HS品目表では、化学物質の国際的な取引を規制する国際条約で化学物質を特定する細分を設けているます。これは、これらの条約で規制されている化学物質の国際貿易をモニタリングし、条約の実効性を高めることを目的としています。
 化学物質の輸出入者は、これらの国際条約についての知識を持つことは勿論、そのような物質のHSコードを予め承知しておくことは有用と考えられます。
 なお、2022年1月1日にHS品目表が改正されていますが、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書のキガリ改正を反映した改正が行われています。詳しくは「2022年版HS品目表改正の概要」のページ中の「規制化学物質の貿易モニタリングの強化」の記事をご覧ください。

目次

国際条約で規制されている化学物質をHS品目表に特掲する必要性

 HS品目表では、化学物質の国際貿易を規制する国際条約で特定されている化学物質に関する細分を設けています。その目的は、主として次の2点です。

ストックホルム条約で規制されているDDT
DDT((ジクロロジフェニルジクロロエタン)

規制する化学物質に関する世界貿易の実態を把握すること

 HS品目表を用いてほとんどの国は貿易統計を公表しているので、規制を行う物質をHSコードで6桁で特定すると、当該物質の全世界における貿易の実態が把握できます。関係する国際機関では、世界各国の規制物質の貿易をモニタリングしています。

輸出入通関における取締りの実効性を高めること

 世界の多くの国では輸出入通関に電子申告を採用していますが、規制する物質をHSコードで特定しておくと、そのコードで申告された貨物について税関職員が必要な許可書等の有無について厳格に審査を行うように予めプログラムしておくことが出来ます。
 また、本来申告すべきHSコードと異なるHSコードで申告を行った場合には、虚偽申告や無許可輸出入の罪で立件しやすくなるというメリットもあります。

化学品の国際貿易を規制・管理する国際条約

 化学品の国際貿易を規制する主な国際条約には次のようなものがあります。

(注1)サリン、VX、マスタード、ホスゲン、塩化シアン、シアン化水素、塩化リン、トリエタノールアミン等
(注2)麻薬原材料には、アセトン、エチルエーテル、無水酢酸等の汎用化学品が含まれるので注意する

HS品目表で特掲されている規制化学物質

 HS品目表に特掲されている国際条約により貿易が規制されている物質には次のようなものがあります。これらには、規制されている物質の他、その原料及び前駆物質(precursors)も含まれています。
 詳細については、WCOホームページの「CORRELATION BETWEEN THE PRODUCTCOVERAGE OF SELECTED INTERNATIONAL CONVENTIONS AND THE HARMONIZED SYSTEM」(October 2021)をご参照ください。

化学兵器禁止条約

 化学兵器禁止条約(Chemical Weapons Convention: CWC、正式名称は「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」)は、サリンなどの化学兵器の開発、生産、保有などを包括的に禁止し、同時に、米国やロシア等が保有している化学兵器を一定期間内(原則として10年以内)に全廃することを定めたものです。CWCの実施に当たる国際機関として、化学兵器禁止機関(OPCW)が設けられています。
 HSコードには、二塩化カルボニル(2812.11:ホスゲン)、亜リン酸ジメチル(2920.21)、2-(N,N-ジエチルアミノ)エタンチオール(2930.60)、メチルホスホン酸ジメチル(2931.31)等が特掲されています。

麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約

 麻薬及び向精神薬を国際的に取り締まる目的で締結された、麻薬単一条約(「1961年の麻薬に関する単一条約」 )、向精神薬条約(「向精神薬に関する条約」)及び麻薬及び向精神薬の不正取引条約(「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」)の3条約で規制されている化合物をHSコードで特掲しています。これらの条約の事務局は国際麻薬統制委員会(INCB)です。
 テトラヒドロカンナビノール(2932.95:大麻の麻薬成分)等、単独で特掲されているものもありますが、モルヒネは他のアヘンアルカロイドと共に特掲されているなど、類似の物質をまとめて一つの号に分類されている事例も多くあります。

オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書

 地球を取り巻くオゾン層は、生物に有害な影響を与える紫外線の大部分を吸収しています。冷蔵庫の冷媒、電子部品の洗浄剤等として使用されていたCFC(クロロフルオロカーボン)、消火剤のハロン等は、大気中に放出され成層圏に達すると紫外線による光分解によってフッ素原子、塩素原子等を放出し、これらが分解触媒となってオゾン層を破壊しています。このため、オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し、当該物質の生産、消費及び貿易を規制して人の健康及び環境を保護するための「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が締結されています。この条約の事務局はUNEP(国連環境計画)です。
 HSコードとしては、第29.03項(炭化水素のハロゲン化誘導体)に四塩化炭素及び多数の特定フロン、ハロンが特掲されています。また、これらの物質を含有する製品についても、第38.27項(メタン、エタン又はプロパンのハロゲン化誘導体を含有する混合物)が設けられています。

ロッテルダム条約及びストックホルム条約

 ロッテルダム条約(国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約)は、先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害な化学物質や駆除剤が、開発途上国にむやみに輸出されることを防ぐために、締約国間の輸出に当たっての事前通報・同意手続(Prior Informed Consent、通称PIC)等を設けた条約です。ストックホルム条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)は、残留性有機汚染物質から人の健康と環境を保護することを目的とし、①PCB等18物質(附属書A掲載物質)の製造・使用,輸出入の禁止、②DDT等2物質(附属書B掲載物質)の製造・使用・輸出入の制限、③非意図的に生成されるダイオキシン等4物質(附属書C掲載物質)の削減等による廃棄物等の適正管理を定めています。
 これらの条約で規制されている化合物は、第29類においては、ヘキサクロロベンゼン(ISO)及びDDT(2903.92)、ペルフルオロオクタンスルホン酸(2904.31)等が特掲されているほか、、第3824.81号から第3824.88号には、両条約で規制されている化合物を含む混合物を特掲しています。

有害廃棄物等

 OECD及びUNEP(バーゼル条約事務局)より、廃棄物を分類する項目をHS品目表に設けるように要請があり、種々の廃棄物分類するために第38.25項が設けられています。同項には、都市廃棄物、医療廃棄物の他、有機溶剤廃棄物、金属浸せき液、作動液、ブレーキ液及び不凍液の廃棄物、及び化学工業(類似の工業を含む。)において生ずる廃棄物が分類されることになっています。また、石油を含む廃油は第2710.91号及び第2710.99号に分類され、スラグ、ドロス、灰及び残留物は第26.19項、第26.20項又は第26.21項に分類されます。

日本の化学品輸出入規制

 日本に化学品を輸出入する際には、税関への輸入申告の前に下記の法律に基づく輸出入手続きを終了しておく必要があります。
 関税法では、輸出入禁止品目が定められています。麻薬、火薬等は主管官庁の許可を得ることにより輸出入できますが、知的財産権を侵害する物品等は輸出入禁止となっています。

化審法の対象となる化学物質の輸入通関時の取扱い

 化審法の対象となる化学物質を輸入通関する際に必要となる資料又は文書をまとめると以下のようになります。

 官報告示の類別整理番号は、通称、既存化学物質番号として知られています。また、「官報告示の類別整理番号」及び「官報告示の通し番号及び類別整理番号」は「MITI」番号又は「METI」番号とも呼ばれます。
 これらの番号は、独立行政法人製品評価技術基盤機構のJ-CHEK及びNITE-CHRIPで検索することが出来ます。

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