EPA(FTA)において、付加価値基準(VA)で原産地証明を行なおうとする際には、WTO関税評価協定(以下、「関税評価協定」という。)を理解しておく必要があります。
 産品の価額(FOB価額)の定義は協定により異なりますが、基本的には「買手から売手に支払われた価格又は支払われるべき価格」とされています。
 非原産材料(VNM)の価格は、何れの協定においても、原則、関税評価協定に基づくCIF価額とするとされています。
 付加価値基準の原産割合(RVC)は次式で計算します。

原産割合の計算式

目次

FOB価額

売買契約によるFOB価額が明確な場合

 FOB価額の定義は協定により異なりますが、基本的には「輸送の方法を問わず、産品の買手から当該産品の売手に支払われる当該産品の本船渡しの価額をいう。」とされています。

 「FOB」とは、3に規定する場合を除くほか、輸送の方法を問わず、産品の買手から当該産品の売手に支払われる当該産品の本船渡しの価額をいう。ただし、当該産品が輸出される際に軽減され、免除され、又は払い戻された内国税を含まない。

日オーストラリア協定 第3・5条第1項
3に規定する場合とは、FOB価格が不明な場合及び産品の本船渡しの価額が存在しない場合である。

 また、日EU・EPA及び日英EPAでは、次のように規定されています。

(FOB価格とは、)産品の売手に支払われた又は支払われるべき当該産品の本船渡しの価額(輸送の方法を問わない。)。ただし、当該価額には、当該産品の生産及び締約国の輸出港への輸送において使用された全ての材料の価額及び要した他の全ての費用から当該産品が輸出される際に払い戻され、又は払い戻され得る内国税を減じた額を含む。

日EU・EPA附属書3-A 品目別原産地規則の注釈4

関税評価協定の課税価額とFOB価額

 関税評価協定では、「輸入貨物が輸出のために販売された場合に現実に支払われた又は支払われるべき価格(以下、「現実支払価格」という。)」を輸入貨物の課税価格の基礎とすることを規定しています。ここでいう、現実支払価格とは、独立した売手及び買手の間の取引価格をいいます。

 輸入貨物の課税価額は、輸入貨物の取引価額、すなわち、貨物が輸入国への輸出のために販売された場合に現実に支払われた又は支払われるべき価格に第八条の規定による調整を加えた額とする。

WTO関税評価協定 第1条第1項

 EPAの各協定でも、「買手から売手に支払われた価額」又は「買手から売手に支払われた価額又は支払われるべき価額」とされており、基本的には現実支払価格(FOBに換算した価額)と同一であると考えられます。
 従って、多くの場合インボイス価格(FOBに換算した価額)はEPAのFOB価額と同一と考えられますが、インボイス価格が実際の取引価格を反映していない場合には、所要の調製を行う必要があります。
 なお、EPAのFOB価格には関税評価協定第8条の加算要素を加算する旨の規定はないので、輸入貨物の課税価額とEPAのFOB価額は必ずしも一致しないと考えられます。

インボイス価格がFOB価額とならない場合

 インボイス価格が実際の取引価格を反映していない場合には所要の調整を行う必要があります。
 例えば、輸入者から無償で提供された原産材料及び非原産材料はFOB価格に反映させる必要があります。日EU・EPAでは、「当該価額には、当該産品の生産及び締約国の輸出港への輸送において使用された全ての材料の価額」と規定しており、無償提供材料の取扱いを明確にしています。
 また、債務の相殺や生産に必要な資材の別払い等の事情により、インボイス価格が実際の取引価格を反映していない場合には、現実取引価格に基づき証明を行う必要があります。

FOB価格が不明な場合

 輸出取引において、第三国の企業が介在するなど複数の企業が関係する場合や、生産者が証明を行う場合には、原産地証明を行う者がFOB価格を正確に把握できない場合があります。
 日メキシコ協定、日マレーシア協定、日チリ協定、日タイ協定、日ブルネイ協定、日フィリピン協定、日ベトナム協定、日インド協定、日ペルー協定、日モンゴル協定では、FOB価格は「当該産品の買手から当該産品の生産者への確認可能な最初の支払いに係る価額に調整された価額とする。」とされています。

