2021年1月1日にRCEP協定(地域的な包括的経済連携協定the Regional Comprehensive Economic Partnership Agreement)が発効しました。同日に発効した国は、 日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、オーストラリア及びニュージーランドです。また、2022年2月1日に韓国、3月18日にマレーシアにおいても発効します。発効時期が未定の国は、インドネシア、フィリピン及びミャンマーの3か国です。
 RCEPは我が国と中国・韓国との初めての経済連携協定です。東太平洋の経済圏を網羅することからこの地域における貿易促進に大きく寄与するものと思われます。
 以下、RCEPの協定の概要を俯瞰した後、関税撤廃・削減の状況や原産地証明の方法と留意点についてみていきたいと思います。

目次

  1. 協定の構成
  2. 関税引下げ
  3. 原産地証明の方法(第3・16条)
  4. 積送基準(第3・15条)
  5. 特恵待遇の要求(EPA税率適用の申請方法)
  6. 原産地基準
  7. 税率差ルール(第2・6条)
  8. 書類の保管(第3・27条)
  9. 事後確認(Verification)
  10. EPA税率の否認
  11. 参考としたWEBサイト

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協定の構成

 RCEPは、次の20の章より構成されています。

第1章 冒頭の規定及び一般的定義
第2章 物品の貿易
第3章 原産地規則
第4章 税関手続及び貿易円滑化
第5章 衛生植物検疫措置
第6章 任意規格、強制規格及び適合性評価手続
第7章 貿易上の救済
第8章 サービスの貿易
第9章 自然人の一時的な移動
第10章 投資
第11章 知的財産
第12章 電子商取引
第13章 競争
第14章 中小企業
第15章 経済協力及び技術協力
第16章 政府調達
第17章 一般規定及び例外
第18章 制度に関する規定
第19章 紛争解決
第20章 最終規定

 これらの章のうち、関税の削減に関係のある章は「第2章 物品の貿易」及び「第3章 原産地規則」 となります。
 また、別途、協定の「附属書I 関税に係る約束の表 」があり、これが各国が締約国に対して関税の削減を約束した表(「譲許表」)となります。
 また、第3章の附属書として、「附属書3A 品目別規則」があります。

関税引下げ

 協定に基づく主な関税撤廃・引き下げ品目については、外務省のホームページに資料が掲載されています。

  • 主な農産品に関する関税削減についてはこちら
  • 主な鉱工業品に関する関税削減についてはこちら
  • 酒・たばこ・塩に関する関税削減についてはこちら

RCEPの関税譲許表の見方

 関税の削減を他国に約束することを「譲許」といいます。EPA(FTA)で関税の削減を締約国に約束した表を「譲許表」と呼んでいます。
 RCEPの場合は、国によって譲許表の構成が異なるので注意が必要です。(CTTPPや日アセアンでは、例外的な品目を除きどの国に対しても同じ単一の譲許表です。)
 整理すると次のようになります。特にRCEPを使用する頻度が高いと思われる中国と韓国は加盟国ごとに譲許表が異なり(アセアン諸国はまとめて一表)、注意が必要です。
 日本の譲許表は一表となっていますが、アセアン加盟国、オーストラリア及びニュージーランドと中国、韓国では異なる関税引き下げとなっている品目が多数あります。

RCEPの譲許表の構成
*フィリピンについては、大多数の品目については共通の譲許表が適用されます。

2年目以降の関税引下げの時期(附属書Ⅰ 関税に係る約束の表 注釈)

 EPA税率は締約国において発行した日から1年目の関税引き下げが行われます。その後、日本、インドネシア、フィリピンについては、最初の4月1日が到来する日から2年目の譲許税率が適用されます。その他の国においては、最初の1月1日が到来した日に2年目の譲許税率が適用されます。
 批准が遅れて後から発効した国についても、既に発効した国と同じスケジュールで関税引き下げが行われます。

1年目2年目3年目4年目5年目6年目
日本、インドネシア、フィリピン2022/12022/42023/42024/42025/42026/4
その他の締約国2022/12023/12024/12025/12026/12027/1
RCEP締約国の関税引下げ開始日

