HSの第29類には有機化学品が分類されますが、原則として「化学的に単一」の化合物のみが分類されます。
 ここでは、第29類の有機化合物について、HSの「化学的に単一」の意味について解説していきます。また、有機化合物ではHS分類上の異性体混合物の取扱いも重要ですので、合わせて解説します。
 第28類の無機化合物についてもについても「化学的に単一」という概念は重要ですが、別ページで解説しています。

目次

  1. 第29類注1(a) 化学的に単一とは
    1. 「separate」について
    2. 「chemically defined」について
    3. 第29類に分離される化学的に単一でない物品
  2. 29類注1(b) 異性体混合物の分類
  3. 第29類注1(c) 天然由来有機化合物の分類
  4. 「不純物を含有するかしないかを問わない」の基準例
  5. 保存、輸送のための処理

第29類注1(a) 化学的に単一とは

 有機化学品が分類される第29類においても、第29類には「化学的に単一」の有機化合物のみが分類されるとして次の類注が規定されています。

29類注
1 この類には、文脈により別に解釈される場合を除くほか、次の物品のみを含む。
(a)化学的に単一の有機化合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)

参考までに、この類注(a)の規定の英文を見てみましょう。

Separate chemically defined organic compounds, whether or not containing impurities

とあります。第28類の化合物と同様に、「separate」と「chemically defined」という2種類の概念から成り立っていることが分かります。

「separate」について

 さて、「separate」の概念については、第28類と第29類では大きな違いなく、精製した、添加物を含まない化合物という意味でつかわれています。第29類注1(a)にも、第28類の場合と同様に、最後に、「(不純物を含有するかしないかを問わない。)」とされています。ここでいう、不純物とは製造過程、精製過程において生ずる物質で、例えば、次のようなものです。
(a) 出発原料のうち、未反応のもの
(b) 出発原料中に存在した不純物
(c) 製造(精製を含む。)工程で使用された試薬
(d) 副産物

 ただし、第29.40項の糖類は、「化学的に純粋なものに限る。」と項の規定で限定しているので、不純物を含有することは認められていないので注意が必要です。
 また、特定の用途に適するように意図的にある種の物質を残したような場合は、第29類には分類されないことにも注意が必要です。

「chemically defined」について

 次に、「chemically defined」という概念ですが、第28類で問題となった、「化学量論的(stoichiometric)」かどうかということは、第29類では殆ど問題になりません。というのも、基本的に有機化合物は炭素原子と他の原子が共有結合で結びついた骨格を持つ化合物であり、原則として29類に分類される化合物は、化学量論的(CnHmXl(n、m、lは整数)等の化学式を持つ。)です。
 第28類の無機化合物と大きく異なるのは、有機化合物では組成式という概念は無いことです。例えばセルロースの場合は、分子式は(C6H10O5)nのように表されます。炭素、水素、酸素の比率は整数となりますが、nの値はある範囲に分布しています。このような場合は、「化学的に単一」とはいえません。
 このセルロースのようにある範囲に分子量が分布しているような有機高分子の場合、原則として第29類には分類されず、第38類(その他の化学品)や第39類(高分子化合物)等に分類されることとなります。
 私の経験では、(CnHmXlkという化学式で示された化合物(n、m、lは整数、kがある一定の幅をもって分布している。)を第29類に分類していたメーカーがありましたが、分子量が同一ではない化合物は原則として第29類には分類されません

第29類に分類される化学的に単一でない物品

29類は化学的に単一の化合物に限るという原則には例外があり、これらの例外は次ような物品です。

  • ケトンペルオキシド(29.09)
  • アルデヒドの環式重合体及びパラホルムアルデヒド(29.12)
  • ラクトホスフェート(29.19)
  • レシチンその他のホスホアミノリピド(29.23)
  • 核酸及びその塩(29.34)、プロビタミン及びビタミン(コンセントレート及び相互の混合物を含む。)(溶媒に溶かしてあるかないかを問わない。)(29.36)
  • ホルモン(29.37)
  • グリコシド及びその誘導体(29.38)
  • 植物アルカロイド及びその誘導体(29.39)
  • 糖エーテル、糖アセタール及び糖エステル並びにこれらの塩(29.40)
  • 抗生物質(29.41)

