HSの第28類には無機化学品、第29類には有機化学品が分類されます。
 この2つの類で重要なのは、「化学的に単一」という概念です。
 ここでは、第28類の無機化合物について、HSの「化学的に単一」の意味について解説していきます。
 また、水溶液、水以外の溶媒に溶かした溶液の取扱い及び安定剤、アンチダスティング剤等の取扱いについても併せて解説します。
 第29類の有機化合物については、別ページで解説しています。そのページでは合わせて異性体混合物のHS分類の取扱いについても解説します。

目次

  1. 「化学的に単一」の概念について
  2. 「chemically defined compounds」と化学量論的化合物
  3. 「separate (単離する)」
  4. 不純物を含有するかしないかを問わない
  5. 水溶液及び水以外の溶媒に溶かした溶液の取扱い
  6. 安定剤、アンチダスティング剤等の取扱い

「化学的に単一」の概念について

  第28類の冒頭には、次の類注が規定されています。

28類注
1 この類には、文脈により別に解釈される場合を除くほか、次の物品のみを含む。
(a)化学的に単一の元素及び化合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)

 ここでいう、「化学的に単一」という言葉は、大学で化学を勉強した人にとってもなじみのないものと思います。
 そこで、この第28類注1(a)の規定の英文を見てみましょう。

Separate chemical elements and separate chemically defined compounds, whether or not containing impurities.

 日本語では、「化学的に単一の」と一言で表されていますが、英語でみると少し違うようです。
 冒頭の「separate」には、「単離する」、「分離する」という意味があります。この言葉の意味については、後程解説したいと思います。
 では、「chemical elements」及び「chemically defined compounds」という言葉はどうでしょう。通常英語では、元素は「chemical elements」、化合物は「chemical compounds」といいます。
 このことから、日本語の「化学的に単一の」とい言葉には、「separate compouds」と「chemically defined compounds」という2つの異なった概念が含まれていることが分かります。

「chemically defined compounds」と化学量論的化合物

 そこでは、まず、「chemically defined」という言葉の意味から見ていきましょう。 28類の関税率表解説には「chemically defined compounds」に相当する部分は、下記のように記されています。

 化学的に単一の化合物は、例えば共有結合又はイオン結合した一つの分子種から成る物質で、組成は一定の元素比率で定義され、特定の構造図で表される(結晶格子は、単位格子の繰返しで表される。)。化学的に単一の化合物の元素は、個々の原子の原子価及び結合子によって決定される特定の比率で結合している。それぞれの元素の割合は、それぞれの化合物について一定かつ固有の比率であり、この比率は、化学量論的(stoichiometric)比率といわれる。
 結晶格子中のgap 又はinsertion のために、化学量論的比率の僅かな偏りが起こりうる。これらの化合物は、準化学量論的化合物(quasi-stoichiometric compound)といわれ、偏りが意図的に起こされない限り化学的に単一なものとして扱われる。

 難しいですね。何を言っているかわからない?
 では、解説をする前に、まず、化合物とは何かということをみていきましょう。
 ブリタニカ国際大百科事典によれば、化合物とは、「化学結合力によって結合した2種以上の元素の原子から成る純物質」とされています。
 例えば、水は酸素原子1個と水素原子2個が化学結合により結びついた化合物です。


赤が酸素原子、
白が水素原子

 二酸化ケイ素には様々な結晶系がありますが、いずれもケイ素原子を中心とする正四面体構造が酸素原子を介して無数に連なる構造をしています。

赤が酸素原子、
灰色がケイ素原子

 ここで、高校の時に、原子はプラスの電気を帯びた陽子とマイナスの電気を帯びた電子からなっているということを学習したことを思い出してください。
 水分子の場合は、水素原子の電子と酸素原子の電子をお互いに共有することにより、水分子を形作っています。また、二酸化ケイ素の場合も、ケイ素原子と酸素原子の電子をお互いに共有して結晶を形作っています。これら、水分子や二酸化ケイ素のように原子の電子を共有することにより形成された結合を「共有結合」と呼びます。
 ただし、水と二酸化ケイ素は共有結合によりできた化合物ですか、大きな違いがあります。
 水はH2Oという分子式であらわされるように、水素原子2個と酸素原子1個からなる分子で出来ています。
 これに対し、二酸化ケイ素は、ケイ素原子と酸素原子が1:2の割合で結びついた、いわば巨大な分子で出来ています。分子式を書けば、SinO2nということになると思いますが、nは非常に大きな数(注)になりますし、個々の物質について測定もできません。そこで、その構成する原子の比を表して、SiO2と書き、化合物を構成する原子の組成を表しているので、組成式と呼びます。

