HS品目表には独特の表現・用語が使用されているところがあります。このような独特の表現を理解しておくことは、関税分類(貨物にHSコードを付けていくこと)を正確に行う上で必要です。このようなHS品目表独特の用語や関税分類を行う上で心得ておくと便利な技法について解説していきます。
目次
HS品目表の英文を見る
カタカナ表記の産品はイギリス英語の意味を調べる
カタカナにした日本語は英語と微妙にニュアンスがずれている場合があります。HS品目表の正文は英語(イギリス英語)及びフランス語ですので、世界的に通用するのはカタカナの日本語ではなく、英語の表記となります。カタカナの日本語と英語の表記で異なる意味にとられる可能性がある産品については、英語の言葉の範囲を確認しておくことも必要です。その際、HS品目表はイギリス英語であることを忘れてはなりません。和製英語は勿論、特に米語由来のカタカナで判断すると間違えることがあるので注意しましょう。
HS品目表の英文の規定は、関税協会発行の実行関税率表及び輸出統計品目表に記載があります。もし、これらの書籍が手元にない場合は、WCO(世界税関機構)のサイトで、英文及びフランス語のHS品目表が掲載されていますので、ご参照ください。
男性用の上着と女性用下着のショーツのHS番号が一緒?
例えば、第61.03項は、「男子用のスーツ、アンサンブル、ジャケット、ブレザー、ズボン、胸当てズボン、半ズボン及びショーツ」となっています。男子用の外衣が分類される項です。
米語では「shorts」は男性用の下着のパンツのことを指すことがあるようです(研究社英和中辞典)し、このところ日本では女性の下着のパンティーのことを「ショーツ」と言うようです。しかし、イギリス英語では、「shorts」は半ズボン、運動パンツのことで、あくまでも外衣で、男性用も女性用もあります。
関税率表解説には、「「ショーツ」とは、ひざを覆わないズボンをいう。」と明記されています。
特に衣類の分野では、同じ英語でもイギリス英語と米語で意味が異なる場合、さらに米語等をカタカナにした日本語は、米英とは異なる意味となっている場合があるので注意しましょう。
長い項のテキストは英語をみる
項のテキストの中には非常に長く、どこでどう文章が切れいているのか分かりにくい場合があります。法律の専門家は分かるのかもしれませんが、一般の人には分かりにくい場合があります。
例えば、第25.17項のテキストは以下のようになっています。
小石、砂利及び砕石(コンクリート用、道路舗装用又は鉄道用その他のバラスト用に通常供するものに限るものとし、熱処理をしてあるかないかを問わない。)、シングル及びフリント(熱処理をしてあるかないかを問わない。)並びにスラグ、ドロスその他これらに類する工業廃棄物から成るマカダム(小石、砂利、砕石、シングル又はフリントを混入してあるかないかを問わない。)及びタールマカダム並びに第25.15 項又は第25.16 項の岩石の粒、破片及び粉(熱処理をしてあるかないかを問わない。)
さて、第25類の物品は、第25類注1の規定により、文脈により別に解釈される場合を除くほか、焼いたものは含まないこととされています。上記の規定で、「熱処理をしてあるかないかを問わない。」と書かれている箇所がありますが、第25.17項の物品は全て熱処理を行ったものでも分類されるのでしょうか?それとも、熱処理をしていると第25.17項に含まれない物品はあるでしょうか?
日本語では、法学の素養なある人以外、このような長い文章の繋がりを正確に掴むことは困難なのではないかと思います。私は、このような長文の項の規定を見るときは必ず英文を参照します。
第25.17項の英文は以下のようになっています。
Pebbles, gravel, broken or crushed stone, of a kind commonly used for concrete aggregates, for road metalling or for railway or other ballast, shingle and flint, whether or not heat-treated; macadam of slag, dross or similar industrial waste, whether or not incorporating the materials cited in the first part of the heading; tarred macadam; granules, chippings and powder, of stones of heading 25.15 or 25.16, whether or not heat-treated.
