第29.01項から第29.35項までの有機化合物は原則として官能基ごとに分類されています。官能基とは、その分子を特徴づける原子団のことで、同じ官能基を持つ化合物はその性質が似ているので、同じグループの化合物として分類できます。
 多くの天然有機化合物は第29.01項から第29.35項までに分類され、これらの項には原則として化学的に単一な化合物のみが分類されます。これらの化合物の中には関税率表解説に第29類に分類される物品の純度基準が示されているものもあります。
 例外として、レシチンを含むホスホアミノリピド及び核酸は、化学的に単一でない場合にも第29類に分類されます。
 代表的な天然有機化合物のHSコードをみていきたいと思います。
 ビタミン、ホルモン、グリコシド、アルカロイド、糖類、抗生物質等、官能基によりHSコードを決定できない有機化合物については、こちらをご参照ください

目次

  1. テルペン類
  2. アルコール類
  3. カルボン酸
  4. アミノ酸
  5. レシチンその他のホスホアミノリピド(第29.23項)
  6. 核酸(第29.34項)

テルペン類

 テルペンとは、植物や菌類等によって作り出される生体物質です。
 炭素10個を単位として体系化されています。テルペンはイソプレンを構成単位とする炭化水素ですので、テルペン類の炭素数は原則として5の倍数となります。モノテルペン (C10)、セスキテルペン (C15)、ジテルペン (C20)、セスタテルペン (C25)、トリテルペン (C30)等があります。ラテン語で、セスキは1.5倍、セスタは2.5倍を表します。
 テルペン類の内、カルボニル基(有機酸)、ヒドロキシ基(アルコール)などの官能基を持つ誘導体はテルペノイドと呼ばれています。
 植物から得られるテルペン類は、第38.05項に分類される針葉樹から得たテルペン油、第33.01項に分類される各種の精油等に多く含まれています。
 第29類にはテルペン油、精油等から分離された化学的に単一なテルペン(例えば、樟脳(camphor)、ℓ-メントール(l-menthol))のみが分類されます。

テルペン類の化学構造式
α-ピネン
リモネン
メントール
樟脳
テルペンの化学構造式

 ピネンについては、国内分類例規に分類規定があります。

主なテルペンのHSコード

テルペン
含有する精油又は植物
29.02
環式炭化水素
ピネン
2902.19
テレビン油、パインウッド油、けい皮油
カンフェン
2902.19
ナツメグ油、プチグレン油
リモネン
2902.19
かんきつ類の果実油
ジペンテン
2902.19
針葉樹から得た精油(リモネンの光学異性体の混合物)
29.05
非環式アルコール
フィトール
2905.22
ベルペッパー、唐辛子
ゲラニオ ール
2905.22
ローズオイル、パルマローザ油、シトロネラ油
シトロネロール
2905.22
シトロネラ油、ゼラニウム油
リナロール
2905.22
ローズウッド、リナロエ
ロジノール
2905.22
ローズオイル、ゼラニウム油
ネロール
2905.22
レモングラス、ホップ
29.06
環式アルコール
メントール
2906.11
ハッカ油、ペパーミントオイル
テルピネオール
2906.19
松根油、カユブテ油、プチグレン油
サンタロール
2906.19
ビャクダン
29.07
フェノール及びフェノールアルコール
チモール
2907.19
タイム油
カルバクロール
2907.19
オリガナム油
29.12
アルデヒド
シトラール
2912.19
レモングラス、レモン、オレンジ
フェランドラール
2912.29
ういきょう油及びユーカリ油
ペリラアルデヒド
2912.29
シソの精油
29.14
ケトン及びキノン
樟脳(カンファー)
2914.29
クスノキ
フェンコン
2914.29
アブサン、フェンネル
カルボン
2914.29
キャラウェイ、スペアミント
メントン
2914.29
ペパーミント

アルコール類

エタノール・ペンタノール

 エタノールはアルコール発酵により、ブドウ糖、果糖、ショ糖より生成しますが、第22類に分類されます。
 エタノール精留の際にフーゼル油(38.24)が得られます。フーゼル油には第2905.19号に分類されるペンタノール(アミルアルコール)が含まれています。

脂肪族アルコール(Fatty alcohol)

 脂肪族アルコールは通常、8個から22個の炭素鎖から構成されており末端の炭素に1つのヒドロキシ基(-OH)を持っています。
 天然では、多くの場合、脂肪酸と脂肪族アルコールのエステルである蝋の形で存在します。
 飽和の脂肪族アルコールは、オクチルアルコール(炭素数8、2905.16)、ラウリルアルコール(炭素数12)、セチルアルコール(炭素数16)、ステラリルアルコール(炭素数18)(以上2905.17)等があります。
 単一のアルコール化合物の含有量が乾燥状態における全重量の 90%未満の脂肪族アルコールは第38.23項に分類されます
 不飽和の脂肪族アルコール(2905.29)としては、オレイルアルコール(炭素数18)等があります。

