HSHarmonized Commodity Description and Coding System:商品の名称及び分類についての統一システム)はその名の通り、世界各国の関税徴収のための関税率表、貿易統計作成のための輸出入統計品目表を統一するために作成されました。同一商品に対しては只1つのHSコードのみが対応すべきです。
 しかしながら、輸出国と輸入国で適用されるHSコードが異なる、輸入者と税関が主張するHSコードが異なる、ひどい場合は、税関の担当者ごとにHSコードが異なるという場合もあります。
 随分以前の話になりますが、日米貿易交渉等の場で、日本政府に対して関税分類が不統一だということが議題となりました。そこで、全国の税関の関税分類の統一を図るために東京税関に分類センターを設置したり、関税分類に関するデータベースを整備しています。その一部として、関税分類事前教示の回答結果のデータベースがあり、我々もそのデータを税関ホームページから検索することが出来ます。
 海外では関税分類に関して税関当局と輸入者の間で訴訟となる事例も少なくないようです。欧米の関税分類の訴訟事例に関しては、日本関税協会発行の月刊誌「貿易と関税」に長瀬 透氏が「関税分類に関する米国及びEUにおける最近の裁判事例」を連載していたので、ご関心のある方は参考にして頂ければと思います。一方、日本では、関税分類に関して関税不服審査会まで異議申し立てされることは少なく、更に訴訟となる案件は非常に稀です。これは、官民双方に訴訟を好まない国民性を反映しているのではないかと、私は考えています。
 さて、本来は世界各国で同一商品には同一のHS番号が対応しなくてはならないはずですが、HSコード(関税分類)の不一致が生じる理由は何でしょうか?
 以下、考察してみたいと思います。

目次

  1. HSコードの適用誤り
  2. 通則3を適用してHS番号を決定する貨物
  3. 通則1を適用してHS番号を決定する貨物
    1. 使用言語の違い
    2. 文化・習慣の違い
    3. リーガルテキストの曖昧さ
  4. 事実認定の不一致
    1. 分析値をめぐる不一致
    2. 関税中央分析所
  5. HSコード統一のために輸出者としてできること
  6. 雑談コーナー  [HS品目表の導入と税関分析の設置・改善]

HSコードの適用誤り

HS分類の解釈誤り

 「メーカー指定のHSコードに誤りがある理由」のページで説明しましたように、メーカーが指定するHSコードは必ずしも正確なものとは限りません。メーカーは生産する製品の仕様については詳しくても、HS分類の専門家ではないからです。
 税関がHSコードを誤って適用する場合もあります。税関職員も皆がHSに精通している訳ではありません。
 私は、HSコードの不一致が生ずる理由で一番多いのがHSコードが誤っている、即ち関税分類の誤りではないかと考えています。また、下記の事例のように、わざと誤ったHSコードで申告するという事例は皆無ではありません。特に途上国の場合は、輸入者が勝手に、或いは現地の税関職員の暗黙の了解を得て、関税率の低いHSコードで申告している場合もあるので注意が必要です。そういった事例の場合、例え現地の税関が長年そのHSコードを認めていたとしても、ある日突然、上級庁の監査が入ってこれまでの申告を否認するという事例も聞いておりますので注意が必要です。

物品に対する事実認定の誤り

 最近の私の失敗談ですが、ある繊維製品のHSコードの相談を受けました。サンプル品が提供されていたのですが、繊維の素材によって異なるHSコードに分類されるにもかかわらず、十分に素材の確認をせずにHSコードの回答を行ったところ、後程、実は私が考えていたものとは全く異なった素材で構成されており、回答したHSコードが誤りであるとの指摘を受けました。よく素材を確認してみると、まさに指摘のとおりで、私が回答したHSコードが誤っていました。
 このように、物品の素材、性質、製造工程等について誤った事実認定を行ったことにより関税分類を間違うというのは、しばしば生じる事例です。特に、製造者ではない、輸出者、輸入者、通関業者にありがちな間違いですので、不明な点は製造者に確認を行うなど、私を含めて注意したいものです。
 なお、事実認定の不一致に関わるHS分類の不統一については、後ほど詳しく述べたいと思います。