日本の関税譲許

 農産品については、関税削減を約束していない品目が多数あります。これは、RCEPの関税削減品目が他のEPAと比べて少なく、また、関税撤廃に10年~20年かかる品目が多いことも反映していると言えるでしょう。特に中国及び韓国の原産品については、他の締約国からの輸入と比べて関税の削減幅が小さくなっている品目が多数あります。

関税譲許表及び品目別原産地規則のHSコード基準年

 関税譲許表及び品目別原産地規則のHSコードは2012年版です。(現在使用されているHSコードは2022年版)
 原産地証明書は2012年版のHSコードに基づき発給されます。現在使用されている2022年版HSコードとは異なるコードが付されている場合があるので注意しましょう。
 2022年版のHSコードが記載された特定原産地証明書を受け取った場合は、「不備のある原産地証明書」に該当します。日本の税関では、「相違がHSのバージョンの違いに起因する場合、有効と認められる場合があるので、必要に応じて原産地調査官等に相談してください。」としています。
 なお、2023年1月1日より品目別原産地規則が2022年版のHSコードを使用することが決定されています。これに伴い、RCEPの原産地証明書に記載するHSコードも2022年版のHSコードを記載することとなります。

 HSコードの基準年については、こちら

RCEP譲許税率と実行税率(MFN税率)

 RCEPの関税引下げの基準となる基準税率(譲許表では「Base Rate」と記載)は、2014年1月1日現在の実行税率(MFN税率)です。その後、MFN税率が引き下げられた場合には、RCEPの税率よりもMFN税率よりも低い事態が生じます。そのような場合においては、RCEPを利用する必要が無いので、ワールドタリフ等でMFN税率を確認しておくことが重要です。特に、中国では2014年以降にMFN税率が引き下げられた品目が多数あり注意が必要です。

原産地証明(第3・16条)

原産地証明の方法

 協定の第3・16条第1項利用可能な原産地証明の方法として、以下の方法が規定されています。

証明制度対象となる輸出締約国証明書類の発行方法備考
第三者証明制度全ての締約国輸出締約国の権限のある発給機関が発行。日本は日本商工会議所が発行
認定輸出者自己証明制度全ての締約国輸出締約国の権限のある当局により認定された輸出者が発行認定輸出者の認定は日本では経済産業省(詳しくはこちら
輸入者自己申告全ての締約国締約国の輸入者が発行。協定発効時は日本の輸入者のみ利用可能締約国は協定発効時から導入の検討を開始(5年以内に結論)
輸出者・生産者自己申告協定発効時は日本、豪州、ニュージーランド相互の輸出のみ輸出締約国の輸出者又は生産者が発行締約国は協定発効後10年以内に実施(猶予国あり)
協定では、第三者証明による証明書を「原産地証明書」、認定輸出者制度及び自己申告制度により作成した証明書を「原産地申告書」と呼んでいる。

 輸入者自己申告の場合、輸入者は原産地証明に関するすべての情報を保持している必要があります。輸入者自己申告を利用することにより、海外の自社工場からの輸入や原材料を提供して加工を依頼する委託加工貿易の際の原産地証明の手続きを簡素化することが出来ます。

原産地証明書の様式・記載事項

様式

 協定上、原産地証明書の様式は定められておらず、協定で定められた事項を網羅していれば任意の書式で作成することができます。
 第三者証明書の原産地証明書は統一した様式が決められてます。

記載事項

 RCEPの原差地証明に関する必要的記載事項は附属書3Bに規定されています。
 特に、原産国欄は、第2・6条(関税率の差異)に規定するRCEP原産国を記載することに注意する必要があります。
 なお、RCEPの原産地証明で記載する必要のある下記の項目は、TPP11では記載する必要のない項目です。

  • 第2・6条(関税率の差異)に規定するRCEP原産国
  • FOB価格(付加価値基準を使用した場合)
  • 産品の数量
  • 連続する原産地申告における規定

原産地証明書の発行単位及び有効期間

 原産地証明書は1回の輸送ごとに発給(発行)されます。TPPのように複数回の輸送に対応した原産地証明書はありません。
 第3・16条第6項の規定により、原産地証明書は発行の日又は作成の日から1年間有効なものとされています。

積送基準(第3・15条)