 また、29.36項から29.39項及び29.41項には、ペグ(ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー)化誘導体も含まれます。これらの物品のペグ化誘導体は、ペグ化していないものと同一の項に分類されます。但し、29類の他のすべての項の物品のペグ化誘導体は、この類から除かれます(一般に39.07)。

29類注1(b) 異性体混合物の分類

 有機化合物の特徴は、同一の化学式・分子量を有していても、同一の化合物であるとは限らないことです。それは、同じ分子式であらわされる化合物でも、違う構造をしている「異性体」が存在するからです。
 異性体の混合物の分類に関しては、第29類注1(b)に次物品も第29類に分類される旨規定されています。

 同一の有機化合物の二以上の異性体の混合物(不純物を含有するかしないかを問わないものとし、飽和又は不飽和の非環式炭化水素にあっては、立体異性体以外の混合物(第27類参照)を除く。)

 この規定がどのような意味を持つのか見ていきましょう。
 異性体には、炭素や分子を構成するその他の元素の結合が異なっている構造異性体と、同一の骨格を持ち構造は等しいが立体配置や立体配座が異なる立体異性体の2つに分類されます。
 構造異性体には、官能基の異なる官能基異性、鎖状炭化水素の直鎖状構造と分鎖状構造の違いによる鎖形異性、官能基等の結合している位置が異なる位置異性体があります。
 上記の第29類注1(b)の適用については、第29類解説総説(A)に次のように解説されています。

 この規定は同一の官能基を有する化合物の混合物で、かつ、当該異性体が、自然状態で共存している場合又は同じ合成の過程で同時に得られる場合に限り適用する。

 従って、官能基異性体については異なった官能基を有する化合物であるので、HS分類上その混合物は第29類に分類されません。
 以上の規定は少し難しいと思いますので、下記に具体的な事例をまとめましたので参考にして下さい。

構造異性体

 構造異性体混合物のHSコードの事例は下記の通りとなります。

官能基異性体の混合物

 官能基の異なる異性体の混合物は第29類には分類されません
 (例)

飽和及び不飽和非環式炭化水素の連鎖異性体の混合物

 下記の2種類の化合物の混合物のように、飽和及び不飽和非環式炭化水素の連鎖異性体の混合物は第29.01項には分類されず、第27.10項又は第27.11項に分類されます

環式炭化水素の置換基の位置異性体混合物

 環式炭化水素の置換基の位置異性体の混合物は第29類に分類されます。ただし、当該異性体が、自然状態で共存している場合又は同じ合成の過程で同時に得られる場合に限ります。
   例:混合キシレン(2902.44号)、下記異性体の混合物

ピネンの事例

 第29類の国内分類例規にピネンの分類についての規定があります。
 ピネンは松脂や松精油の主成分で、多くの針葉樹の精油にも含まれています。これらの針葉樹から得られる第38.05項に分類されるテレピン油の主成分です。ピネンには、α-ピネンとβ-ピネンの構造異性体があります。天然にはこれらの異性体の混合物として広く存在しますが、その割合は植物により異なるようです。
 国内分類例規では、95%以上の純度を有するα-ピネンは化学的に単一な化合物として2902.90項に分類分類しています。
 α-ピネンとβーピネンの混合物であるテレピン油は第38.05項に分類しています。
 テルペンは、(CH)で表される化学式を有しています。さらに、アルコールやケトン等の様々な形のテルペン化合物が存在します。
 テルペンの化学構造は多くの形があり、同一の化学式で表される場合にも別種の化合物として知られている場合が多数あります。テルペン類の化合物の混合物が化学的に単一かどうかは、この分類例規のように判断が難しい場合も考えられます。

立体異性体

 立体異性体は、同じ構造を持つ異性体のうち、立体的な配置が異なる異性体のことをいい、これらの混合物は第29類に分類されます。

幾何異性体(ジアステレオマー)

例:不飽和炭化水素のシス・トランス異性体
炭素と炭素の二重結合をしている部分は平面に固定され、自由に動くことができないので、下記の例では、2つのメチル基が左の例では両方が上にありますが、右の事例では片方が下にあります。