情報不足によるHSコードの誤り

 通関業者に輸出入申告を依頼する場合、HSコードを適切に付けるためには十分な情報を提供する必要があります。
 ある貨物で、輸出申告と輸入申告でHSコードが異なっていましたので、どちらが正しいのか生産者に問い合わせたところ、当該貨物は両者のHSコードの物品とは全く異なる貨物だということが判明したことがありました。通関業者は多くの場合、インボイスの品名のみで申告書を作成しますが、インボイスの品名を、あまりにも一般的な名称にしていたり、何種類かの商品に用いられているような名称にしていた場合名など、通関業者が勝手に商品を判断して誤ったHSコードで申告することがあるので注意が必要です。
 例えば、インボイスに「Distributors」と記載してあったとします。 「Distributors」 には様々な意味がありますが、Weblio英和辞典には、「エンジンのスパークプラグに点火順に電流を伝える配電器」という意味も出てきますし、「分配器」という意味もあります。分配器も、電気の分配器と液体、気体の分配器ではHSコードが異なります。このような場合、通関業者は輸出入者に商品内容を確認するべきなのでしょうが、勝手に判断したHSコードで申告するということがあります。 「Distributors」 の事例では、インボイスには 「Distributors for xxxx」等と、商品内容が明確になるようにしておけば、通関業者の誤分類の防止に役立つことになります。

低関税率のHSコードで申告する

 輸出入しようとする商品と類似の商品が低い関税率が適用されるHSコードに分類されているとすると、例え自社の商品にそのHSコードが適用されないと分かっていても、低い関税率が適用されるHSコードで申告する輸入者がいることは事実です。コンプライアンス上大きな問題がありますが、輸出する場合は、海外の輸入時のHSコードまでコントロールすることは困難と思われます。ただし、申告したHSコードが誤っていることが発覚した場合は、過去に遡って追徴課税されたり、ペナルティー(日本の場合は、加算税(悪質な場合は重加算税)及び延滞税)が発生したりする場合があるので注意が必要です。
 日本への輸入の場合は、NACCS申告で簡易審査(電子計算機による形式審査、「区分1」とも呼ばれる。)で長年輸入許可が下りていて、たまたま税関職員が書類を審査したり、現物を検査したりしてHSコードの誤りが発覚することもあります。また、クーリエ貨物(DHL、FEDEX等が取扱う国際宅配便)の場合は税関でHSコードの審査を行わないことも多く、また、通常貨物でも税関検査の際に、HSコードの審査が行われない場合があるので注意が必要です。意図的ではないHSコードの申告誤りでも低い関税率で申告していれば加算税が発生します。必要に応じ、通関業者に依頼して税関にHSコードを確認してもらいましょう。

規制をすり抜ける

 様々な輸出入規制がHSコードをキーにして行われています。輸出入規制があるHSコードで申告すると、通常税関で慎重な審査が行われますし、輸出入規制のもととなる法律の所管官庁(外為法の場合は経済産業省、生肉の場合は動物検疫所等)からの許可書等、様々な書類を提出する必要があるかもしれません。
 電子申告(日本ではNACCSによる申告)では、コンピューターで自動的に即時許可となる申告と、税関職員による審査となる申告に振り分けられます。この振り分けは種々の要素を考慮して設定されていますが、HS番号もその際の重要な要素の一つとなります。第93類(武器及び銃砲弾)で申告すれば、日本ではほぼ確実に税関の審査対象となるでしょう。
 このような場合、規制がないHS番号を使用する誘因が働きます。但し、明らかに間違ったHSコードで申告するのは、税関で重要な問題とされ、場合によっては大きなペナルティーも課される恐れがあるので注意が必要です。

税関の税番適用誤り

 国によっては、よく似た物品のHSコードが並んでいた場合、その中で高関税率の税番を適用する事例もあるようです。その中には、これから述べるようなHSコードの不一致が生じやすい品目ばかりではなく、税関職員の解釈誤りに基づくものもあるようです。
 日本でもそうですが、通関審査の担当職員は関税分類のスペシャリストばかりではありません。明らかに誤っているHSコードに分類するように税関から指示された場合は、一般に次のような対応方法があると思われます。

  • 論理的に説明する
  • 上級庁に相談する(日本の場合は、税関の関税分類のスペシャリストである関税鑑査官に相談する。)
  • 異議申し立てを行う、又は、訴訟を起こす

 途上国の税関職員と話をしていると、関税分類を巡る異議申し立てや訴訟が多いという話はよくできましたので、日本とは異なり、それほど珍しくないものと思われます。
 日本では逆に、長年低い関税率で通関されていたものが、職員が変わりそのHSコードが誤りであったことが発覚することがあります。その場合は、輸入者との間でトラブルになることがあります。