 他のEPA(FTA)と同様に、運送に関する規定があり、EPAが適用されるためには以下のことが必要です。

  1. 輸出締約国から輸入締約国に直接運送すること
  2. 他の第三国(RCEPの締約国を含む。)を経由して運送する場合は、次の2つの条件を満たすこと
    1. 第三国において更なる加工が行われないこと
    2. 第三国の税関当局の監督下に置かれていること

 これらの条件を満たすことを証明するために、通常、直送B/L又はフォワダーの通し船荷証券(スルーB/L)を税関に提出します。
 それが出来ない場合には、①第三国の税関の書類、又は、②輸入締約国が要求する書類、の何れかを提出する必要があります。第三国の税関が非加工証明書等を発給しない場合は「②輸入締約国が要求する書類」を提出することとなります。

連続する原産地証明(第3・19条)(バック・ツー・バックの原産地証明書)

 第三国の締約国内で貨物を保管する場合、日・アセアン協定のバック・ツー・バックの規定と同様の規定があります。
 輸出締約国及び輸入締約国以外のRCEPの締約国で貨物の保管(保税地域に限定されない。)を行う際に、「②第三国の税関又その他の公官署(港湾当局等)の書類」の代わりに、第三国のRCEP締約国で連続する原産地証明書(バック・ツー・バックの原産地証明書)を発行してもらうことが出来ます。このことにより、「③輸入締約国が要求する書類」を作成する負担が軽減されることとなります。
 例えば、シンガポールにおいて、ベトナムの産品を保管して日本に輸入する場合、ベトナムの原産地証明書に基づいてシンガポールで原産地証明書を発行してもらうことによって、このベトナム産品のRCEPの優遇税率を使用することが出来ます。
 ただし、バック・ツー・バックの原産地証明書は発行しないとしている国があるので注意が必要です。日本商工会議所は、日・アセアン協定では蔵置中に加工されていないということを実務上確認を行うことが出来ないことから、バック・ツー・バックの原産地証明書は発効しないとしています(詳しくはこちら)。しかし、RCEPではバック・ツー・バックの原産地証明書は発行することとなっています。

TPPの積送基準との相違

 TPPにおいては、締約国内での積替え、保管、仕分け等は何の制約も受けずに行うことが出来ます。
 RCEPにおいては、積送基準については輸出国及び輸入国以外の締約国は第三国の扱いとなりますが、連続する原産地証明の規定があり、RCEP締約国である第三国での保管等に関して一定の配慮がなされています。

特恵待遇の要求(EPA税率適用の申請方法)(第3・22条)

 輸入国にEPA税率の適用を申請することを「特恵待遇の要求」といいます。

日本への輸入の際の手続き

 他のEPAの手続きと同じです。
 原産地証明の方法により、下記の書類及びB/L等の積送基準を満たすことを証明する書類を輸入申告の際に税関に提出します。
 なお、20万円以下の物品については、原産地証明書等の提出は省略可能です。

原産地証明の方法輸入時の必要書類(B/L等を除く。)
第三者証明輸出国公的機関発行の特定原産地証明書
認定輸出者による証明輸出者の原産地証明書
輸出者自己申告輸出者又は製造者による原産地証明書(原産品申告書)、原産品申告明細書及び関係書類
輸入者自己申告輸入者による原産地証明書(原産品申告書)、原産品申告明細書及び関係書類 

輸入許可後の特恵待遇の要求

 協定上は輸入許可後に特恵待遇の要求が出来る旨規定されていますが(第3・22条第5項)、この規定は任意規定であり、日本においては輸入許可後の特恵待遇の要求は出来ないこととなっています。
 原産地証明書の到着が遅れる場合には、輸入許可前引取(BP)の制度を利用して貨物を国内に引き取り、納税申告は原産地証明書の到着後に行うことが出来ます。

輸出先での特恵待遇の要求

 輸出先の制度に従い輸入者が特恵待遇の要求を行うこととなります。
 協定上、200USドル(相当額)又はこれより高い輸入国が定める金額を超えない貨物については、原産地証明書の提出を省略することが出来ることとなっています。

原産地基準

 多くの原産地基準は他の協定の原産地基準と大きく変わらない規定となっています。これらの規定は次のようなものです。

完全生産品(WO)(第3・2条及び第3・3条)

 完全生産品について第3・3条に規定されています。

原産材料のみから生産される産品(PE)(第3・2条)