 産品の本船渡しの価額は存在するが、その価額が不明で確認することができない場合には、2に規定するFOBは、当該産品の買手から当該産品の生産者への確認可能な最初の支払に係る価額に調整される価額又は関税評価協定第一条から第八条までの規定に従って決定される価額とする。

日オーストラリア協定 第3・5条第3項(a)

日EU・EPA及び日英EPAの場合

 日EU・EPA及び日英EPAの場合は、下記の「売買契約によるFOB価格が存在しない場合」の規定を使用して計算するものと考えられます。
 生産者が証明を行う場合には、MaxNOMを利用することが出来、控除方式(RVC)を利用するより有利となります。

売買契約によるFOB価格が存在しない場合

 無償貨物や委託加工貿易に係る貨物については、売買契約によるFOB価格が存在しません。このため売買契約に基づかないFOB価格の決定方法を規定しています。

WTO関税評価協定に基づく価格を使用する場合

 日メキシコ協定、日マレーシア協定、日チリ協定、日タイ協定、日ブルネイ協定、日フィリピン協定、日ベトナム協定、日インド協定、日ペルー協定、日モンゴル協定では、WTO関税評価協定に従って計算した価格で計算します。

 産品の本船渡しの価額が存在しない場合には、2に規定するFOBは、関税評価協定第一条から第八条までの規定に従って決定される価額とする。 

日オーストラリア協定 第3・5条第3項(b)

日EU・EPA及び日英EPAの場合

 日EU・EPA及び日英EPAでは、次のように規定されてます。WTO関税評価協定に基づく価格とはロイヤルティーや買手が支払う手数料等、若干の差が出る可能性があります。

(FOB価格とは、)支払われた若しくは支払われるべき価額がない場合又は実際に支払われた価額が産品の生産に関連する全ての費用であって、当該産品の生産において実際に要したものを反映していない場合には、輸出締約国における当該産品の生産及び当該輸出締約国の輸出港への輸送において使用された全ての材料の価額及び要した他の全ての費用。当該費用は、次のとおりとする。

  1. 販売費、一般管理費、当該産品に合理的に割り当てることができる利益、運賃及び保険料を含む。
  2. 当該産品が輸出される際に払い戻され、又は払い戻され得る輸出締約国の内国税を除く。

CPTPPの場合

 付加価値基準のベースとなる「産品の価額」(FOB価格)は、現実支払価額又は現実支払価額が存在しない場合にはWTO関税評価協定に基づく価格になると考えられます。
 「第3・1条 定義」において、下記の通り規定されています。

「産品の価額」とは、産品の取引価額から当該産品の国際輸送に要する費用を除いたものをいう。
「取引価額」とは、産品が輸出のために販売されるに当たって現実に支払われた若しくは支払われるべき価格又は関税評価協定に従って決定されるその他の価額をいう。

RCEPの場合

 RCEPでは、「第3・1条 定義」でFOB価額は産品の本船渡しの価額である旨規定しています。
 一方、「第3・5条 域内原産割合の算定」第2項で、「この章の規定に基づく産品の価額については、千九百九十四年のガット第七条の規定及び関税評価協定の規定に必要な変更を加えたものにより算定する。」とされています。

EXW価額

 日スイス協定、日EU・EPA及び日英EPAで採用されているMaxNOMでは、EXW価額が基本となります。EXW価格とは工場渡し価額のことです。上記の日EU・EPAのFOB価額と同様の方法で計算します。

非原産材料の価額(VNM)

 非原産材料の価格は、何れの協定においても、原則、関税評価協定に基づくCIF価額とされています。日本の輸入時の課税価格は関税評価協定に基づくCIF価額より決定することとされていますので、通常は輸入許可書に記載された課税価格が、関税評価協定に基づくCIF価額となります。
 別払等で税関に評価申告を行っている場合はインボイス価格とは異なりますのでご注意下さい。

 関税評価協定に従って決定される価額であって、当該産品の生産者の所在する締約国の輸入港に当該非原産材料を輸送するために要する運賃、保険料、適当な場合のこん包費その他のすべての費用を含むもの