通則3を適用してHS番号を決定する貨物

 HS品目表の解釈に関する通則3はそもそも、2以上の項に属するとみられる物品の分類を決定するためのものです。特に通則3(b)を適用する場合は、どちらの材料により重要な特性があるかが問題となりますが、人や国により捉え方が異なる場合があります。
 また、通則3(b)を適用すべきか、通則3(c)を適用すべきかで判断が分かれることもあります。
 何れにしても、もし、輸出入しようとしている貨物が2以上のHSコードに分類される可能性があり、そのうちのどちらに重要な特性があるか判断に迷う場合は、HSコードを決定する権限のある当局(通常、輸入の場合は輸入地の税関)に照会しHSコードを確定しておくことが無難です。

通則1を適用してHS番号を決定する貨物

 通則1が適用できる場合は、一般にHSコード(関税分類)の不一致は生じにくいと思われます。しかし、国際分類例規に記載されている分類決定の際の通則の適用では、通則1を適用した分類が一番多くなっています。国際分類例規は、HS条約を所管しているWCOのHS委員会でその貨物の分類が討議され、HS品目表の統一的な適用の参考になるものとして定められているものです。
 それでは、何故、通則1の適用により関税分類の不一致が生じるのでしょうか。分類を担当する者の間ではよく、「the Scope of the Heading」ということがよく言われます。要は、項の範囲ということです。
 種々の要因から、国、人、立場により同じ言葉であっても、その解釈に微妙なずれが生じる場合があります。この言葉の解釈の微妙なずれがHSコード(関税分類)の不統一となって表れてくることがあります。
 例えば、「X」、「Y」、「Z」という言葉があったとします。その言葉の解釈、意味する範囲が全ての人に共通とは限りません。下の「X」の事例のように、A君とB君で解釈にずれがある場合、「Y」という言葉のようにA君の解釈の方が狭い場合、また、「Z」という言葉のようにA君の解釈の方が広い場合が考えられます。A君とB君の違いは、使用する言語、生活習慣、文化、職業、関税を安くしたいとか高くしたいとかの利害関係によって違ってくることが考えられます。

関税分類不一致の概念図

 以下、これらの観点から考察してみます。

使用言語の違い

英語とフランス語

 HS条約の正文は、英語(イギリス英語)とフランス語です。HS品目表の統一的な運用のために、英語とフランス語で齟齬が無いように慎重に表現が検討されます。私の財務省の先輩は、関税分類の決定に当たり、Explanatory Notes(関税率表解説)は英語版だけではなく、フランス語版も見るべきだと言っていました。(フランス語ができる人は少ないですが。)
 もう30年近く前のHS委員会のことです。通則3(b)のセットの事例として、ハンバーガーとポテトフライのセットをExplanatory Notesに追加することを検討していた時のことです。フランスの代表は「フランス語にはハンバーガーという言葉はない。」と強硬に主張しました。フランス語圏以外の代表は、「ハンバーガーとポテトチップスのセット」と記載すれば簡単で、明快だと思っていました。また、WCOの本部のあるベルギーのブラッセル(フランス語圏)にある「Quick」というハンバーガー屋も「Hamburger」と書いてあるぞ、という突っ込みもありました。しかし、フランスの代表は譲らず、結局、英語の表記もフランス語に合わせて「パンの中に牛肉が入ったサンドイッチ(チーズが入っているかいないかを問わない。)(16.02 )とポテトチップス(フレンチフライ)( 20.0 4 )を一緒に包装したセット」という表現になりました。
 このように、正文である英語とフランス語の表記は慎重に統一が図られています。

翻訳に関係する不一致

 日本語のHS品目表は、法律である関税定率表別表が基となっています。この6桁部分までは条約であるHS品目表を日本語に翻訳したものです、また、その公式の解釈であるExplanatory NotesとClassification Opinionsも日本語に翻訳して日本ではそれぞれ「関税率表解説」、「国際分類例規」として財務省関税局長通達となっています。

馬にはしま馬が含まれない:the word ”horses” does not include zebras

 これまで、日本の先人は、HSの前身であるCCCNの時代から英語のテキストと日本語のテキストが出来る限り一致するように努力してきました。この努力を一番よく表しているのが第1部の備考(注)だと私は考えています。

