第29.36項から第29.41項に分類されるビタミン、ホルモン、グリコシド、アルカロイド、糖類、抗生物質等の化合物は、官能基によりHSコードが決定されず、化合物の性質・用途によりHSコードが決定されます。また、天然のものと合成のものでは「化学的に単一な化合物」としての取扱いが異なるものもあります。
 また、有機色素は化学的に単一の化合物であっても第32類に分類されます。
 ここでは、官能基によりHSコードを決定することが出来ず、有機化合物の性質・用途によってHSコードを決定する有機化合物のHSコードについて解説していきます。
 官能基によりHSコードを決定する天然有機化合物については、こちらをご参照ください。

目次

第29類に分類されない化学的に単一の有機化合物

 第29類注2に第29類から除外される物品が規定されています。
 エタノール(22.07、22.08)、メタン、プロパン(27.11)及び尿素(31.02、31.05)は、化合物を特定して除外しています。
 一方、次の物品では化合物の性質・用途により第29類から除外しています。

  • 植物性又は動物性の着色料(第32.03項)
  • 有機合成着色料(第32.04項)
  • 蛍光増白剤又はルミノホアとして使用する種類の合成した有機物(第32.04項)
  • 酵素(第35.07項)

有機着色料

 化学的に単一の化合物であっても、有機着色料は第32.03項及び第32.04項に分類されます。第32.03項には植物又は動物から得られた着色料が、第32.04項には化学合成によって得られた着色料が分類されます。例えば、同じβ-カロチンであっても、植物から得られたものは第32.03項に、合成によって得られたものは第32.04項に分類されます。
 第32.03項及び第32.04項に分類される有機着色料にはクルロフィル、リトマス、エニン、インディゴ等、多数の色素、染料ががあります。

ビタミン及びプロビタミン(第29.36項)

 この項には、プロビタミン及びビタミン(天然のもの又はこれと同一の構造を有する合成のもの)が分類されます。さらに、これらの誘導体で主としてビタミンとして使用する化学的に単一の化合物及び次のような物品も分類されます。

  • 天然のビタミンの濃縮物(例えば、ビタミン A の濃縮物又はビタミン D の濃縮物):これらは、ビタミンを濃縮した状態のもの
  • ビタミン、プロビタミン又は濃縮物相互の混合物:例えば、各種割合のビタミン A 及びビタミン D の濃縮物に更にビタミン A 又はビタミン D を追加したもの
  • 上記に掲げる物品を種々の溶媒(例えば、オレイン酸エチル、プロパン-1,2ジオール、エタンジオール、植物油)で希釈したもの
  • 保存又は輸送の目的で次の安定化処理を施したもの
  • 酸化防止剤を添加したもの
  • 固結防止剤を添加したもの(例えば、炭水化物)
  • 適当な物質で被覆されたもの(例えば、ゼラチン、ワックス又は油脂)
  • 適当な物質に吸収させたもの(例えば、ケイ酸)

 ただし、保存又は輸送のために必要とされる以上の添加又は加工を施していたり、他の物質の添加若しくは加工により、特定の用途に適合するようにしていたり場合には、他の項に分類されます。(21.06、23.09、33.03、33.04等)

第29.36項に属するビタミン及びプロビタミン

本項に分類されるビタミンには次のようなものがあります。関税率表解説には、本項に含まれるこれらのビタミンの誘導体も例示されているので、参考にしていただければと思います。

  • ビタミン A
  • ビタミン B1:チアミン(INN)、アニューリン
  • :リボフラビン(INN)、ラクトフラビン
  • ビタミン B6:D-パントテン酸及び DL-パントテン酸(N-(α,γ-ジヒドロキシ-β,β-ジメチルブチリル-β-アラニン)
  • ビタミン B6
  • ビタミン B9:葉酸(INN)又はプテロイルグルタミン酸
  • ビタミン B12:シアノコバラミン(cyanocobalamin(INN)その他のコバラミン)ヒドロコソコバラミン(hydroxocobalamin(INN)、メチルコバラミン、ニトリトコバラミン、スルフィトコバラミン等
  • ビタミン C:L-アスコルビン酸又はアスコルビン酸(INN)
  • ビタミン D
  • ビタミン E
  • ビタミン H 又はビオチン
  • ビタミン K
  • ビタミン PP(ニコチン酸及びニコチンアミド又はビタミン B3としても知られている。
  • プロビタミンD:紫外線未照射のエルゴステロール又はプロビタミン D2等