ここで大事なのはセミコロン(;)の場所です。また、英語の方が文章の重複がなく、すっきりしています。セミコロンにより文章は完全に分離されているので、第25.17項は下の4つの部分に分かれていることが分かります。
- 小石、砂利及び砕石(コンクリート用、道路舗装用又は鉄道用その他のバラスト用に通常供するものに限るものとし、熱処理をしてあるかないかを問わない。)、シングル及びフリント(熱処理をしてあるかないかを問わない。)
⇒ 「熱処理をしてあるかないかを問わない。」という言葉が日本語では2回繰り返されているが、英語では1か所のみ。 - スラグ、ドロスその他これらに類する工業廃棄物から成るマカダム(小石、砂利、砕石、シングル又はフリントを混入してあるかないかを問わない。)
- タールマカダム
- 第25.15 項又は第25.16 項の岩石の粒、破片及び粉(熱処理をしてあるかないかを問わない。)
このように、セミコロンでテキストを分解して考えてみると一目瞭然です。
熱処理していても第25.17項に含まれるのは、この項のテキストの最初と最後の、小石、砂利、砕石、シングル、フリント及び第25.15 項又は第25.16 項の岩石の粒、破片、粉です。
マカダム及びタールマカダムを熱処理したものは第25.17項には含まれないことが分かります。
関税分類(HS)の用語解説
「この表において」と「この部(類)において」
「この表において」
第39類注1には、「この表において「プラスチック」とは、(中略)できるものをいう。」とあります。この場合、このプラスチックの定義は、第39類ばかりではなく、HS品目表全てにおいて、「プラスチック」という言葉が使用されている箇所全てに当てはまることを示しています。
「この表において」という言葉は、物品が分類される範囲を明確にするために設けられているもので、第39類注1「プラスチック」のほか、第1部注2「乾燥した物品」、第5類注3及び注4、第40類注1「ゴム」、第41類「コンポジションレザー」、第43類注3「毛皮」、第51類注「羊毛」、「繊獣毛」、「租獣毛」、第54類「人造繊維」、第71類「貴金属を張った金属」、第15部注4「サーメット」、注6「卑金属」等において使用されています。
「この部において」、「この類において」
一方、「この部において」、「この類において」とあるところは、該当する部、類においてのみ有効な定義で、他の部、類では異なる意味を持つことがあることを示しています。
例えば、「ペレット」という言葉について、第3類注2においては、
この類において、「ペレット」とは、直接圧縮すること又は少量の結合剤を加えることにより固めた物品をいう。
となっていますが、第2部注1及び第4部注1では、
この部において「ペレット」とは、直接圧縮すること又は全重量の3%以下の結合剤を加え
ることにより固めた物品をいう。
となっています。また、HS品目表については、他の類でも「ペレット」という言葉が出てきますが、その際は上記の規定に縛られることはありません。
品目表で同じ言葉を使用していても使用されている箇所で定義が異なることがあるので注意が必要です。
「文脈により別に解釈される場合を除くほか」
HS品目表の部注、類注では、「文脈により別に解釈される場合を除くほか(except where the context oterwise requires)」という言葉がよく出てきます。
部注、類注に反する規定が項のテキスト等にあった場合、その項のテキスト等の規定が優先されることを表しています。
例えば、第1部注1には、「この部の属又は種の動物には、文脈により別に解釈される場合を除くほか、当該属又は種の未成熟の動物を含む。」とあります。第02.01項の「牛の肉(生鮮のもの及び冷蔵したものに限る。)」には、大人の牛の肉も子牛の肉も分類されます。ところが、第0204.10号は「子羊の枝肉及び半丸枝肉(生鮮のもの及び冷蔵したものに限る。)」とありますので、子羊の肉しか分類されません。一方、第0204.21号から第0204.23号は「その他の羊の肉(生鮮のもの及び冷蔵したものに限る。)」とありますので、子羊の肉は分類されません。
また、第29類注1には、「この類には、文脈により別に解釈される場合を除くほか、次の物品のみを除く。」として「(a) 化学的に単一の有機化合物(不純物を含有するかしないかを問わない。)」となていますが、第29.34項には「核酸及びその塩(化学的に単一であるかどうかを問わない。)」となっています。このことから、第29.34項の核酸及びその塩は、第29類の注1の例外として、化学的に単一でない物品も含まれることとなります。
「他の項に該当するものを除く」と「その他の~」
「他の項に該当するものを除く」
HS品目表には、「××××(他の項に該当するものを除く。)」というテキストが出てきます。英語では、「not elsewhere specified or included」と表記されます。
例えば、第12.12項の最後に「主として食用に供する果実の核及び仁その他の植物性生産品(他の項に該当するものを除く。)」とあります。食用の植物及びその部分は、第7類の野菜から第12類の第12.01項から第12.12項までに分類されていますが、第12.12項にはこれらの項のどれにも分類されない食用の植物が分類されるることとなります。