備考
1 第1類及び第2類において馬には、しま馬を含まない。
2 第1類から第16類までにおいて牛には、水牛を含み、豚には、いのししを含む。

第01.01項:馬、ろ馬、ら馬及びヒニー(生きているものに限る)
      Live horses, asses, mules and hinnies
第01.02項:牛(生きているものに限る)
      Live bovine animals
第01.03項:豚(生きているものに限る)
      Live swine

 しま馬は馬科の動物ですので、日本語でしま馬は馬に含まれる可能性があります。そのため、念のために馬にはしま馬を含まないことを法律で明記したのだと考えられます。Explanatory Notesでも、第01.01項にはしま馬が含まれない旨明記されていないので、英文の表現「Live horses, asses, mules and hinnies」にはしま馬が含まれないのは自明のことなのでしょう。
 一方、日本語では通常、牛には水牛は含まれませんし、豚にもいのししは含まれません。第01.02項及び第01.03項の英文テキストを単に「牛」、「豚」と訳したために、備考2が必要となったと考えられます。
 この備考のように、英語と日本語の意味の範囲を厳密に埋めるための注を品目表のあらゆるところに設けていくことは困難です。近年は、日本語に訳しにくい単語はそのままカタカナにして対応していることが多いようです。

【注】関税定率法別表の「備考」
 備考は、HS品目表にはない関税定率法別表に規定された日本独自の注で、この規定のようにHS品目表を日本語にした際の補足や、国内細分の用語の定義を定めています。

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文化・習慣の違い

 文化、習慣の違いにより、HS分類が異なるということは、これまでもしばしば見られたことです。特に、HSの前身である CCCNは、ヨーロッパ発祥の品目表でしたので、この点では日本の先人たちはCCCNやHS品目表を日本の文化、習慣に合うように努力してきました。
 特に文化・習慣の違いを反映するのは食物に関するものでしょう。先人は、こんにゃく、寒天、海藻等、世界中で日本人しか食べない食品や限られた国の人しか食べない食品について、食品として分類されるように努力してきました。
 一方で、ヨーロッパ諸国の食べ物についての知識がなく、特にCCCNを導入した当初は日本国内で誤った分類を行っていたこともあったようです。

ゴボウの根のHS分類

 ゴボウ(Burdock)の根を食するのは日本人だけの様です。一方で中国では牛蒡根(ごぼうこん)は、食欲増進、胆汁分泌促進、発汗利尿(りにょう)に効き目があるとされており、漢方薬として利用するそうです。もう20年以上も前のことになりますが、私が日本代表としてHS委員会に出席したときに、ゴボウの根の分類が議題となりました。
 私は日本代表としてゴボウの根は、野菜として第07.06項分類されると主張しましたが、一方、中国の代表は、中国ではゴボウは野菜として食用にせず、漢方薬として使用されるので、第12.11項に分類されるとして譲りませんでした。
 欧米の代表は、ゴボウの根の分類なんてどちらでも良いではないか、と思っていたかもしれません。ただ、欧米の代表は分類歴何十年というベテランぞろいです。ある国の代表から、ブラッセルの日本食料品に行くと生鮮のゴボウを野菜として売っている、また、漢方薬を販売している薬店に行くと、乾燥させたゴボウを売っているという指摘がありました。
 私は、干し大根のように乾燥させたゴボウの根を野菜として売っているのを見たことがありませんでした。中国の代表も自国での牛蒡根の流通形態と考えたのでしょう。コーヒーブレークの間に、ゴボウの根は、生鮮のものは野菜として第07.06項に、乾燥させたものは医療用の植物として第12.11項に分類することで無事決着したのでした。
 市場の流通形態と用途にそって分類が決定されるということです。

第07.06項:にんじん、かぶ、サラダ用のビート、サルシファイ、セルリアク、大根その他これらに類する食用の根(生鮮のもの及び冷蔵したものに限る。)

第12.11項:主として香料用、医療用、殺虫用、殺菌用その他これらに類する用途に供する植物及びその部分(種及び果実を含み、生鮮のもの及び冷蔵し、冷凍し又は乾燥したものに限るものとし、切り、砕き又は粉状にしたものであるかないかを問わない。)