多価アルコール

 グリセリン(2905.45)はヒドロキシ基を3個持つ3価のアルコールです。脂肪は、脂肪酸とグリセリンのエステルであることから、脂肪を加水分解する際に生成します。第29.05項には、乾燥状態において純度が 95%以上のグリセリンのみを含み、低純度の粗グリセリンは第15.20項に分類されます。
 マンニトール(2905.43)は糖アルコールの一種で、ヨーロッパから中近東にかけて自生するモクセイ科のマンナトネリコ(Manna Ash、Fraxinus ornus)の樹液に存在します。

環式アルコール

 ステロール(2906.13)は飽和又は不飽和の脂環式アルコールです。動物及び植物に含まれています。最も重要なステロールはコレステロールです。本項には、エルゴステロール(29.36:ビタミンDのプロビタミン)は含まれません。
 イノシトール(2906.13)は、シクロヘキサンの各炭素上の水素原子が1つずつヒドロキシ基に置き換わった構造を持っており、動植物中に広く存在しています。

芳香族アルコール

 芳香族アルコール(2906.29)としては、フェニルエチルアルコール(バラ油)、フェニルプロピルアルコール(そごう香、スマトラガムベンゾイン、カシア油等)、シンナミルアルコール(そごう香、ペルーバルサム、シナモン)等が知られています。

カルボン酸

 カルボン酸は、カルボキシル基(-COOH)を有する有機化合物で、第29.15項から第29.18項に分類されます。

高級脂肪酸(29.15項又は29.16項)

 高級脂肪酸は、炭素数が6以上のカルボキシル基1個を持つモノカルボン酸です。高級脂肪酸は、天然の油脂(グリセリンと高級脂肪酸のエステル)、蝋(脂肪族アルコールと高級脂肪酸のエステル)として天然に広く存在します。

主な飽和高級脂肪酸(29.15項)

 主な飽和高級脂肪酸を下記の表にまとめました。単一の脂肪酸の含有量が乾燥状態における全重量の 90%未満のものは、第38.23項に分類されます。

炭素数品名多く含む動植物
8カプリル酸2915.90ココナッツオイル、バター
10カプリン酸2915.90ココナッツオイル、バター
12ラウリン酸2915.90ココナッツオイル、パーム油
14ミスチリン酸2915.90ヤシ油、パーム油
16パルミチン酸2915.70ラード、ヘッド、ヤシ油、パーム油
18ステアリン酸2915.70ラード、ヘッド

主な不飽和高級脂肪酸(29.16項)

 主な不飽和高級脂肪酸を下記の表にまとめました。乾燥状態における重量割合が 85%未満のオレイン酸及び 90%未満のその他の脂肪酸は、第38.23項に分類されます。

炭素数不飽和結合の数名称多く含む動植物(油)
16 1パルミトレイン酸2916.19マカダミア油、アボガドオイル
181オレイン酸2916.16オリーブオイル、菜種油、アーモンド、牛肉
182リノール酸2916.16グレープシドオイル、綿実油、コーン油、大豆油
183リノレン酸2916.16亜麻仁油、エゴマ油
205エイコサペンタエン酸(EPA)2916.19イワシ、青魚
226ドコサヘキサエン酸(DHA)2916.19イワシ、青魚

その他のモノカルボン酸(第29.15項及び第29.16項)

 第29.15項及び第29.16項に分類される天然由来のモノカルボン酸(分子内にカルボキシル基が1個存在するもの)には次のような化合物があります。

炭素数化合物多く含む動植物
2酢酸2915.21エタノールの酢酸発酵
4酪酸2915.60バター
5吉草酸2915.90セイヨウカノコソウ(吉草)
9けい皮酸2916.39けい皮油、トルーバルサム、ペリーバルサム

ポリカルボン酸(第29.17項)

 第29.17項に分類される天然由来のポリカルボン酸(分子内にカルボキシル基が2個以上存在するもの)には次のような化合物があります。

炭素数カルボキシル基の数名称多く含む動植物(油)
22シュウ酸2917.11カタバミ、スイバ、ホウレンソウ、タケノコ
32マロン酸2917.19サトウダイコン、リンゴ
42コハク酸2917.19琥珀、地衣類、菌類
102セバシン酸2917.19ひまし油

カルボン酸以外の酸素官能基を有するカルボン酸(第29.18項)

 第29.18項に分類される天然由来のカルボン酸で、カルボン酸以外の酸素官能基を有する化合物には次のような物があります。

炭素数カルボキシル基の数酸素官能基名称多く含む動植物等
31アルコール(1)乳酸2918.11糖類の乳酸発酵
42アルコール(2)酒石酸2918.12ワイン
42アルコール(1)リンゴ酸2918.19リンゴ
63アルコール(1)クエン酸2918.14柑橘類
61アルコール(4)グルコン酸2918.19蜂蜜、ワイン
71フェノール(3)沈食子酸2918.29沈食子、茶葉
81フェノールエーテルアニス酸2918.99アニス油
アルコール( )及びフェノール( )の中の数は、化合物中のヒドロキシ基の数を表す