第29.36項に分類されない化合物

ビタミンとしての作用が無い物品

 次の化合物はビタミンと称されることがありますが、ビタミンとしての作用はなく、本項には分類されません。

  • メソイノシトール、ミオイノシトール、イソ-イノシトール又はメソイノシット(29.06)
  • ビタミン H1:パラ-アミノ安息香酸(29.22)
  • コリン又はビリニューリン(29.23)
  • ビタミン B4:アデニン又は6-アミノプリン(29.33)
  • ビタミン C2又はビタミン P:シトリン、ヘスペリジン、ルトシド(ルチン)、エスキュリン(29.38)
  • ビタミン F:リノール酸(アルファ体及びベータ体)、リノレン酸、アラキドン酸(38.23)

ビタミンの合成代用物

  • ビタミン K3:メナジオン、メナフトン、メチルナフトン又は2-メチル-1,4-ナフトキノン:2-メチル-1,4-ナフトキノンビサルファイト誘導体のナトリウム塩(29.14):メナジオール又は1,4-ジヒドロキシ-2-メチルナフタレン(29.07)
  • ビタミン K6:1,4-ジアミノ-2-メチルナフタレン(29.21)
  • ビタミン K5:塩酸-4-アミノ-2-メチル-1-ナフトール(29.22)
  • システイン:ビタミン B 代用物(29.30)
  • フチオコール:2-ヒドロキシ-3-メチル-1,4-ナフトキノンで、ビタミン K代用物である(29.41)。

その他の物品

  • コレステロール、シトステロール、スティグマステロール及びビタミン D2の製造中に得られるステロール(タキステロール、ルミステロール、トキステロール、スプラステロール)(29.06)
  • 30.03 項又は 30.04 項に該当する医薬品
  • キサントフィル、天然のカロチノイド(32.03)
  • プロビタミン A(アルファカロチン、ベータカロチン及びガンマカロチン並びにクリプトキサンチン):用途が着色料であるため(32.03 又は 32.04)

ホルモン、プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエン(第29.37項)

本項には、次の物品が含まれます。

  • 天然のホルモン
  • プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエンで天然のもの
    これらは、身体より分泌され、局所ホルモンのように作用する物質である。
  • ホルモン、プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエンで合成によって得られたもの:天然の物質と同一の化学構造を有するもの
  • ホルモン、プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエンの誘導体で天然のもの又は合成によって得られたもの
  • ホルモン、プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエンの構造類似物
  • ホルモンの天然の混合物若しくはその誘導体又はホルモン作用を持つと認められるステロイドの天然の混合物(例えば、コルチコステロイドホルモンの天然の混合物又は結合エストロゲンの天然の混合物)。
    ただし、人為的な混合物又は調製品はこの項に含まれません。(通常、30.03 又は 30.04)

 関税率表解説には、本項に分類されるホルモンの一覧表が掲載されていますので参考にしていただければと思います。。

第29.37項に分類されない物品

 第29類注8には「ホルモン」及び「主としてホルモンとして使用するもの」の定義が定められていますので、この定義に合致しない物質は第29.37項から除外されることとなります。

第 29.37 項において次の用語の意義は、それぞれ次に定めるところによる。

  1. 「ホルモン」には、ホルモン放出因子又はホルモン刺激因子、ホルモン阻害剤及びホルモン拮抗剤(抗ホルモン)を含む。
  2. 「主としてホルモンとして使用するもの」には、主としてそのホルモンとしての効果から使用されるホルモン誘導体及び構造類似物だけでなく、この項の物品を合成する際に主として中間体として使用されるホルモン誘導体及び構造類似物を含む。

 従って、次の物品は第29.37項には分類されません。

  • ホルモンに類似した構造を有するが、ホルモン作用を有しない物品
  • ホルモン様作用を有するが、ホルモン類似構造を有しない物品
  • ホルモン様作用を有する天然の物質であるが、人又は動物の身体で分泌されるものでないもの
  • ホルモンとみなされる場合もあるが、真のホルモン活性を有しない物品
  • 植物生長調整剤(天然のもの及び合成のもの。例えば、植物ホルモン)
  • 30.02 項の免疫産品
  • 30.03 項又は 30.04 項の医薬品