リーガルテキストの曖昧さ

 HS品目表では、項のテキスト、部注、類注及び号注(これら条約で定められた規定を「リーガルテキスト」という。)により物品が分類される項目を決定します。しかし、これらの規定が常に明確であるとは限りません。そういった場合に、分類についての見解が分かれる場合があります。

「化学的に単一な有機化合物」及び「不純物」に関する不一致

 第29類注1

この類には、文脈により別に解釈される場合を除くほか、次の物品のみを含む。
(a)化学的に単一の有機化合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)

とあります。化学的に単一な化合物とは、一般に製造後に精製を行って純度をある一定以上にした物品であると考えられます。ただ、次に、「不純物を含有するかしないかを問わない。」とありますが、どの程度までの不純物が許容されるのか明確ではありません。一部の化合物には関税率表解説に数値基準が記載されていますが、その数値も化合物により異なります。精製の容易さ、高純度の物品を作成することの容易さは物質の種類によっても異なるので、一律の基準を作ることはできません。また、無数の化合物それぞれに数値基準を作ることも現実的ではありません。
 このようなことから、場合によっては、単一の有機化合物として第29類に分類するか、又は、粗製の化合物として他の類(例えば第38類)に分類するか、税関と輸出入者の間で見解が分かれることがあります。

事実認定の不一致

 物品が「××」であるか、「〇〇」であるかという事実認定で、税関と輸入者の間で見解が分かれる場合があります。特に、関税率が異なる場合で、税関が輸入者が高関税を免れるために虚偽の申告をしているのではないかと疑っている場合など、事実認定を巡って不一致が生ずる場合があります。
 この場合は、上記の「HSコードの適用誤り」と異なり、一方が関税分類の適用を誤って解釈しているわけではなく、また、リーガルテキストの解釈について意見が異なるということではありません。両者ともに関税分類の解釈は一致しているが、関税分類の前提となる物品の事実認定を巡って不一致が生じている事例です。
 この場合、科学的な試験による事実確認が重要です。場合によっては、科学的な試験方法について、税関と輸入者の間で見解が分かれる場合もあります。そのような場合は、第3者的な立場の専門家に意見を求めるとか、税関及び輸入者の専門家が意見を交換することが解決の糸口になると思います。

天然黒鉛か人造黒鉛か

 天然黒鉛は第25.04項に、人造黒鉛は第38.01項に分類されます。我が国の関税率は天然黒鉛が無税、人造黒鉛が2.5%(WTO税率)となります。
 通常、天然黒鉛と人造黒鉛を見分けることは難しくありません。化学分析を行いますと、人造黒鉛のエックス線回折チャートは鋭いピークを示し、ケイ素、アルミ等の元素も殆ど含まれていません。これに対し、天然黒鉛の人造黒鉛のエックス線回折チャートは幅広ですし、ケイ素、アルミ等の鉱物由来の元素が比較的沢山含まれています。
 しかし、近年は天然黒鉛の精製方法が進化し、人造黒鉛と間違えるほどの鋭いエックス線回折のピークを持ち、非常に不純物の少ないものがあるようです。
 このような場合でも、不純物の成分は人造黒鉛とは異なるはずですので、丁寧に税関に天然黒鉛の精製方法を説明していく必要があります。

分析値をめぐる不一致

 HS品目表には、分類を行うに当たっての数値基準が設けられている箇所があります。このような物品については、分類の解釈についての不一致の余地はありません。しかし、その数値基準と実際の分析値を巡って、税関と製造者、輸出入者の間で論争となることがあります。
 このようなことが生じる原因の一つは、数値基準ぎりぎりの物品を製造し、輸出入しようとすることです。そうしますと、サンプリングの方法や分析法、分析誤差によってばらつきが生じる可能性があります。また、輸入しようとする物品の分析は通常、出荷前に輸出国で行われると思いますが、税関は輸入申告時の性状により分類を決定します。揮発性の物質を含む場合や経時変化しやすい物品の場合は特に注意が必要です。
 HS品目表(関税率表)に何らかの数値基準がある場合は、サンプリングや分析の誤差、また、経時変化に伴う最終的な輸入時の性状も考慮して製品を製造すると税関とのトラブル防止に繋がります。