アミノ酸

 アミノ酸はアミノ基(ーNH)及びカルボキシル基(ーCOOH)を有する有機化合物です。アミノ酸は第2922.41項から第2922.49項に特掲されています。しかし、他の官能基の存在や複素環式化合物であることなどにより、第29.22項から第29.35項までの各項に分類される可能性があります。

アミノ酸の化学構造式
グルタミン
グルタミン酸
トリプトファン
アミノ酸の化学構造式

たんぱく質を構成するアミノ酸のHSコード

 たんぱく質は20種類のアミノ酸から構成されています。
 下記の表はたんぱく質を構成するアミノ酸のHSコードをまとめたものです。

HSコード(号)

アミノ酸

化学式

2922.41

リジン

C6H14N2O2

2922.42

グルタミン酸

C5H9NO4

2922.49

グリシン

C2H5NO2

2922.49

アラニン

C3H7NO2

2922.49

アスパラギン酸

C4H7NO4

2922.49

バリン

C5H11NO2

2922.49

グルタミン

C5H10N2O3

2922.49

イソロイシン

C6H13NO2

2922.49

ロイシン

C6H13NO2

2922.49

フェニルアラニン

C9H11NO2

2922.50

セリン

C3H7NO3

2922.50

スレオニン

C4H9NO3

2922.50

チロシン

C9H11NO3

2924.19

アスパラギン

C4H8N2O3

2925.29

アルギニン

C6H14N4O2

2930.40

メチオニン

C5H11NO2S

2930.90

システイン

C3H7NO2S

2933.29

ヒスチジン

C6H9N3O2

2933.99

プロリン

C5H9NO2

2933.99

トリプトファン

C11H12N2O2

レシチンその他のホスホアミノリピド(第29.23項)

 ホスホアミノリピドは、オレイン酸、パルミチン酸その他の脂肪酸とグリセロりん酸及びコリンその他の有機窒素塩基から成るエステルです。
 レシチンは、脂肪酸(29.15又は29.16)、グリセロリン酸(29.19)及び第四級アンモニウム塩であるコリン(29.23)を分子中に有しています。第29類注3の規定で、「この類の二以上の項に属するとみられる物品は、これらの項のうち数字上の配列において最後となる項に属する。」とありますので、化学構造上は、第29.23項に分類されることとなります。
 レシチンを初めとしたホスホアミノリピドは、項の規定により、「化学的に単一であるかないかを問わない。」とされています。
 レシチンの主要なものは、大豆レシチン及び卵黄レシチンです。商慣習上のレシチンも本項に分類され、大豆レシチンは、「アセトン不溶性のりん脂質(通常、重量比で60~70%)、大豆油、脂肪酸及び炭水化物の混合物から成る。」とされています。

レシチンの化学構造式

核酸(第29.34項)

 核酸は、リン酸基、糖部、核酸塩基からなるヌクレオチド呼ばれる化学構造上の単位から構成されています。DNA(Deoxyribonucleic Acid)及びRNA(Ribonucleic Acid)はヌクレオチドがリン酸基を介して連結したポリマーです。
 核酸は項の規定により「化学的に単一であるかないかを問わない」とされています。


 核酸塩基は、ヌクレオチドを構成する塩基成分で、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルの5種類あります。チミンはDNAのみに、ウラシルはRNAのみに存在します。

nucleotide

 糖部はDNAはデオキシリボース(deoxyribose)、RNAはリボース(rebose)で構成されています。

核酸が第29.34項に分類される理由

 核酸の骨格とよく似た化学構造を持つ物質にアデノシントリリン酸(ATP)があります。ATPは核酸ではないので、化学的に単一な物のみが第29.34項に分類されます。
 ATPは第29.34項に分類されますが、その理由を考えると、何故核酸を第29.34項に分類することとしたのか、その理由が分かります。

 有機化合物のリン酸エステルは第29.19項に分類されるので、リン酸基の部分だけ考えると第29.19項の化合物となります。
 デオキシリボースは、化学的に純粋なものは第29.40項に分類されます。しかしながら、糖の誘導体は第29.40項には分類されず、官能基に従い分類します。デオキシリボースの部分を考えると、ヘテロ原子として酸素のみを有する複素環式化合物であることから、第29.32項に分類されます。
 核酸塩基のアデニンは、ヘテロ原子として窒素のみを有する複素環式化合物ですので、第29.33項に分類されます。
 第29.34項の規定は、「その他の複素環式化合物」となっており、ヘテロ原子として酸素原子と窒素原子の両者を有する複素環式化合物は第29.34項に分類されます。アデノシンのように、分子内にヘテロ原子として酸素のみを有する複素環と窒素のみを有する複素環の両者を有する化合物も、第29.34項に分類されることとなります。アデノシンのHSコードの決定に当たっては、レシチンの場合とは異なり、第29類注3の規定は適用されません。
 ATPのHSコードの決定は、最終的にアデノシンとリン酸エステルの部分を考慮しますが、この場合は、第29類注3の規定により、数以上の配列の最後となる第29.34項に分類されることとなります。

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