品の輸出価額(原則としてFOB価額)、FVNMは製造に使用した重点価額方式で指定されているHS番号に分類される非原産材料の価額の合計です。
第9005.80号に分類される屈折式天体望遠鏡をFOB価格10万円で日本からカナダに輸出する場合を考えてみたいと思います。この屈折式天体望遠鏡は次の構成要素から製作されているとします。(括弧内はHS番号)
- 対物レンズ(9002.19):台湾製、2万円
- 接眼レンズ(9002.90):中国製、2万円
- 鏡筒(9005.90):日本製、2万円
- ファインダー(9005.80):中国製、5千円
- 経緯台(9005.90):中国製、1万円
- 三脚(9620.00):中国製、5千円
以上合計:6万円、他に - 梱包材料:非原産材料 5千円
原産材料 5千円
ここで、第9005.80号のTPPの品目別原産地規則は以下の通りです。
- 関税分類変更基準
第9005.80号の産品への他の項の材料からの変更 - 付加価値基準
域内原産割合が- 35パーセント以上(積上げ方式を用いる場合)
- 45パーセント以上(控除方式を用いる場合)
- 55パーセント以上(重点価額方式を用いる場合。第90.05項の非原産材料のみを考慮に入れる。)
ここで、この天体望遠鏡が原産地基準を満たすか否かみてみることとします。
- 関税分類変更基準
鏡筒、ファインダー及び経緯台は天体望遠鏡と同じ第90.05項に分類されますので、これらの部品全てが日本製又はTPP締約国原産品でない限り関税分類変更基準を満たしません。
また、これらの第90.05項に分類される天体望遠鏡の部品及び付属品の価額の合計が3万円とFOB価額の10%以上となることから、僅少の規定を利用することはできません。 - 控除方式の付加価値基準
梱包材料を含めた非原産材料の価額 65,000円
RVC=
控除方式の原産資格割合が35%であるので原産地規則(45%以上)を満たしません。 - 積上げ方式の付加価値基準
梱包材料を含めた原産材料の価額 25,000円
RVC=
積上げ方式の原産資格割合が25%であるので原産地規則(35%以上)を満たさない。 - 重点価額方式の付加価値基準
重点価額方式で問題となる第90.05項に分類される非原産材料の価額の合計 15,000円
RVC=
重点価額方式の原産資格割合が85%であるので原産地規則(55%以上)を満たします。
このように、重点価額方式は他の原産地基準が利用できないときでも、原産地基準を満たすことがあります。また、価格に関する資料を用いるのが特定の品目に限られるため、他の付加価値基準に比べて、価格変動をモニターする品目を大幅に削減することができます。
純費用方式(NC)
純費用方式は自動車関連の産品のみに適用される方式です。
基準となる価額にはFOBの代わりに純費用(Net Cost)が採用されています。純費用は、総費用から販売、マーケティング、アフターサービスの費用、特許権の使用料、輸送費用、梱包費等を控除したもので、計算の基礎となる各種費用の項目が少なくなります。
【参考】付加価値基準の構成要素
以下に、付加価値基準の計算の基礎となる各要素をまとめてみましたので、参考にしてください。
日EU-EPA/TPP11の原産品申告書作成のアドバイス
これまでの日本商工会議所が発給する特定原産地証明書と異なり、日EU・EPAやTPP11の原産品申告書では、第三者によるチェックがありません。
簡単に作成できますが誤った原産品申告書の作成した場合は、損害賠償のリスクや顧客からの信用失墜など大きなリスクがあります。
原産品申告書の作成に必要な根拠資料の作成から輸入国税関の調査に備えた書類の保存迄、初歩から丁寧にアドバイスいたします。
作業に着手するまでのご相談は無料です。お気軽にお問合せください。