(注)もし、60グラムの巨大な水晶(石英)の単結晶があるとするとnの数は 6×1023 (アボガドロ定数)になります。

 一方、臭化ナトリウムは、大きな臭素原子の格子の隙間にと小さなナトリウムがすっぽり収まったような構造をしています。(教科書ではよく塩化ナトリウムの結晶構造が出てきますが、塩化ナトリウムは28類には分類されない(第25.01項)ので、臭化ナトリウムを取り上げました。結晶構造は同じです。)



青色がナトリウム原子、
えんじ色が臭素原子

 ナトリウムのようなアルカリ金属原子、カルシウムのようなアルカリ土類金属は、容易に電子を放出してプラスの電荷を帯びやすい性質を持っています。一方、塩素、臭素のようなハロゲン原子は容易に電子を吸収してマイナスの電荷を帯びやすい性質を持っています。従って、臭化ナトリウムでは、お互いの電子を共有して化合物を形成するのではなく、プラスの電荷を持つナトリウム原子とマイナスの電荷を持つ臭素原子が電気的に引き合い、化合物を作ることになります。この電気的な結合を「イオン結合」と言います。
 イオン結合からなる化合物も通常は二酸化ケイ素と同様に巨大な分子を形作ることとなりますので、臭化ナトリウムはNaBrという組成式で表されることとなります。

 ここで、水分子(H2O)、二酸化炭素(CO2)のようにAmBnといった分子式で表される化合物は、m及びnは必ず整数となるので、必ず化学的に定義された化合物(chemically defined compouds)となります。
 一方、二酸化ケイ素や臭化ナトリウムのような組成式で表される巨大分子からなる化合物も通常はm及びnは整数となります。この場合のmとnの比率のことを化学量論的(stoichiometric)比率といいます。(以上のことは、AlBmCnといった、3以上の種類の原子からなる化合物にも当てはまります。)  

 ところが、共有結合やイオン結合で出来た巨大分子の場合は、しばしば、結晶の格子の中の一部の原子が欠落したり、性質の似た他の原子に置き換わったりすることがあります。むしろ、格子が完璧に形成されていることは極めて稀ということができると思います。
 このため、化合物の組成式AmBn、AlBmCnのl、m、n等は整数からはずれた数値となることがあります。このとき、これらの化合物は、準化学量論的化合物(quasi-stoichiometric compound)といわれ、偏りが意図的に起こされない限り化学的に単一なもの(「chemically defined compounds」)として扱われることとなります。

「separate (単離する)」

 次に、28類注1に言う、「separate」について考えてみましょう。
 「separate」には、「単離する」、「分離する」という意味があります。このため、「Separate chemical elements 」及び「separate chemically defined compounds」とは混合物から、分離した元素又は化合物と考えられます。このことから、「separate」は純粋な物質である、精製した物質である、添加物を含まない元素又は化合物という意味で使用されていると考えられます。
  ここで、注意が必要なのは、28.30項、28.35項、28.42項、28.43項、28.45項、28.49項等で、日本語で「化学的に単一であるかどうかを問わない。」とされている箇所の英語をみると、「whether or not chemically defined」となっていることです。「separate」ということは、これらの項でも有効です。

不純物を含有するかしないかを問わない

 次に、第28類注1(a)の最後には、「不純物を含有するかしないかを問わない。」と規定されています。これはどのような意味でしょうか。関税率表解説には、次のように書かれています。

 『不純物』とは、化学的に単一の化合物中に存在し、専ら製造工程(精製工程を含む。)に直接起因する物質をいう。不純物は、製造工程中の種々の要因から生じ、主として次のようなものである。
(a)未反応の出発原料
(b)出発原料中に存在した不純物
(c)製造工程(精製工程を含む。)で使用した試薬
(d)副産物
 ただし、このような物質がすべて、注1(a)で規定している「不純物」としてみなされるとは限らないことに注意しなければならない。このような物質が、特定の用途に適するように当該物品中に意図的に残してある場合は、それらは、不純物とは認められない。

 ここから、28類注1(a)にいう「不純物」は、通常の製造・精製工程中で残留してしまう物質を指していると考えられます。
 また、「どの程度の化合物の純度があれば28類に分類されるのか?」という点に対しても、「化合物による」、という答えになると思います。
 一般的には、粗製の元素、化合物(「separate」されていない。)は28類から除外され、精製(「separate」)された物質(不純物を含んでいても良い。)が28類に分類されるということになります。
 29類の有機化合物では、解説の中で29類の化合物として分類される基準が数値で示されている化合物がありますが、化合物によりその数値は異なります。28類の物質ではそのような数値基準が示された物質はありません。

水溶液及び水以外の溶媒に溶かした溶液の取扱い

HS品目表の第28類注1(b)~(c)には、水溶液及び水以外の溶媒に溶かした溶液の取扱いについて次のように規定されています。

(b)(a)の物品の水溶液
(c)(a)の物品を水以外の溶媒に溶かしたもの(当該溶媒に溶かすことが安全又は輸送のため通常行われ、かつ、必要な場合に限るものとし、特定の用途に適するようにしたものを除く。)