エビピラフを巡るトラブル ー 原料投入量と分析値の違い

 我が国では、第16類注2により、エビの含有量が全重量の20%を超えるピラフは甲殻類の調製品として第1605.29号に分類され、関税率は5.3%です。一方、エビの含有量が全重量の20%以下のピラフは米の調製品として第1904.90号に分類され、通常の輸入では、関税49円/kgのほか、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」に基づき農水省に輸入納付金(292円/kg)を納付する必要があります。このように大きな関税額等の差が発生しますので、エビの含有量が20%以上となるように原料を投入して輸入してきます。
 ここでよくあるトラブルが、輸入時のエビの含有量が20%に満たずに、高額の輸入納付金や関税の支払いが発生することです。これは、エビは加熱すると重量が減少し、コメは水分を吸って重くなることを十分に考慮せずに調理し、輸入してきたためと思われます。
 輸入申告時のHS番号はあくまでも輸入時の性状により決定されます。エビピラフの場合では、エビが過熱すると小さくなることも考慮し、輸入時に確実に製品中のエビの含有量が20%となるようにレシピを十分に検証してから輸入すべきであったと言えるでしょう。

HS品目表で指定する分析法及び税関分析法

 分析法については、HS品目表のリーガルテキスト(例:第27類号注4)や国際分類例規(第27類)でISO(注1)やASTM(注2)の分析法を指定している場合があります。また、特定の規格には言及していませんが、具体的な試験方法を規定しているしている場合(第34類注2「有機界面活性剤」の定義、第40類注4「合成ゴム」の定義等)があります。
 この他、関税率表解説Explanatory Notes)で、具体的な試験方法を指定している場合もあります。例えば、第34.04項「人造ロウ及び調製ロウ」のロウ試験、第48類(紙及び板紙並びに製紙用パルプ、紙又は板紙の製品)の各種試験方法などです。
 この他、HS品目表で数値基準(XXの含有量がZZ%以上、等)が設定されている場合は、科学的な分析試験法による数値の証明を税関から要求される場合があります。
 その際に、分析法が税関によって指定されている場合は、その分析法によって試験を行う必要があります。我が国では、関税中分析所のホームページに分析法が公開されていますので参考にすると良いでしょう。

関税中央分析所

 日本の税関には分析室があり、輸入品の基礎的な科学的な分析は各税関で行っています。但し、核磁気共鳴装置などの高度な分析機器が必要な場合や、各税関では困難な分析は関税中央分析所に分析を依頼しています。
 また、関税中央分関所では開発途上国の税関に対して税関分析の技術指導を行っているほか、国際協力に必要な分析を、税関、関税局およびWCO(世界税関機構)からの依頼に基づき実施しています。

HSコード統一のために輸出者としてできること

 物品が2以上のHSコードに分類される可能性がある場合などについては、国、税関、人によってもHSコードの適用が異なる場合があり、このような場合は、輸出者としてHSコード統一のために出来ることは限られるかもしれません。
 しかし、大多数の物品についてはHSコードの統一的な適用はそれほど難しいものではないと思われます。これまでに述べてきた事項を踏まえ、輸出者としてHSコード統一のために出来ることを考えてみました。今後、世界各国向けの輸出についてEPA(FTA)を利用していくことを考えると、輸出者として、仕向け国に関わらずHSコードの統一を図っていくメリットは大きいと考えます。

関税分類を行うために必要な情報を通関業者・輸入者に提供する

 HSコードの不一致が生じる大きな要因はHSコードの決定に必要な情報の不足です。
 HSコードの決定に必要な情報を輸入者及び通関業者に提供することにより、誤分類の防止や通関手続きの迅速化が期待できます。

HSコードが明確になるように品名を記載する

 インボイスにHSコードが特定できるような品名を記載すると、誤分類の防止に役立ちます。
 例えば、第85.32項のコンデンサーは、部分品を除き8の号がありますが、ただ単に「コンデンサー」と記載しただけでは、どの号に分類すればよいかよく分かりません。そこで、例えば「タンタルコンデンサー」と記載すると、第8532.21号に分類されることが明確になります。