 一の締約国において一又は二以上の締約国からの原産材料のみから生産される産品は原産品である旨規定されています。これらの産品は「原産材料のみから生産される産品」といわれます。

品目別原産地規則を満たした産品(第3・2条及び附属書3A)

 附属書3Aに品目別原産地規則が規定されています。品目別規則を満たした産品は原産品となります。
 多くの品目別規則は単純な関税分類変更基準と付加価値基準(基準値40%)を選択することが出来、原産地証明を行う者の負担の軽減が図られています。
 中国・アセアンEPAでは、基本が付加価値基準となっているのに比べ、利用しやすい原産地基準となっています。

関税分類変更基準(CTC)

 関税分類変更基準は、他のEPA同様に類変更基準(CC)、項変更基準(CTH)及び号変更基準(CTSH)からなっています。
 特に繊維製品の原産地基準が類変更基準(CC)となっており、他のEPAと比べて緩やかとなっていますので、利用価値は大きいと思われます。

【参考】衣類の輸入はRCEPの輸入者自己申告がお勧め

加工工程基準(SP)

  RCEPの加工工程基準は、化学反応のみが規定されており、品目別規則では「CR」と表記されています。
 他の協定と異なり、加工工程基準が採用されているのは、下記の9品目のみです。
  詳しくはこちら

RCEPで加工工程基準が採用されている品目
HSコード 品 名
29.01非環式炭化水素
29.02環式炭化水素
29.07フェノール及びフェノールアルコール
29.09エーテル、エーテルアルコール、エーテルフェノール等
29.14ケトン及びキノン(他の酸素官能基を有するか有しないかを問わない。)
2916.15オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸並びにこれらの塩及びエステル 
29.20非金属のその他の無機酸のエステル(ハロゲン化水素酸エステルを除く。)及びその塩
38.11アンチノック剤、酸化防止剤、ガム化防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤その他の調製添加剤
38.24化学工業(類似の工業を含む。)において生産される化学品及び調製品(天然物のみの混合物を含むものとし、他の項に該当するものを除く。)

付加価値基準(第3・5条)

 付加価値基準における域内原産割合の算定は第3・5条に規定さており、次の2種類があります。どちらの基準を採用しても数値に差は付けられておらず、一律40%となっています。
 実務上は、一般的に用いられている控除方式を用いて証明するのが無難であると考えられます。

  1. 控除方式(日本のほとんどのEPAで採用)
    RVC=(FOB-VNM)/FOB×100
  2. 積上げ方式(原産品の価格、労務費、利益等を積上げ:日インドEPA、日モンゴルEPAで類似の積上げ方式を採用)
    RVC=(VOM+直接労務費+直接経費+利益+他の費用)/FOB×100

 ここで、
 RVC:域内原産割合
 FOB:産品の本船渡し価格
 VNM:非原産材料の価額
 VOM:原産材料の価額

累積(3・4条)

 他の締約国の原産品を自国の原産材料とみなすこと(「累積」)ができる旨が規定されています。(物の累積)
 TPPと異なり、締約国の生産行為及び付加価値に関する累積の既定はありません。
 この累積の規定を使用すると、これまで中国又は韓国の原材料を使用しているためにアセアン諸国向けのEPAを利用できなかった産品について、RCEP発効後は、RCEPの優遇税率を利用できる可能性があります。RCEP域内のサプライチェーンの円滑化に効果が大きいと思われます。

軽微な加工(第3・6条)

 非原産材料に行われる次の工程については、原産品としての資格を与えるための加工とはみなされません。

  1. 輸送又は販売のために産品を包装し、又は提示する工程
  2. ふるい分け、選別、分類、研ぐこと、切断、切開、破砕、曲げること、巻くこと又はほどくことから成る単純な処理
    (注)この条の規定の適用上、「単純な」として規定される活動とは、専門的な技能又は特別に生産され、若しくは設置された機械、器具若しくは設備を必要としない活動をいう。
  3. 産品又はその包装にマーク、ラベル、シンボルマークその他これらに類する識別表示を付し、又は印刷する工程
  4. 産品の特性を実質的に変更しない水又は他の物質による単なる希釈
  5. 生産品の部品への分解
  6. 動物をとさつする工程(注)
    (注)この条の規定の適用上、「とさつ」とは、動物を単に殺すことをいう。
  7. 塗装及び研磨の単純な工程
  8. 皮、核又は殻を除く単純な工程
  9. 産品の単純な混合(異なる種類の産品の混合であるかどうかを問わない。)
  10. a.からi.までに規定する二以上の工程の組合せ

