項変更基準(CTH)と号変更基準(CTSH)など機械類の原産地証明の注意点について解説します。

目次

プラスチック製・金属製の部分品は機械と同じ項に分類される

 ボルト・ナット等の汎用性の部分品を除き、プラスチック製又は卑金属性の機械の部分品は、原則として機械本体と同じ項に分類され、第39類(プラスチック製品)又は第15部(卑金属製品)には分類されません。
 FFTAコンサルティングでは、機械類の部分品は、機械機器の部分品の分類5原則に基づHSコードを決定していくこととしています。原産地証明において問題となるのは、「原則4 特定の項の機械のみに使用される部分品は当該機械と同じ項に分類」に該当する部分品です。これらの部分品は、機械と同じ項、又は、特定の機械の部分品のみを分類する項に分類されます。
 機械を収納する筐体も通常、機械の部分品として分類されます。CTH(項変更基準)の場合で筐体を輸入している場合には、原産地証明のハードルが上がることとなります。
 これら原則4に従い分類される部分品は原産地基準を適用する上でどのように取扱うのか見ていきます。

  • 自動車等、輸送機器(第17部)の部分品HSコード分類4原則はこちら
  • 測定機器・医療用機器等(第90類)の部分品・附属品の分類5原則はこちら

CTHとCTSHでは証明の難易度が大きく異なる

CTSH(号変更基準)の場合

 機械機器の部分品の分類5原則の原則4に該当する機械の部分品は、原則として機械本体と同じ項に分類されます。また、機械の大部分の項には「部分品」を分類する細分(号)が設けられています。従って、一部の例外(部分品の細分が設けられていない項)の除き、機械本体と部分品は異なる号に分類されることとなります。このことから、CTSHの場合は、部品を組立てるだけで原産地基準を満足することが出来ます。
 アセアン諸国との二国間EPAの多くの物品や日インド協定の一般規則ではCTSHが採用されています。

CTH(項変更基準)の場合

 機械機器の部分品の分類5原則の原則4に該当する機械の部分品は、原則として機械本体と同じ項に分類されるので、CTHの場合にはこれらの部分品は原産地基準を満足しません。従ってこれらの部分品は原産材料であることが必要となります。
 通常の機械では、原則4に属する部分品全てが原産品であることは少なく、CTHの原産地基準はかなりハードルの高い基準となります。
 この場合、付加価値基準の採用を検討する必要があります。

特定の機械の部分品のみを分類する項に分類される部分品の場合

 これらの部分品は特定の機械に使用する部分品のみを分類する項に分類される物品です。これらの項は次の項です。

  1. 84.09:84.07 項又は 84.08 項のエンジンの部分品
  2. 84.31:84.25 項から 84.30 項までの荷役機械・土木建設用機械等の部分品
  3. 84.48:84.44 項から 84.47 項までの繊維用機械の部分品
  4. 84.66:84.56 項から 84.65 項までの工作機械等の部分品
  5. 84.73:84.70 項から 84.72 項までの事務用機器の部分品
  6. 85.03:85.01 項又は 85.02 項の電動機及び発電機の部分品
  7. 85.22:85.19 項又は 85.21 項の音声及びビデオの記録用又は再生用機器の部分品
  8. 85.29:85.25 項から 85.28 項までのラジオ、テレビ、無線用機器等の部分品
  9. 85.38:85.35 項から 85.37 項までの電気回路用機器、配電盤等の部分品

 日アセアン協定の一般規則は単なるCTHですので、上記の物品は部品を組立てるだけで原産地基準を満たすことが出来ます。
 日EU・EPAは、通常、CTHですが、上記の特定の機械に使用する部分品のみを分類する項からの変更は認められておらず、非常に厳しい基準となっています。

通則2(a)「未完成の完成品」が適用される原材料に注意

 部分品としては未完成のものでも「未完成の完成品」として通則2(a)が適用される場合には機械の部分品として分類されますので注意が必要です。例えば、部品としてそのまま使用することは出来ないが、簡単な加工で部分品として使用できる鍛造品は、鉄鋼の鍛造品として第73.26項に分類するのではなく、機械の部分品として分類します。
 ある会社は、鉄鋼製の機械の部分品を第73.26項(その他の鉄鋼製品)に分類して日本商工会議所から特定原産地証明書を取得していましたが、鉄鋼製の部分品は通常、第73.26項には分類されません。この原産地証明は明らかな誤りですので、輸入国税関から事後確認が行われるとEPA税率の適用が否認される可能性が高いと考えられます。

通則2(a) 組立ててないものの取扱い

 運送上の必要性等から組立ててないもの又は分解してある物品については、通則2(a)の規定により、完成した物品と同一の項に分類される場合、その項の原産地基準に従い原産品か否かを決定することとなります。