インボイスにHSコード6桁を記載する

 HS条約を所管しているWCO(世界税関機構)では、インボイスにHSコードを記載することを勧告しています。国によってHSコードの不一致があることが多い、また、輸入者によっては自らに有利なHSコードを選択したいなどの様々な理由からインボイスにHSコードを記載することはあまり普及していません。
 インボイスにHSコード6桁を記載すると、まず、通関業者のミスにより意図しない誤ったHSコードで通関されるリスクを軽減することが出来ます。私が商社に勤務していた時に、通関業者が勝手に判断して荷主が指定していたHSコードを変更したために、修更正が発生したことがありました。HSコードをインボイスに記載していれば、通関業者もそれ程簡単にHSコードを変更することは出来なかったはずです。
 また、インボイスにHSコードが記載してあれば、税関への説明責任も発生するので、輸入者も自らの都合だけで、HSコードを変更することは難しくなると思われます。
 製品に関する情報を一番有しているのは生産者です。特にEPAを利用する際には、原産地証明の簡素化を図る観点からも、輸出先のHSコードを統一していくことは重要となります。インボイスにHSコードを記載すれば、その一助となると思われますが、いかがでしょうか。
もし。HSコードに自信がなければ是非、当コンサルティングにご相談ください

雑談コーナー

HS品目表の導入と税関分析室の設置・改善

 HS品目表では、沢山の数値基準があります。HS以前のCCCNでも数値基準が設けられていましたが、CCCNは4桁の1,000余りの項から構成される品目表であったのに対し、HSは5千余りの6桁の号からなるより精緻な品目表となりました。
 HS条約では、開発途上国では6桁の分類を行うことは困難ではないかという理由から、4桁の項までの品目表を採用することが出来るという特例が設けられていましたが、大方の予想に反し、この特例を採用することを申し出た国はありませんでした。
 数多くの数値基準を含む5,000余りのカテゴリーからなる品目表を適正に運用していくためには、科学的な検証が不可欠です。ところが、HS条約が発効した当時、開発途上国で近代的な分析機器を備えた税関分析室を保有していた国は殆どなかったのではないかと思います。中国には税関分析室は有りませんでしたし、タイには税関分析室はあったものの、赤外線吸光分析計等の基礎的な機器分析装置は無い状態でした。
 WCO(世界税関機構)では、このような状況を改善するために、開発途上国の加盟国向けに税関分析室の設置と改善に関するプロジェクトをスタートしました。私はこのプロジェクトを担当するために関税中央分析所からWCO(当時はまだ、CCC(関税協力理事会)と呼ばれていた。)に派遣されました。

1990年当時のタイの税関分析室

 私がWCOの税関分析室の設置と改善に関するミッションで最初にタイの税関を訪問した時、タイの分析室は1階が事務所、2階が分析室で、多くの通関業者が輸入品のサンプルを持って押しかけていました。税関職員は受け取ったサンプルを持って2階の分析室にあがり、ちょこちょこと試験管で定性分析を行って輸入申告の際のHS番号が適正かどうかの確認をしていました。
 殆ど全ての化学品の輸入申告はタイの税関分析所で審査が行われていましたが、簡単な定性分析だけでは正しいHS番号か否かを確認できるとは思えませんでした。また、このような状況でしたので、通関手続きに長時間を要するとして、日本の輸出者からは悪い評判が聞こえていました。また、タイ経済の発展に伴い、殆ど全ての貨物を検査するという仕組みは早晩成り立たなくなることは明らかでした。
 私達は、税関分析室で全ての輸入貨物に対して分析を行うのではなく、抽出検査にして、検査を行う貨物については機器分析行い、正確なHS番号を確定できるようにすべきとアドバイスを行いました。
 数年後、関税中央分析所の分析官としてタイの分析室に技術指導に赴いた際には、分析機器が完備されており、大きく進歩していました。 
 正しいHS番号の決定には、科学的な分析による貨物に対する事実認定が非常に重要です。

HS分類インフラの改善に関するパキスタンへのミッション

WCOの税関分類インフラ及び税関分析室の改善のミッションにて(パキスタン・ラホール)
右から3人目が筆者。左から3人目がWCOのオランダ人オフィサー。他はラホール税関の職員。
パキスタンでは、関税分類に関する訴訟はかなりの件数があるとのこと。当時は、パキスタンの税関分析室には基礎的な機器分析の装置はなく、第29類(有機化学品)の分類が最も難しいという話てあった。




貴社の原産地証明書に間違いはありませんか?

原産地証明の根拠資料として必要な原材料表・対比表中のHSコードには多くの誤りが見受けられます。
間違ったHSコードに基づき日本商工会議所から特定原産地証明の発給を受けている場合、輸入国税関の事後確認(検認)によりEPA(FTA)税率の適用が取り消され、貴社の信用が失墜することは勿論、輸出先から損害賠償を提起される恐れがあります。
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