僅少の非原産材料(第3・7条)

 FOB価格の10%の以内の関税分類変更基準を満たさない非原産材料を使用している場合には、原産品として認められます。
 また、繊維製品(第50類~第63類)の産品については、当該産品の重量の10%以内の関税分類変更基準を満たさない非原産材料を使用している場合にも、原産品として認められます。
 詳しくはこちら

梱包資材及び包装材料等についての規定(第3・8条)

 こん包材料・包装材料及びこん包容・包装容器については、他の協定と同様に次のように規定されています。

  • 輸送用及び船積用の梱包材料及び梱包容器については原産性の判定の際に考慮しない。
  • 完全生産品、原産材料のみから生産される産品及び関税分類変更基準に係る原産性の判定の際には、小売用の包装材料及び包装容器は考慮しない。
  • 付加価値基準を用いて原産性の判定を行う際には、小売用の包装材料及び包装容器は原産材料又は非原産材料として計算に含める。

附属品、予備品及び工具(第3・9条)

 附属品、予備部品及び工具についても、関税分類変更基準を用いた場合には考慮しない、付加価値基準を用いた場合には原産材料又は非原産材料として計算に含める、と規定されています。

間接材料(第3・10条)

 間接材料は生産される場所を問わず原産材料として取扱う旨規定されています。

代替性のある産品又は材料(第3・11条)

 他の協定と同様に代替性のある産品及び材料に関する規定があります。 

生産に使用される材料(第3・12条)

 非原産材料を使用してRCEPの原産地基準を満たす生産を行った原材料は原産材料として取扱うことを規定しています。

原産品としての資格の単位

 原産品か否かを決定する原産品としての資格の単位は、HSコードを決定する際の基本的な単位とすることを規定しています。
 例えば、高級な陶器の容器に入れられたマオタイ酒を輸入しようとする場合を考えます。この場合、関税率表の解釈に関する通則5の規定により、容器と中身のマオタイ酒は別々のHSコードコードに分類されることとなります(分離課税)。従って、容器と中身のマオタイ酒はそれぞれ別々に原産地証明を行う必要があります。

税率差ルール(第2・6条)

 RCEPでは、輸入する相手国により協定税率に大きな差がある場合があります。例えば、日本の譲許表においては、適用される関税率が締約国により異なる品目は2,722品目あります。このため、低税率国を迂回した輸入を防止する必要があり、そのための税率調整ルールが定められています。

基本ルール

 RCEP原産国は、RCEP原産地規則章の規定に従って原産品の資格を取得した国が原産国となります。輸出国において原産地基準を満たす実質的な変更が行われた場合には、輸出国が原産国となります。
 それ以外の場合で、RCEP締約国の原産材料のみから生産される産品の場合には、輸出国において軽微な工程以外の製造・加工が行われた場合のみ輸出国が原産国となります。軽微な工程については第5項に規定されていますが、上記の軽微な加工(第3・6条)と同じです。

特定の品目についての特別ルール(基本ルールの例外)

 協定の付属書Ⅰ(関税の譲許表)の最後に、「Appendix in Relation to Paragraph 3 of Article 2.6 (Tariff Differentials)(付録 第二・六条(関税率の差異)3の規定に関する付録)」として基本ルールの例外とする品目がリストが掲載されています。これらのリストに規定された産品については、輸出締約国の原産品としてEPA税率の適用を受けようとする際には、輸出締約国の生産においてFOB価額の20%以上の付加価値をつける必要があります。輸出締約国において20%以上の付加価値が付加されていない場合には、最高価額の原産材料を提供した締約国が原産国となります。
 例えば、日本のリストには、ジュース、牛革、革靴等が100品目が掲載されています。その他、中国(82品目)、韓国(99品目)、インドネシア(99品目)、フィリピン(42品目)、ベトナム(100品目)の譲許表にもリストが掲載されています。