グリコシド(配糖体:第29.38項)

Salicin, one of glycoside

 グリコシド(glycoside)は配糖体とも呼ばれ、糖がグリコシド結合により様々な原子団と結合した化合物です。
 グリコシドは糖(グリコン)と糖以外の部分(アグリコン)に分解されます。
 例えば、サリシンのグリコンはD-グルコースで、アグリコンであるサリチルアルコールの酸素原子と結合することにより、グリコシドを形成しています。
 グリコシドはグリコンと結合するアグリゴンの原子によって、O-グリコシド(アグリゴンの酸素原子を通じグリコンと結合している。)、N-グリコシド(同窒素原子)、S-グリコシド(同硫黄原子)、C-グリコシド(同炭素原子)があります。
 本項には、グリコシドの天然混合物及びその誘導体の天然混合物が含まれます。しかしながら、グリコシド及びグリコシド誘導体の人為的な混合物は含まれません。

O-グリコシド 

 自然に最も多く存在するのは、O-グリコシドです。
 O-グリコシドには次のような物質があります。

  • ルチン:ソバ科植物
  • ジギタリス配糖体(ジゴキシン、ジギトニン等):ジギタリス属の植物
  • グリチルリチン:甘草の根
  • ストロファンチン:きょうちくとう属の植物
  • サポニン
  • アロイン(バルバロイン):アロエ科の植物
  • アミグダリン:バラ科さくら属の植物
  • アルブチン:しゃくなげ科植物の葉

その他のグリコシド

  C-グリコシドには、アロエから抽出されるアロイン(Aloin)等があります。
  S-グリコシドには、シニグリン(黒からしの種子又は西洋わさびの根から得られる。)等があります。

第29.38項に分類されない化合物

 次の化合物は本項には含まれません。

  • 糖のアノマー炭素原子と結合していない化合物(例えば、ハマメリタンニン)
    糖が環状構造をとるときに、鎖状構造の時は不斉炭素ではなかった炭素原子が新たに不斉炭素となるものが現れます。この炭素のことをアノマー炭素といい、アノマー炭素以外の炭素と結合した化合物は本項には分類されません。
  • ヌクレオシド及びヌクレオチド(29.34)
  • アルカロイド(例えば、トマチン)(29.39)
  • 非天然グリコシド
  • 抗生物質(例えばトヨカマイシン)(29.41)

アルカロイド(第29.39項)

 アルカロイドは塩基性窒素を含む天然由来の化合物の総称です。
 アルカロイドには、コーヒーやお茶に含有されているカフェイン、チョコレートに含有されているテオブロミン、タバコに含有されているニコチン等があります。多くのアルカロイドは生理活性を有しており、感冒薬に配合されているエフェドリン(麻黄)や抗マラリア剤として使用されるキニーネ(ECICS Consultation)もアルカロイドです。また、麻薬として規制されているモルヒネ(けし)、コカイン(コカ)等の麻薬もアルカロイドです。
 本項のアルカロイドには、植物由来のものばかりではなく、菌類アルカロイド、動物アルカロイド、昆虫アルカロイド、海棲アルカロイド及び細菌アルカロイドも含まれます。

HSコード決定の際の注意点


 HSコードを決定する上で難しいのは、問題となる化合物が天然と同一構造を有する化合物及びその誘導体かどうか、文献をみてもよくわからない場合です。窒素官能化合物に分類されるのか、それとも、アルカロイドに分類されるか化学構造式を見ただけではよくわからないことがあります。
 例えば、ピロリジン(pyrrolidine)は、タバコやニンジンの葉に含まれるアルカロイドですが、非常に簡単な化学構造を有しています。官能基による分類では、ヘテロ原子として窒素のみを有する複素環式化合物として第2933.99号となりますが、アルカロイドですので、第29類注3の規定により数字上の配列で最後となる第2939.99号に分類されることとなります。(EUの化学品HSデータベース「ECICS Consultation」による検索結果。)