同様な表現は、第21.06項「調製食料品(他の項に該当するものを除く。)」、第25.30項「鉱物(他の項に該当するものを除く。)」、第38.24項「化学工業において生産される化学品及び調製品((他の項に該当するものを除く。)」、第68.15項「石その他の鉱物性材料の製品((他の項に該当するものを除く。)」などにもあります。
これらの項は、一連のカテゴリーの物品の中で他の項に該当しない物品をまとめて分類していることから、「バスケット項」と呼ばれることもあります。バスケット項のうち、他の類の同じカテゴリーの物品も対象としている場合に、「他の項に該当するものを除く」と使用されています。
同様の表現としては、第84.79項、第85.43項、第90.31項に「この類の他の項に該当するものを除く。」があります。
「その他の~」
バスケット項のもう一つの形は、「その他の~」と表現されている項です。この場合は、一連のカテゴリーの物品が同じ類の中にあります。
例えば、8類の中では、第08.02項に「その他のナット」が出てきます。第08.01項に「ココやしの実(coconuts)、ブラジルナット及びカシューナット」が分類されるので、第08.02項がナッツ類のバスケット項になります。また、第08.03項から果実が分類されますが、第08.10項に「その他の果実」があり、第08.10項が果実類のバスケット項になります。
また、第73.26項「その他の鉄鋼製品」のように、類全体の製品に対するバスケット項にも、「その他の~」という表現が使用されています。
号(6桁分類)における「その他のもの」
項(4桁)の細分に「その他のもの」を分類する号(6桁)がたくさんあります。この際、項(第XX.XX項)の範囲は予め決まっているので、その項に分類されることが決定したら、当該号の特定の細分(例えば、第XXXX.AA号及び第XXXX.BB号))に該当しなければ、自動的に「その他のもの(第XXXX.ZZ号)」に分類されることになります。
調製品(Preparations)と調整品
以前、関税分類が話題となった際に新聞に「調整食料品」という言葉が書かれていたことがありました。しかし、我が国の関税率表には「調整食料品」という言葉はありません。
HS品目表では、「調製したマスタード」、「調製食料品」、「調製潤滑剤」、「消火器用の調製品」等、「調製」という言葉を使用します。
「調製品」は「preparations」を訳した言葉です。「prepare」には、(食品を)調理する、(薬等を)調合するという意味があります。「preparations」はその名詞ですので、調製して作られた物品という意味があります。
日本語で「調製」は、「ととのえ作ること。規則や注文の通りに作ること。」( 三省堂 大辞林 第三版)とあります。
HS品目表にあるのは、何かの成分を「調整」して作られた「調整食料品」ではなく、レシピに沿って作られた「調製食料品」ですので、間違えないようにお願いします。
「~に使用する種類の調製品」
物品の用途による分類は行わない、というのが関税分類(HS)の原則の一つです。輸出時あるいは輸入時の形状、性状、成分等によりHS番号が決定され、「ABC用である。」、「DEF用である。」といった用途によっては判断しないということです。
これは、輸出入申告の際に「ABC用である。」、「DEF用である。」という申告が行われても、その通りに使用されるか否かの検証を行うことが一般に困難と思われること、そして、こちらの方がより重要ですが、同一の物品に対して用途によって異なった分類を行うと分類の不統一が生じるためです。
とはいっても、「ABC用」にのみ適するような調製を行った物品は多数存在します。例えば、33.07項のように、「ひげそり前用、ひげそり用又はひげそり後用の調製品」というように直接的な表現の項のテキストもあります。一方、特定用途にのみ適する調整を行った物品を分類するためのHS品目表独特の表現が「~に使用する種類の調製品(preparations of a kind used as ~)」です。このようなテキスト又は類似したテキストを含む項は、「第6部(化学工業(類似の工業を含む。)の生産品)」に出てきます。
第32.10項「革の仕上げに使用する調製水性顔料」、第38.10項「溶接用の電極又は溶接棒のしん又は被覆に使用する種類の調製品」等です。
また、第38.09項は「仕上剤、促染剤、媒染剤その他の物品及び調製品(繊維工業、製紙工業、皮革工業その他これらに類する工業において使用する種類のものに限るものとし、他の項に該当するものを除く。)」となっており、同項の関税率表解説には、「このような物品及び調製品(例えば、織物柔軟剤)は、工業用としてよりもむしろ家庭用として使用するものであっても、この項に含まれる。」とされています。必ずしも用途が工業用に限定されていないことから、「~工業に使用する調製品」ではなく、「~工業において使用する種類の調製品」となっていることが分かります。
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