補完的ルール

 上記の2ルールで原産国が決定できない場合には、合計して最高価額の原産材料を提供した締約国がRCEP原産国となります。

輸入者による原産国の選択

 上記の規則により原産国の選択が困難な場合には、輸入者は次の何れかの関税率を適用するように輸入国税関に要求することが出来ます。

  • 使用する原産材料を生産する締約国のうち、一番高い関税率の国の関税率を適用する方法
  • 全ての締約国の関税率のうち一番高い国の関税率を適用する方法

原産材料のみから製造される産品にかかるRCEP協定の原産地

 輸出国での製造・加工が実質的変更基準を満たさない場合においても、他のRCEP締約国で生産された原産品のみを用いて製造を行った場合には、原産材料のみから生産される産品として原産地基準を満たすこととなります。この場合、上記のルールに従って原産国を決定するとどのようになるのでしょうか。

締約国2か国が関与する事例

RCEPの原産国は日本?ベトナム?

 日本の原産品Aをベトナムで加工し、Bという産品を製造し、中国に輸出します。AとBのHSコード6桁は同一で、ベトナムでの加工で関税分類変更基準を満たすことはできず、また、付加価値基準も満たさないとします。
 Bは日本の原産品AをRCEP締約国ベトナムで加工した産品ですので、累積の規定を使用するとRCEPの原産地規則を満たします。さて、この場合のBのRCEP上の原産国は日本となるのでしょうか、それともベトナムとなるのでしょうか。原産国が日本とベトナムではRCEPでは大きな税率格差が生じることがあります。
 上の図は、中国に輸入する際のRCEPの関税率を図式化したものです。産品Bの日本原産品に対する中国のRCEP関税率は発行当初は10%近くになります。ところが、ベトナムで加工して輸出する際に、ベトナム原産と認定されると関税無税となります。Bはベトナムから輸出されますが、日本原産品と認定されると10%近くの関税が課され、ベトナム原産品と認定されると関税無税となります。
 特別ルールの適用がない品目の場合、税率差ルールの基本ルールを適用すると、上記の例は、ベトナムでの加工が品目別規則を満たしていなくても、軽微な加工以上の製造・加工が行われている場合には、ベトナム原産品として中国に関税無税で輸出できることとなります。

締約国3か国以上が関与する事例

RCEP上の原産国は日本?韓国?ベトナム?

 それでは、締約国3か国以上が関与する場合はどうでしょうか。右の図では、ベトナムでの加工が実質的変更基準を満たさないことを前提としています。
 特別ルールの適用がない品目の場合、ベトナムでの加工が軽微な加工に該当しない場合は、基本ルールを適用しRCEP上ベトナム原産品となります。特別ルールの適用される品目の場合、ベトナムでの付加価値が20%以上ある場合は、RCEP上ベトナム原産品となります。
 もし、ベトナムでの加工が軽微な加工に該当する場合、又は、特別ルールが適用される品目で同ルールを満たさない場合は、日本原産品か韓国原産品の何れかとなります。この場合は基本ルールでは原産国を決定できないので、上記の補完的ルールを適用することとなります。
 日本原産品Cが韓国原産品Dより高額な場合は日本原産品に、また、Dの方がCより高額である場合は韓国原産品となります。

書類の保管(第3・27条)

 生産者、輸出者、発給機関は3年間関係する書類を保管する必要があります。
 輸入者も3年間の関係書類の保管が定められています。日本の場合は、輸入者は関税法により書類を5年間又は7年間保管する義務が定められています。

事後確認(Verification)

 事後確認(Verification)は検認とも呼ばれ、、EPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)又はGSP(一般特恵関税制度)の下で、特恵税率を適用して輸入申告された貨物について、各EPA及び関税関係法令の規定に基づき、輸入通関後にその貨物が相手国の原産品であるか否かについての確認を輸入者、輸出者又は生産者に対し行うことをいいます。
 RCEPでは、第三者証明、認定輸出者自己証明、輸出者及び生産者による自己申告及び輸入者自己申告(日本のみ利用可能)となっていますが、事後確認については、協定上、どの証明方法にも対応できるように次の5つの方法が規定されています。

  1. 輸入者に対する書面による検証
  2. 輸出者又は生産者に対する書面による検証
  3. 輸出国の発給機関又は権限のある当局に対する書面による検証
  4. 輸出者・生産者を訪問し、設備や原産性に関する記録を検証する方法
  5. その他、締約国が合意する方法