日アセアンEPA第27条 域内原産割合の算定

CIF価額が不明な場合の非原産材料の価額

 国内調達された非原産材料(原産品と証明できない原材料を含む。)や、CIF価額な不明な輸入原材料の価額は、「輸出国における確認可能な最初の支払に係る価額」とされています。一般的には、生産工場の原材料の調達価額になると考えられます。
 一般に取引を経るごとに取引価格は上昇します。取引価格を遡ることが出来れば、諸経費や国内運送費等を控除することが可能となり、非原産材料の価額の総額を抑えることが出来ると考えられます。

事後確認時に必要な価額情報

 日EU・EPAにおいては、協定上、検認の際に確認する資料は、「原産性の基準が価額方式に基づくものである場合には、産品の価額及び生産において使用された全の非原産材料又は価額の要件の遵守を確保するために適当なときは生産において使用された原産材料価額」(日EU・EPA第3.21条第2項(g))と明記されています。
 非原産材料の価額だけでなく、原産材料の価額も整理しておく必要があります。  

CIF価額の注意点

  第三者証明では、日本商工会議所は関税評価については詳しくなく、輸入原料のCIF価額については特に問題とされることはなかったかもしれません。自己申告においては輸入国税関又は輸出国税関による事後確認(検認)が行われることから、輸入原料のCIF価額についても正しいかどうか厳しくチェックされる可能性があるのではないかと考えています。
 輸入非原産材料について、仕入書の価格以外に別払いが発生している場合は特に注意が必要です。輸入事後調査で輸入原材料の申告価額の不足が指摘されれば、納税不足となった関税・消費税の支払いの他、ペナルティーとして加算税と延滞税が発生します。その輸入原料の価額を正しいCIF価額で再計算した結果、生産した輸出産品がEPAの付加価値基準を満たしていないことが判明することも考えられます。この場合は、輸出先から損害賠償を申し立てられる可能性があります。追徴課税、加算税の支払い、さらに輸出先からの損害賠償請求といった最悪の事態を避けるためには、非原産材料の輸入時の申告価額が適正かどうか十分チェックしておくことが重要です。  

CIF価額算定に当たってのよくある間違い

 輸入事後調査で高額の申告価額不足がよく指摘される事例としては、以下のようなものがあります。

無償資材の生産者への提供

 税関事後調査での指摘事項で多いのが生産資材(原材料・部品・生産機械)の輸出者への無償提供です。
 日本から輸出者に送付した場合も、現地で調達した場合も、生産資材を無償で輸出者に提供した場合は全てCIF価格に加算する必要があります。

【参考】EPA付加価値基準における無償提供原材料の取扱い

部品の加工を海外に委託する場合

 下記の事例では、日本の原産材料の部品を海外でメッキ加工を行います。B社はS社にメッキ加工賃を支払います。この時のCIF価額は、「部品(メッキ未処理)+日本からS社までの運送費+メッキ加工賃+S社から日本までの運送費」となります。
 インボイスには委託加工契約の代金のみが記載されており、輸入時にそのインボイス価額だけで申告される場合があるので注意しましょう。下記の事例では、加工賃のみがインボイス価額に書かれている場合です。日本からの部品の価格と、E国の工場までの運送費を別途評価加算する必要があります。
 また、B社でメッキ加工を行った部品は非原産材料となり、しかも、その価額は日本の原産材料である加工前の部品も含めた価額となます。委託する加工が関税分類変更を伴わないような簡単な加工であっても、海外で行われた場合には一般に原産材料としての資格を失いますのでご注意ください。

ロイヤルティーの別払い

 輸入取引に伴い支払う商標権使用料、特許権使用料等のロイヤルティーについては、例えそれが直接輸出者に支払われず、第三国の権利者に支払う場合においても輸入価額に加算する必要があります。
 下記の事例では、M国のB社はE国のS社からB社において製造する機械の部品を輸入しますが、その部品の購入に際し、P国の特許権所有者C社にロイヤルティーを支払うこととなっています。このような場合、この部品のCIF価額は、「貨物代金+ロイヤルティー」となります。EPAを利用する際に非原産材料の価額を計算する場合には、このロイヤルティーも加算する必要があります。

 なお、ロイヤルティーについてはその支払いが輸入契約の条件とされていない場合など加算する必要がない場合もあるので、不明な場合は税関に確認すると良いと思います。

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