第29.39項に分類されるアルカロイド誘導体

 また、天然に存在しない化合物でも、アルカロイドの誘導体は本項に分類されます。
 下記の化合物はよく似た化学構造を有しています。エフェドリンは麻黄アルカロイドですので第2931.41号に分類されます。メタンフェタミンは天然には存在しない合成有機化合物ですが、エフェドリンの誘導体として第2931.45号に分類されます。一方、アンフェタミンは天然には存在しない合成有機化合物であり、かつ、アルカロイドの誘導体ではないのでアミン官能化合物として第2921.46号に分類されます。
 関税率表解説には、「この項には、アルカロイドの水素添加誘導体、脱水素誘導体、酸素添加誘導体及び脱酸素誘導体を含み、更に、一般に、その構造が天然アルカロイドから得られた構造と同一であるアルカロイド誘導体を含む。」とされています。

 

エフェドリンは持続的気管支拡張作用があるので、感冒薬に配合されている。
メタンフェタミン及びアンフェタミンは覚せい剤として覚せい剤取締法の対象となっている。

アルカロイド混合物の取扱い

 本項には、アヘン(13.02)から抽出したアヘンアルカロイドの混合物やベラトリン(メキシコ原産のユリ科植物のVeratrum salbadillaの種子より抽出されたアルカロイドの混合物で,ベラトリジン,セバジンを主成分とするもの)のように、アルカロイドの天然の混合物が含まれます。
 一方、アルカロイドを人為的に混合したものは含まれません。

糖類及び糖エーテル、糖アセタール、糖エステル(第29.40項)

 本項に分類される糖には次のような化合物があります。

  • 単糖類
    • ガラクトース、ソルボース(C6H12O6
    • キシロース、リボース、アラビノース(C5H10O5
    • フコース、ラムノース(C6H12O5
    • ジギトキソース(C6H12O4
  • 二糖類
    • トレハロース(C12H22O11
  • 三糖類
    • ラフィノース(C18H32O16

 本項には、化学的に純粋な糖類のみが分類されます。不純物として他の糖類が含有されている物品は、第17.02項に分類されます。

第29.40項に分類されない糖類等

 本項には、次の糖類及び化合物は分類されません。

  • ショ糖(17.01)
  • ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖(17.02)
  • アルドール(29.12)及びアセトイン(3-ヒドロキシ-2-ブタノン)(29.14)

糖エーテル、糖アセタール及び糖エステル並びにこれらの塩

 本項には、糖エーテル、糖アセタール及び糖エステル並びにこれらの塩も分類されます。本項に分類されるこれらの物品は、第29類注1(c)の規定により「化学的に単一であるかないかを問わない。」とされています。但し、人為的な混合物や糖ではない混合物の原料から製造した化合物は含まれません。例えば、第38.23項の脂肪酸から製造された糖エステルは本項には含まれません。
 また、糖エーテル、糖アセタール及び糖エステル以外の糖の誘導体は本項に分類されず、官能基により分類されます。例えば、糖アルコールであるソルビトールは多価アルコールとして第2905.44号に分類されます。

抗生物質(第29.41項)

 抗生物質は、生きている微生物によって分泌される物質で、他の微生物を死滅させ、あるいは、増殖を抑制する物質です。
 抗生物質には、ストレプトマイシン、クロルテトラサイクリンのように単一なもの及び関連物質の混合物の場合も本項に含まれます。また、化学構造が明確になっていない抗生物質も本項に含まれます。
 合成によって得られる天然と同一構造の抗生物質及び天然の合成物質と類似の化合物で、抗生物質として使用される化合物も本項に含まれます。
 抗生物質の人為的混合物(例えば、ペニシリンとストレプトマイシンの混合物)で、治療又は予防用に使用するものは本項に含まれません。(30.03又は30.04)

PEG化誘導体の取扱い

 ポリエレングリコール(PEG)の誘導体は、通常、ポリエチレングリコールと同じ第39.07項又は第38.24項に分類されます。
 しかし、次の項の化合物のPEG化誘導体は、PEG化していないものと同一の項に属することとなっているので注意が必要です。

  • 29.36-プロビタミン及びビタミン(コンセントレート及び相互の混合物を含む。)(溶媒に溶かしてあるかないかを問わない。)
  • 29.37-ホルモン
  • 29.38-グリコシド及びその誘導体
  • 29.39-植物アルカロイド及びその誘導体
  • 29.41-抗生物質

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