 上記の検証方法がどの証明方法に使用されるのかの規定は存在していません。
 これまでの協定では、自己申告制度を採用した協定では、2.輸出者・生産者に対する検証が規定されています。一方、第三者証明を採用した協定では、3.発給機関等に対する検証が規定されていました。実際の運用がどのように行われるのか現時点では不明ですが、RCEPでは、協定上は第三者証明でも輸出者・生産者への書面による検証が可能となっています。
 (メキシコ協定では、第三者証明を利用した場合でも輸出者への直接検証が可能。)

輸出国の発給機関・輸出者に対する検証

輸入国税関からの問合せに関するコンタクトポイント

 輸入国税関からの問い合わせに対して、コンタクトポイントが定められています。
 日本政府のコンタクトポイントは証明の方法に応じて下記の通りとなります。

  • 第三者証明制度・認定輸出者自己証明制度を利用した場合
    日本商工会議所・経済産業省
  • 輸出者・生産者による自己申告制度を利用した場合
    財務省

 輸入締約国が日本の輸出者・生産者に対して情報提供を要請する場合には、上記のコンタクトポイントへ要請が行われることとなっています。その後、必要に応じ、利用した証明制度に応じて上記の政府機関から連絡行われることとなっています。
 相手国から上記の機関を介さずに直接情報提供の連絡があった場合は、直ぐに回答せずに上記機関に相談してほしいとのことです。

筆者注

 日本のコンタクトポイントが原産地証明の方法により異なるのは、EPAの原産地証明が、原産地証明制度により異なる法律によって規定されていることに由来すると考えられます。従って、外国税関からの問合せに対する対応も下記の条文により規定されています。

訪問検証

 TPPと同様に輸出者・生産者に対する訪問検証を行うことが出来る旨の規定があります。輸出者の事務所や製造工場を実際に訪問して帳簿や製造工程を調査することにより原産性を確認します。
 輸入国税関による訪問検証は、上記の 輸出者・生産者に対する検証又は 輸出国の発給機関又は権限のある当局に対する検証が実施された後に行われていることとなっています。訪問検証は、輸出締約国の同意及び支援の下に行われることとなっています。

輸入者に対する検証

 輸入者が原産性に関する資料を税関に提供することが出来れば、通常、それで事後確認は終了となります。
 輸入者が回答できなかった場合又は税関が輸入者の証明に疑義があると考えた場合は、輸出者等に対する書面検証又は発給機関等に対する書面検証に進むことになります。
 なお、日本への輸入の際に利用できる輸入者自己申告においては、輸入者が税関に対して原産性を証明できないと、その時点でEPA税率の適用が否認されることとなります。

回答期限

 輸入国税関は、輸入者、輸出者、製造者、発給機関又は権限のある当局に対して、書面による照会書の受領の日から、30日から90日の間の回答するための期間を与えることとなっています。

決定の通知

 輸入国税関は、最終的な回答の受領後、90日以内及び180日以内に、決定を行うように努力することとなっています。(努力規定)
 その結果は、 輸入者、輸出者、製造者、発給機関又は権限のある当局に対して、書面による通知することとされています。(義務規定)

EPA税率の否認(第3.25条)

 輸入締約国は次の場合にEPA税率の適用を否認することが出来ます。

輸入通関時

  1. EPA税率の適用に必要な原産地手続きを行わなかった場合
  2. 積送基準を満たさなかった場合
  3. 原産地基準を満たさなかった場合 
  4. 原産地証明書に重大な不備があった場合 
    原産地証明書の軽微な誤りについては、原産地手続の際に考慮しないこととされています。(第3.26条) 
    我が国では、「不備のある(EPA/GSP)原産地証明書等の取扱い」を公表しており、どのような誤りが是認され、どのような誤りがあると原産地証明書が無効とされるのか、基準が示されています。

事後確認(検認)の際

  1. 輸入された産品が原産品であるとの十分な情報の提供がなかった場合
  2. 事後確認を行った際に輸入者、輸出者、製造者、発給機関又は権限のある当局が回答期限内に文書による回答を行わなかった場合
  3. 訪問検証に応じなかった場合

参考としたWEBサイト

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