水溶液の取扱い(注1(b))

 第28類注1(b)では、化学的に単一の元素及び化合物の水溶液も28類に分類されることが規定されています。この規定により、塩酸(塩化水素ガスの水溶液:第28.06項)、アンモニア水(アンモニアの水溶液:第28.14項)、ソーダ液(水酸化ナトリウム水溶液:第28.15項)等も28類に分類されます。

水以外の溶媒の溶液は原則として第28類に分類されない(注1(c))

 第28類注1(c)では、化合物を水以外の溶媒に溶解した場合、当該溶媒に溶かすことが安全又は輸送のため通常行われ、かつ、必要な場合以外は第28類に分類されない旨、規定されています。関税率表解説には、第28類に分類されない貨物の例として、次のように書かれています。

 ベンゼンに溶解した塩化カルボニル(ホスゲン)、アンモニアのアルコール溶液及び水酸化アルミニウムのコロイド溶液は、この類には含まれず38.24 項に属する。一般に、コロイド状ディスパージョンは、より特殊な限定をしている項に属する場合を除き、38.24 項に属する。

 コロイドとは、デジタル大辞泉によると、「0.1~0.001マイクロメートル程度の極微細な粒子が、液体・気体・固体などの媒体中に分散している状態。」とあります。コロイド溶液は化合物が完全に溶媒(水)に溶解しておらず、ある程度の大きさの粒子として溶液中に分散している状態(ディスパージョン)にあり、このように化合物が水に溶解していない状態の貨物は、第28類に分類されないことをここでは明確にしています。

水以外の溶媒に溶かしてあっても第28類に含まれる物品

 ここで注意が必要なのは、類注1冒頭の「文脈により別に解釈される場合を除くほか」という表現です。第28.02項の「コロイド硫黄」、第28.43項の「コロイド状貴金属」は、当該項に分類される旨規定されていますので、第28類に分類されることとなります。
 注1(c)では、水以外の溶媒に溶かした場合であっても、当該溶媒に溶かすことが保安又は輸送のため通常行われ、かつ、必要な場合(特定の用途に適するようにしたものを除く。)は、第28 類に含まれることを規定しています。

安定剤、アンチダスティング剤等の取扱い(注1(d)及び(e))

安定剤、アンチダスティング剤等の取扱いについては、注1(d)及び(e))に第28類には次の物品のみを含むことが規定されています。

(d)(a)、(b)又は(c)の物品で、保存又は輸送のために必要な安定剤(固結防止剤を含む。)を加えたもの
(e)(a)、(b)、(c)又は(d)の物品で、アンチダスティング剤又は識別を容易にするため若しくは安全のための着色料を加えたもの(特定の用途に適するようにしたものを除く。)

安定剤の取扱い

 注1(d)では、上記の物品で保存又は輸送のために必要な安定剤を加えたものは、この類に属することを規定しています。解説には次のように書かれています。

 ほう酸を添加して安定化した過酸化水素は、28.47 項に属する。ただし、過酸化水素製造用触媒と混合した過酸化ナトリウムは、28 類から除かれ38.24 項に属する。
 ある化学品にその本来の物理性状を保つために添加する物品もまた安定剤とみなされる。ただし、その添加量は目的を達成するための必要量を超えないものとし、添加により性質を変え又は特定の用途に適するようにするものであってはならない。上記の適用によりアンチケーキング剤(anti-caking agent)は、この類の物品に添加してあってもさしつかえない。なお、防水剤を添加した物品は、防水剤がその物品の本来の特性を変えるので、この類から除く。

アンチダスティング剤の取扱い

 また、注1(e)について、解説には次のように書かれています。

同様に、下記の物品は、特定用途に適するものでないかぎり、この類に含む。
(a)アンチダスティング剤(例えば、有毒な化学品にその取扱い中のダスト化を防ぐために加える鉱物油)を加えたもの
(b)危険な又は有毒な化学品(例えば、28.42 項の砒(ひ)酸鉛)にその識別を容易にするため若しくは保安のためにこれらの化学品の取扱い上の「目じるし」又は警告として着色料を加えたもの。ただし、他の理由により着色料を加えた物品(例えば、湿度指示薬として使用するためにコバルト塩を加えたシリカゲル(38.24))は、この類から除かれる。

 28類に分類される物質に他の物質が少量添加されていても、自動的に28類から除外されることにはなりません。その添加物が安定剤、アンチケーキング剤、アンチダスティング剤か等、しばしば分類で問題となりますので、その添加剤の目的を明確に把握しておくことが重要です。

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