 例えば、日タイ協定では次のように規定されています。ここで、「第28条から第31条までの関連規定の要件を満たし」とは、原産地基準を満たしてることを指しています。

 第28条から第31条までの関連規定の要件を満たし、かつ、統一システムの解釈に関する通則2(a)の規定により完成品として分類される産品については、分解してある状態で一方の締約国に他方の締約国から輸入される産品であっても、当該他方の締約国の産品と見做す。

日タイ協定第31条 組み立ててないか又は分解してある産品


 しかしながら、形式上、関税分類変更基準を満足していても、原産資格を与えることとはならない作業のみを行った場合には、原産地基準を満たすことにはなりません。これらの作業は、例えば、部品の単純な収集や産品の部品への分解が該当します。例えば、日タイ協定では、原産資格を与えることとはならない作業として、次の作業が掲げられています。

統一システムの解釈に関する則2(a)の規定に従って一の産品として分類される部品及び構成品の収集

日タイ協定第31条 原産資格を与えることとはならない作業 (e)

HS改正と自動車の部分品(第87.08項)の品目別原産地規則

 同じCTSHを採用していても、HS品目表の改正により自動車の部分品(第87.08項)の品目別原産地規則基準の実質的な内容が大きく異なります。

2007年HS改正

 自動車の部分品を分類する第87.08項は、2007年のHS改正により号の構成が以下のように変更となっています。 

(変更部分のみ記載)
2002年版HS 2002年版HS
HSコード 号の規定 HSコード 号の規定
8704.40

- ギヤボックス

8704.40

- ギヤボックス及びその部分品

8708.50

- 駆動軸(差動装置を有するものに限るものとし、伝動装置のその他の構成部品を有するか有しないかを問わない。)

8708.50

- 駆動軸(差動装置を有するものに限るものとし、伝動装置のその他の構成部品を有するか有しないかを問わない。)及び非駆動軸並びにこれらの部分品

8708.60

- 非駆動軸及びその部分品

8708.80

- 懸架装置用ショックアブソーバー

8708.80

懸架装置及びその部分品(ショックアブソーバーを含む。)

8708.91

-- ラジエーター

8708.91

-- ラジエーター及びその部分品

8708.92

-- 消音装置及び排気管

8708.92

-- 消音装置(マフラー)及び排気管並びにこれらの部分品

8708.94

-- ハンドル、ステアリングコラム及びステアリングボックス

8708.94

-- ハンドル、ステアリングコラム及びステアリングボックス並びにこれらの部分品

8708.99

-- その他のもの

8708.95

-- 安全エアバッグ(インフレーターシステムを有するものに限る。)及びその部分品

8708.99

-- その他のもの

 2002年版HS品目表においては、第87.08項に属する自動車の部分品の部分品の多くは第8708.99号に分類されていました。しかし、2007年版のHS品目表においては、部分品は完成品と同じ号に分類されることとなりました。

CTSHを採用している協定

 2002年版のHS品目表に基づいて品目別原産地規則が定められている協定のうち、CTSHを採用しているのは、シンガポール、マレーシア、フィリピン(一部品目のみ)、インドネシア、ブルネイとの協定です。
 2002年版のHS品目表では、8708.40(ギアボックス)、8708.50(駆動軸)、8708.80(懸架装置用ショックアブソーバー)、8708.91(ラジエター)、8708.92(消音装置及び排気管)、及び8708.94(ハンドル、ステアリングコラム及びステアリングボックス)の各号にはこららの部分品は含まれていませんでした。これらの自動車の部分品分類5原則の原則4に該当する部分品は、第8708.99号に分類されていましたので、部品を組立てるだけで品目別原産地規則を満たすことが出来ます。

原産地基準の判定は協定に記載されたHS品目表に基づき行う

 現在の2022年版のHS品目表では、これらの物品とその部分品は同じ号に分類されますが、EPAの原産地判定はあくまでも協定に規定されたバージョンのHSコードに基づいて行われます。対比表に記載される原材料のHSコードは、現在適用されているHSコードではなく、協定に規定されたHS品目表に基づくHSコードを確認することが重要です。
 税関ホームページの品目別原産地規則の検索ページのHSコードは、協定に規定されたHSのバージョンで記載されているので、参考にすると良いと思います。

品目別原産地規則のバージョンアップに伴う改正

 日インドネシアEPAでは、品目別原産地規則を2022年版のHS品目表に改定しましたが、当初の品目別原産地規則はCTSHとなっていました。改定後の品目別原産地規則は「CTSH若しくは第8708.40号のギヤボックスの部分品からの変更」(第8708.40号の場合)等と規定されており、2002年の協定の内容を変更しないように工夫されています。

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