光学異性体(エナンチオマー)

左手と右手のように、形は同一であるが、左右対称の化合物です。
 例:2-ブロモブタン

第29類注1(c) 天然由来有機化合物の分類

 「化学的に単一であるかないかを問わない」と規定されていなくても、天然由来の有機化合物であるビタミン、ホルモン、グリコシド、アルカロイド等の第29.36項から第29.39項までの物質、29.40項の糖エーテル等、第29.41項の抗生物質は必ずしも単一の化合物でなくてもそれらの項に分類されることがありますので注意が必要です。
 第29.39項のアルカロイドについては、アルカロイドの天然混合物(例えば、ベラトリン、あへんの総アルカロイド)は含まれますが、アルカロイドを人為的に混合したもの又は調製品を含まないこととなっています。
 各項における具体的な取扱いは税関ホームページの「関税率表解説」をご参照ください。 

「不純物を含有するかしないかを問わない」の数値基準

 「化学的に単一の有機化合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)」ということは、具体的な基準がないと、どの程度の不純物が許容されるのか中々判断に迷うことがあります。第29類の有機化合物の中には、精製度合いにより他の類に分類される物品と第29類に分類される物品について数値基準が設けられているものがあります。

炭化水素

 非環式炭化水素(29.01)と液化石油ガス(27.11)

 石油ガス(液化石油ガスを含む。)は、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、ブテン及びブタジエンについては純度基準が定められています。(下表参照)
 なお、メタン及びプロパンは化学的に単一なものも第27.11項に分類されます。

芳香族炭化水素(29.02)、フェノール(29.07)、ピリジン(29.33)と高温コールタールの蒸留物及びこれに類する部品(27.07)

 芳香族化合物の中で、第29類に属するか否かについて、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、フェノール、クレゾール、キシレノール、ピリジン、メチルピリジン(ピコリン)、5-エチル-2-メチルピリジン(5-エチル-2-ピコリン)及び2-ビニルピリジについては数値基準が定められています。(下表参照)

豚脂とステアリン酸及びグリセリン

 豚脂からステアリン酸を製造する工程を考えます。豚脂は第15.01項に分類されます。豚脂を結晶化させ、ラードステアリン(第15.03項)を得ます。ラードステアリンを加水分解すると粗製の工業用ステアリン酸(第3823.11号)及びグリセリン(第15.20項)が得られます。
 粗製のステアリン酸を精製するとステアリン酸(第 2915.70 号)と副生物としてパルミチン酸(第 2915.70 号)が得られます。両者ともに第 2915.70 号に分類されるための条件が純度が90%以上ということが、関税率表解説に記載されています。
 粗製のグリセリンを精製するとグリセリン(第 2905.45 号)が得られます。グリセリンが第 2905.45 号に分類されるための条件は純度95%以上となります。ステアリン酸、パルミチン酸の条件とは異なることにご留意ください。
 なぜ、純度条件が異なるかについては、精製の容易さ、市場に流通している商品の純度が考慮されているものと思います。従って、有機化学品が29類に分類されるか、それとも他の類に分類されるかは、個別の化学品毎に検討していくことになります。

数値基準のまとめ

 上記の数値基準をまとめると、以下の表になります。

保存、輸送のための処理

第28類の場合と同様に、第29類の物品についても、水溶液については、第29類に分類されます。
また、保存・輸送に適する処理を行った次のような物品も第29類に分類されます。

  • 水以外の溶媒に溶かしたもの(当該溶媒に溶かすことが安全又は輸送のため通常行われ、かつ、必要な場合のみ第29類に分類される。通常、水以外の溶媒に溶かした場合は第29類には分類されない。)
  • 保存又は輸送のために必要な安定剤(固結防止剤を含む。)を加えたもの
  • アンチダスティング剤又は識別を容易にするため若しくは安全のための着色料若しくは香気性物質を加えたもの(特定の用途に適するようにしたものを除く。)

 さらに、ジアゾニウム塩及びそのカップリング成分並びにジアゾ化することができるアミン及びその塩で、アゾ染料生成用のもののうち標準的な濃度にしたものについても、第29類(29.21項~29.27項)に分類されることが規定されています。

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